第18話 (1/3)決勝戦、開始――《氷結女帝》の恐るべき異能――!
審判が、ついに吹き鳴らしたホイッスルを合図に――決勝戦は、既に開始されている。
ここまで《鉄壁の守護者》と《暴威の大嵐》を倒した奈子は、されど不可解なことに、その戦闘スタイルが全く知られていない。
なぜだろう、対戦相手がやたらと騒がしくてそちらにばかり注目がいっていたせいかな? 全然わかんないです。
だが、いやだからこそ逆に、栄海奈子のサッカー選手(袋詰めする方の)としての実力を見極めるべく、観客たちの注目が集まる――が、どうも雰囲気がおかしい。
『!? お、おい……栄海奈子選手、商品をサッカー台には運んだけど……』
『そこから、全然動かないぞ……まるで、何か悩んでるみたいに……』
『このままじゃ、運んだ冷凍食品が溶け始めて型崩れしたりして、どんどん不利になっちまうぞ……どうしたんだ、一体!?』
『くそっ、動かないサッカー選手なんて、そんなっ……あとはもう可愛いくらいしか見所がないじゃねーかっ! ありがとうございますッ!』
『イイよね……』『イイ……』
口々に洩れるのは、多数の戸惑いの声。
だが、そんな観客たちの中から、サッカー(袋詰めする方)観戦の玄人の一人が、あまりにも冴えた推測を口にする。
『いや、もしかするとこれは――《氷結女帝》の何らかの力が作用して、文字通り対戦相手を氷結させているのではなかろうか――?』
『! そ、そんなことは……有り得るッ! この生き馬の目を抜く、恐るべきサッカー(袋詰めする方)の世界……何が起こってもおかしくない……!』
『《氷結女帝》の実力は、とうとう次のステージに……不覚ながら拙僧、テンション上がってきましたぞォーーー!』
「? ??」
とうとう次のステージに到達したらしい氷雨は「?」と首を傾げてキョトンとしているが、されど袋詰めの手を止めることはなく、その実力を解放する。
「ふんっ……栄海奈子、このアタシを無視したばかりか、試合中までボーっとしていること、後悔させてあげる――見なさい、このアタシのサッカー(袋詰めする方)を――これが《氷結女帝》のプレイスタイルよ――」
先ほどまでの憤怒はどこへやら、今や氷雨の眼に宿るのは、凍えるような冷たい輝き。切れ長の目が、氷の刃の如く鋭く光った。
「ふう――さあ、行くわよ――まずは、コレ――次は、コレ――」
それは、流麗にして、緩やか――されど淡々と、まるで感情なき機械の如く、繰り返される作業。
固い商品はレジ袋の底へ、軽いものは後に、崩れやすければ他の商品との接触を出来る限り最小限にする。
そんな、当たり前のことを、ただひたすら、静かに、淡々と――
氷雨の怜悧な美貌も相まって、無機質なまでの袋詰めは、凍てつく凍土のような印象さえ与え――思わず観客が呻いた。
『ウウッ!? くっ、な、なんだ、どうしちまったんだっ……手が、まるでかじかむように冷たくなってッ……!?』
『大丈夫? 冷え性?』
『バッキャロイッ! これはきっと、あの《氷結女帝》の冷徹なまでの手際が生み出す冷気の影響ッ……くそっ、アイスを持つ手が凍えるようだぜっ!?』
そう、これこそが、《氷結女帝》のサッカー(袋詰めする方)におけるプレイスタイル――残酷なまでに、冷酷なまでに、ただ商品を、合理的にレジ袋へ詰めていく。
これが霧崎氷雨――《氷結女帝》の恐るべき実力――!
……あるいは、ここまで勝ち上がってきた栄海奈子であれば。
〝いえそれ、普通のことですからね……〟
〝そもそも、ここまでの他の人達が変なだけですから〟
などとツッコむかもしれない。未来の《サッカーの女王》は、そういうとこある。
だが、ない――ないのだ、ツッコミが、ない――
何と栄海奈子は、この決勝戦の大舞台という局面においてさえ、懊悩に答えが出ていないのだから。
(コーチさんが、コーチでなかったら……? はっきり言って変な人、それは間違いない、ええ間違いないですとも。でも、う~ん……嫌いか、って言われると……いや~別に、そこまででも……多分、悪い人じゃない、と思いますし……出会ってまだ二日か三日目? くらいですけど。……ん? じゃあ……)
奈子の頭によぎった自問は――〝じゃあ好きなの?〟という――
(そっ――んなわけないですからっ! あんな変な人、ないない、ないですっ! そうですよ、ちょくちょくイラッと来ますし、腹立ちますし! 〝フッ〟とか特に! ……いやでも、何でそんな腹立つ人に……私、結局こんな変な大会にまで参加して、ほとんど行動も一緒に……それが、何で、って……それは……)
栄海奈子は、思い出す。そもそも消極的で、内気で気弱、スポーツなんて部活にも入ったことはない、そんな自分が――こんな場所に来るなんて、本来ならありえないはずだ。
だけど。
ああ、だけど――あの日、あれほどまでに、強く、熱く、激しく、求められたことなど、奈子にはなかった。
だから、なのだろうか。
ほとんど唆されるように、魔が差したように、こんな所まで来た。
サッカー選手(袋詰めする方)を名乗る変な人々と出会わされ、試合までして、あまつさえ――この変な大会を勝ち上がり、決勝戦にまで出場している。
木郷晃一に――コーチに、今まで知らなかった〝新しい世界〟を教えられて――それが、奈子にとっては、どういう意味を持つのか――?
サッカー台の前でいまだに動かない、結論にまで到達しきれていない奈子に、観客たちからは諦観の声が溢れてくる。
『あーあ……やっぱダメみたいだな、今回も《氷結女帝》の一人舞台か……』
『いやいや初出場で決勝戦まできたんだし、栄海奈子選手も大したものですよ』
『まあこれで、霧崎氷雨選手の優勝は確定か――』
一方、今も冷淡に袋詰めを続ける対戦相手、霧崎氷雨もつまらなそうに言う。
「……ふんっ、やれやれね。結局、この程度なのかしら……アタシに手も足も出ない、そんな程度だなんて……ガッカリだわ」
「……ん? あ、試合中だっけ。……え、氷雨さん――」
今ようやく状況を把握したかのように、顔を上げる奈子に――氷雨が心底から落胆した声音で言い放った。
「この程度の実力で、サッカー選手を名乗ろうなんて――
コーチである晃一も、その教え子の奈子も、大したことないわね」
「――――!」
その、たった一言に――内気で気弱な奈子は、ぐっ、と拳を握り締める。
「――取り消してください――」
そして、その瞳に――燃え上がるような炎を宿した――!




