第一章 : レイさんがいない
翌朝6時頃、再び空間が揺らいだ。
家族はまだ寝ている時間だけれど、私はもう起きていた。
「よぉ。迎えに来たぜ。にしても何回見ても凄い家だな。」
中庭にはカイが立っていた。
「そう?笑 もう時間かぁ、早いなぁ。」
「そんなもんだぞ......なぁ、ウェルナ様からの提案だ。地球への帰宅を1カ月に1度にしないか?」
ウェルナ様からの提案ということは何か重大な理由でもあるのだろうか。
「1カ月に1回?別にいいけど、何故?」
「いや、ただ単にこれから忙しくなるからだ。それに、毎回世界を行き来するのも大変だろう。思った以上に事態が深刻なんだ。地球がとか言ってられなくなる可能性が高い。」
事態が深刻......か。
なら仕方ないのだろう。
「こんな急になってすまないな。お前が共鳴したあの件で、より分かったんだよ。事態の深刻さを。」
あぁ、なるほど。
共鳴した時に全世界に聞こえたって言ってたもんな。
「と、言うことらしいので、お母さん、お父さん、優羽。次会うのは1か月後になりそう。」
しれっと後ろの方で起きてきていた家族に声をかける。
「いつからバレてたの!?」
「えー、ドッキリする側には慣れてるはずなんだけどなぁ。」
「流石姉ちゃん。」
それぞれが思い思いの反応をして出てくる。
「まぁ、私たちもなんとかやっていくから大丈夫よ。自信もって世界救ってらっしゃい。」
そう言うお母さんの言葉に少し名残惜しくなる。
けれど、向こうではみんなが待っているのだから。
私はカイの元へ歩き出す。
「じゃあ、いってきます。」
「「「いってらっしゃい」」」
その言葉に安堵しつつ、カイと共に空間を通る。
私は光に包まれ、そして戻ってきた。
木の匂いに、静かな空気。
「おかえり~」
そう、レイさんの声がすると思っていた。
けれど、目の前で待っていたのはノクスとエドウィンだけだった。
「おかえり。」
『待っていたぞ。』
そう言ってくれる二人に、
「ただいま」
と答えながら辺りを見回す。
「レイさん、レイさんは?居ないの?」
私がいない間にレイさんに万が一でも起きてしまったんじゃないかと不安になり、必死の形相で二人に聞く。
「はぁ、心配するな。あいつもあいつでやることがあるだけだ。元の持ち場に帰ったんだよ。」
『伝言だ。またすぐ会えるから心配するな。だそうだ。』
2人の言葉に私は安堵する。
「よかったぁぁ。」
そう座り込む私にノクスが近づく。
『……異質な気配が近づいている。おそらく使節団がもう近いのだろう。気を緩めるな、より力をつけろ。』
「え?」
『強くなければこの世界ではやっていけないんだ。ギリギリまで鍛錬しろ。』
「……あー」
まぁそっか、そういう世界なんだもんな。
多分、女神さまの言う救ってほしい部分って、ここなんだろうと思う。
けれど、まずはこっちに順応してからでないとお尋ね者では世界を変えられない。
エドウィンが腕を組む。
「あと数日ってところだろう。あいつらは......本当に実力主義な奴らだ。気ぃ抜くなよ。」
そして数日間、レイさんがいなくても訓練は続いた。
ノクスとの連携、魔法の精度、基本的な身体の使い方。
そして、
「あぁ、気配が濃くなったな……来るぞ。」
『あくまで、誰ですか?スタンスを保て。そしてもてなせ。』
2人の言葉を合図に空気が変わる。
森の奥からずらずらと人がやってきた。
私はごく普通に生活しているように振舞った。
「発見!」
「こちらです!」
とうとうやってきてしまった。
「あれが……使節団」
私は静かに息を吸った。
今までの、のどかな日常はもう終わりだ。
「準備はいいか。」
エドウィン。
こんな時にそんな言葉をかけてくれるなんて、嬉しい限りだよ。
「……うん。」
こんな時に、レイさんがいればきっと笑って。
「まぁなんとかなるでしょ」
なんて言っていたんだろうな。
そんな私の不安を少し感じたのか、ノクスが低く言う。
『……来るべき時が来ただけだ。』
森の向こうから、鎧の光が見える。
世界が、結に追いつく。




