第34話 彼女達のサッカー道(袋詰めする方)は、まだ始まったばかり――!
突然、頓智気な部活動の設立を告げられた栄海奈子は――更には入部させられようとしている。
もはやサッカー業界(袋詰めする方の)では名が知れてしまっているだろう彼女が、痛む頭を片手で押さえていると、コーチたる晃一が気遣うように声をかけた。
「奈子、そういえば……連絡が遅くなって、すまなかったな。今日まで連絡できなかったのも、部活動設立の手続きで忙しかったからだ。だが安心してくれ、サッカー部(袋詰めする方の)が正式にスタートを切れば、これからは放課後も行動を共にできるぞ!」
「私の頭痛の種を更に増やそう、っていう話ですか?」
「フッ、さて、これから忙しくなりそうだな……全国の頂点を目指す部活動としては、やはり顧問の教師は必要だろう。奈子と氷雨は恐らくトップクラスの実力を持つサッカー選手(袋詰めする方の)だが、二人だけでは心もとない……更なる部員の増加、つまり戦力強化を図る必要があるな!」
「この高校で、とんでもねぇ陰謀が渦巻こうとしてるんですね。これから巻き込まれるかもしれない人々に、同情と共感を禁じ得ませんよ」
「無論、奈子と氷雨も、更なるパワーアップが求められるだろう。世界は広い、今のままで勝ち抜けるほど、サッカーというスポーツ(袋詰めする方)は甘くないのだからな! 俺のコーチングは厳しいぞ、ついてくる覚悟はあるか!?」
「だから一回もコーチング受けてないんですよ。何ならルールすらコーチさんからは何一つ教わってねぇ。何でもいいから、一つでも教えてから言ってくださいよ」
「ふむ。……八極拳か形意拳、やってみるか?」
「サッカー関係ないだろ(袋詰めする方も球技の方も)」
奈子が峻厳なるツッコミを即座に繰り出し続けると、晃一は「フフッ!」と言ったので、奈子ちゃんは彼を殴っちゃおうかなと思ったみたいです♡
それはさておき、部活動の発足と拡大を唱える晃一の言葉に、氷雨が嬉しそうに表情を綻ばせつつ奈子へ語りかける。
「これから放課後は、一緒に……っ、そ、それ……アタシ、嬉しいかも! あっ、もちろん遊びのつもりはないけれど……でも、奈子と一緒なら、コーチの厳しくも恐るべきコーチングにだって、耐えられる気がするわっ!」
「! 氷雨さん……そうですね、私も氷雨さんと一緒の時間が増えるという、そこに……そ・こ・に! 関しては、素直に嬉しいですっ♪」
「え? で、でも奈子……サッカー(袋詰めする方)の特訓とか、コーチのコーチングとかは……?」
「氷雨さん氷雨さん、想像してみてください。学校帰りにちょっと寄り道しちゃったり、コンビニに寄って肉まんやピザまんなんか買って分け合ったり……喫茶店でちょっと一息お茶しちゃったり、とかも良いですね♪ あっそういえば、氷雨さんは成績優秀だとか……お勉強会とかも楽しそうです♪ 分からないとことか、教えて欲しいなぁ……♪」
「な、なによそれっ! そんなのっ……楽しそうすぎて、想像するのが怖くなっちゃうじゃないの……♡」
「よしよし、この調子ですね……もう一押しか二押し、というところでしょうか……焦らずじっくりと、コミュニケーションに慣れて頂きましょう~……」
《サッカーの女王》もしかして《氷結女帝》を洗脳しようとしてない?
と、二人して盛り上がる女子陣に、フッ、と晃一が口を挟む。
「おいおい、仲が良いのは助かる、とは言ったが……俺のことも忘れてもらっては困るぞ! 何しろ俺は、キミ達のコーチなのだからな! なあ、奈子!」
「…………」
「ヘイヘイ奈子どうしたどうした~元気を出していくぞ~!? さあ氷雨、もちろんキミもサッカー部(袋詰めする方)の一員として、俺が改めてコーチングするからな! 以前より、更に気合入れていくぞ!」
「あっ……も、もちろんよコーチ! え、えいえい、おーっ」
「ダメですよ氷雨さん、下手に構うからつけあがるんです。特にああいう、何とも言えないテンションの時は、黙ってスルーするのに限りますよ」
「え、ええっ? でも……う~ん、奈子が言うなら、そうなのかも……?」
「そうですそうです、さすが氷雨さん、私の親友です♡」
「親友! じゃあ、そうかな……そうかも……」
教え子の一人、氷雨の中で〝親友(奈子)>コーチ〟の図式が成り立ちそうなのだが、大丈夫だろうか。
発足前から既に色々な意味で不安いっぱいのサッカー部(袋詰めする方)だが――はっ、と氷雨が思い出したように声を上げる。
「あっ! というかアタシ、まだ色々と転入の手続きをしないといけないんだったわ……職員室が閉まる前に、終わらせてくるわね」
「あっ、そうなんですね……はい、わかりました。それじゃ終わったら、途中まで一緒に帰りましょう。校門で待ってますね~」
「う、うん! 友達と待ち合わせ……え、えへへ……いってきま~すっ♪」
(やっぱ色々と心配だな……せっかく一緒のクラスになるんだし、コミュニケーションを培っていこう……佐々原さんとか、仲良くしてくれそうだし)
空き教室を飛び出していく氷雨を見送り、奈子は今後のことを考えつつ、うんうん、と頷く。
……さて、突発的にではあるが、こうして。
「ふむ、なら俺も、一緒に待つとするか」
「あ。……あ、ええ。そ……そう、ですね……コーチさん」
色々と落ち着いた今となって、夕陽の赤さに染まる部屋で――奈子と晃一は、改めて二人きりになった。




