第32話 今、恐るべき部活動が、この高校に誕生しようとしている――!
今、あまりにも感動的な再会(三日ぶり)を果たしたコーチと教え子――即ち木郷晃一と栄海奈子が、向かい合っている。
しかし喜ぶべき再会に反して、奈子の表情は少しばかり憤っていた。ツンデレなのかもしれない、思春期だからね、仕方ないね。
ちなみにスマホを構えて通報の準備は万端だ。
「それで……コーチさんが、なぜこんな所にいるんですか? しかも私に、こんな手紙を……内容は差出人の名前と、この空き教室の場所だけ指定して、って……もちろん、ちゃんと説明はあるんですよね?」
「フッ、もちろんだ……ところで奈子、スマホを構えるのはやめないか――」
「質問に答えろ」
「はい、わかりました」
教え子の健気な問いに、素直に従う晃一は誠、コーチの鑑である。
だがその前に、一つだけ訂正しておくべきことがあると、晃一は口を開いた。
「奈子、まずこれだけは言っておかねばならないが――俺は部外者ではない、だから不法侵入という訳ではないぞ」
「……へ? あ、そ、そうなんですか? 知らなかったけど……もしかして先生とかです? いやでも、一度も見たことないと思いますけど……私、一度でも見たら覚えてるはずですし。あっ、じゃあ用務員さんとか――」
「三年生だ」
「は?」
良く聞こえなかったのか、顔中に疑問符を浮かべる奈子に。
晃一は、今一度、はっきりと告げた。
「俺は、この高校の――三年生だ」
「…………」
暫く、時が止まったかのような、沈黙。
ややあって、ようやく奈子の口から、言葉が飛び出した。
「……は、は……はいーーーーっ!? じょ、冗談ですよね!?」
「? いや、こんなことで冗談など言わない。それに見ろ、俺は今日ずっと、この高校の制服を着ているのだが」
「え。……うっわホントだ似合わない!? 違和感ありすぎて脳が気付くのを拒否してた!? いえ、っていうか……コーチとか言って、なんか顔つきも熟練な感じがして(傷もあるし!)、雰囲気だけなら異様に渋いのに!?」
「……ふ、フッ。そ、そんなに褒められると……照れるぞ?」
「褒めてねぇー! ……いえ、ていうか、ん……?」
ふと奈子が思い出すのは、とある中学生――《色欲の大罪》ことイロカ。
(※さりげに彼女とも連絡先を交換している)
ビジュアルのみならず雰囲気もやけに艶っぽい、そんな彼女が中学生だったというショックがいまだに尾を引いている奈子が、恐る恐る尋ねた。
「……あ、あのー、もしかしてサッカーに……袋詰めする方のですね? 関わってると、歳をとるのが早くなっちゃう、とかあります? もしそうだとしたら、今すぐサッカー……袋詰めする方のコレから離れたいんですけど」
「いや、そんな面白い現象は聞いたことがないぞ。氷雨なんかもサッカー(袋詰めする方)を続けて長いが、年相応だろう? ハハハ、奈子は突飛な発想をするな♪」
「コーチさんに突飛とか言われるとすごい腹立つな。今度こそグーでいこうかな。って氷雨さんは、まあ確かに……いえよくよく考えれば、氷雨さんの正確な年齢とかまだ聞いてませんよ。今なら実年齢はすごく若かった、って言われても納得しちゃうな……怖い……」
「フッ、女性に簡単に歳は聞かないとは、さすがの心配りだな。だが安心すると良い、氷雨は――」
「ん? あ……ちょっと待ってください、スマホにメッセージが……あ、ちょうど氷雨さんからだ。……ん? え、ちょ……へっ?」
まだ構えていたスマホを確認した奈子が、何やら戸惑っている。その間に――廊下から駆ける足音が響き、立て続けに扉が勢いよく開かれた。
「――奈子! 晃一! 久しぶりねっ!(三日ぶり)」
「えっ、ひ……氷雨さん!? な、なんでここに!?」
「転校してきた!」
「そんな軽はずみに!? 大丈夫なんですか色々と!?」
当然だが心配する奈子に、答えたのは晃一だった。
「まあ氷雨は学業でも成績優秀だし……両親は超が付くほどの資産家だからな。金銭面でも特に心配は無さそうだぞ。そもそも同じ町内だし、だから引っ越しとかもしていないらしいし」
「大金持ちだったんですね!? そんな無理を簡単に通せるって、それはそれで氷雨さんもスゴイですけども!」
「お金持ちなのは両親だから、スゴイのはアタシではないんだけど……といっても、さすがに手続きとかはあるから、正式に転入するのは休み明けの来週月曜日を予定しているわ。今日は書類とかの提出に来たのと……な、奈子と晃一に顔見せに来た、っていうか……」
そこで少しだけ、もじもじとした氷雨が俯きがちに、頬を赤らめて視線だけ奈子に向けながら言った。
「あ、あとね、奈子と同じクラスに転入させてもらえるようにしたから……ちょ、ちょっと気が早いけれど……クラスメイトとしても、よろしく、ね?」
「えっ、そうなんですか? ……色々とツッコミたいことはあります、ありますけど……そこは素直に嬉しいです♪ こちらこそよろしくお願いします、氷雨さん!」
「! え、ええっ。よろしくね、奈子っ!」
奈子の好意的な反応を受け、氷雨が表情を明るくし、嬉しそうに答える。
……が、晃一は失笑しながらも、本題を提示しようとした。
「フッ、仲が良いのは助かる、今後のためにも、な。だが……奈子、キミを呼び出した用件は、何も交流を深めるためだけではない。本命は、ここからだ……もちろん氷雨にも関係ある、サッカー(袋詰めする方)の話だぞ!」
「あっそうだ氷雨さん、時間があるなら、一緒に帰ってお茶でもしませんか? 色々とお喋りでもしましょう♪」
「えっ、ホント? 超友達っぽい……うん、する……♡」
「ヘイヘイ奈子~ッ氷雨~ッ! コーチの話を聞け~ッ! 大事な話があるぞ~ッ聞いたら絶対ビックリするぞヘイヘーイッ!」
「チッ、うるさいですね……何なんですか、チッ」
「オイオイ舌打ち~ッ! さすが《サッカーの女王》の闘争心~ッ!」
キャラがさぁ。
まあそれはそれとして、晃一が腕組みしながら、もったいぶったように言った。
「フッ……この近辺では、恐らく前代未聞。覚悟はいいか? この話を聞いた瞬間、恐らくキミの運命は大きく変わるであろう――」
「じゃあ聞かないように急いで帰らないと。お疲れ様でした――」
「――サッカー部をォ! この高校にサッカー部を設立する――
初のサッカー(袋詰めする方の)部をなァァァァ!!」
「…………」
やや急いで放たれた、晃一によるとんでもない宣言――!!
それを受けた奈子は、恐らく感銘を受けているのだろう、ふるふると肩を震わせて――
「――いやサッカー部もうありますから! 球技の方の! そんなややっこしい部が出来たら混乱しちゃうでしょ!? サッカー部にまで迷惑かかるからやめてくださいよ、球技の方の! ……いやさっきから球技の方のって何ですか、そっちのが正式だろが!!」
「おお、奈子……喜びに興奮が収まらないようだな、わかるぞ!」
「話を聞け、ちゃんと! ていうか今後、新入生の子とか間違えて袋詰めする方のに入っちゃったらどうすんですか!? 〝えっ、袋詰めする方のってなに? えっ……ええ……?〟って絶望しちゃうでしょ絶対!」
「安心しろ――この高校の校長は、生粋のサッカー(袋詰めする方の)フリーク! 部活動の設立を、むしろ喝采して喜んでくれたぞ!」
「全く安心できないんですよ、知らなかったわ校長がそんな変人だなんて! 明日から……いえ今この瞬間から、校長を見る目が変わっちゃいましたよ私!?」
「それにな、奈子……この競技は間違いなく、将来的に一大競技として確立するぞ! さすれば誰もが〝袋詰めする方の〟とわざわざ付けずとも、こちらのサッカーを連想するようになるだろう!」
「よりややこしくなるビジョンしか見えない! そもそも球技の方は既にしっかり確立してて世界トップクラスの人気競技ですし! ていうか、袋詰め変人バトルがそんな大々的になってたまるかーっ!」
「ふっ……大々的になってたまるか、と? フフッ、奈子! フフフッ、奈子!! これを見ても、まだそんなことが言えるかな……?」
「私を変な感じで呼ぶのやめろって言ってますよね? ……っていうか、これを見ても、って……一体、何を……」
奇特かつ胡乱な者を見る目の奈子にはすぐに答えず、晃一は一枚のDVDを取り出し、設置されていたレコーダーに挿入する。
既に電源が入っていたらしいテレビは、読み込みを反映し始めた。
そして、そこに映されていたのは――




