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私は悪を犯す、故に、世界は救われる  作者: 神月佑奈
第一章

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第一章 : 使節団

「こんにちは。救世主様で合っていますよね?」



そう声を掛けてきたのは隊長らしき様相をしている男だ。



ただ、名乗られていないのにこちらが名乗る義理もないだろう。



そう思っていると、後ろからエドウィンが援護してくれた。



「なぁお前さぁ、名乗るならまずは自分からじゃねーの?」



そう言いながら小屋から出てくるエドウィンに、使節団の人々は安堵する。



「エドウィン様!」



「よかったご存命でいらした!」



各々がそう言いながら半泣きである。



「勝手に殺すな」



エドウィンが面倒くさそうに言い放つ。



だが、その一言で場の空気が一気に締まる。



安堵していた使節団の面々が、慌てて姿勢を正す。



先ほどまでの個人的な感情に支配されていた状態から、公的な場へと切り替わるのがはっきり分かる。



「……申し訳ありません。」



先頭に立っていた男が、一歩前に出て深く頭を下げた。



「此度使節団として構成されました団の団長をしております、王都第三騎士団、隊長のマグナと申します。」



低く、通る声に無駄のない所作。



確かに隊長と言われ納得ができる動きだ。



「本来であれば、先に名乗るべきところを失礼いたしました。」



そこまで言ってから、ゆっくりと顔を上げる。



そのまっすぐな視線と目が合う。



「改めまして。あなたが、救世主様でお間違いありませんか。」



さっきとは違い、確信を持った眼差しだ。



既に、ここからは変なことはできない。



救世主としての値踏みはすでに始まっているのだろう。



内心で小さく息をつく。



ここで曖昧にする意味はない。



「えぇ。私が救世主です。というか、そう呼ばれているみたいですね。」



異世界の何も知らない女だと舐められないよう、毅然とした態度で対応する。



マグナは少し思うところがあったようだが、それ以上は何も言わない。



「……承知いたしました。」



短く頷き、そしてすぐに本題へ入った。



「まずはエドウィン様を助けていただき、ありがとうございました。我が国代表としてお礼申し上げます。」



「悲鳴が聞こえただけです。それで見捨てるほど冷たい人ではないので。」



その言葉にマグナは少し眉を動かす。



そうか、今のは失言だったかもしれない。


この世界は弱肉強食。弱者を助けるなんてもってのほかとされているのだ。



「......救世主様には至急、王都へお越しいただきたい。」



少しの間の後、マグナはそう言う。



「あ?別にすぐじゃなくてもいいだろうが。こいつにもこいつの準備があるんだぞ。」



エドウィンの声が低くなる。



マグナはいたって冷静に、現状を説明する。



「エドウィン様。現在、王都周辺で魔物の活動が急激に活発化しております。」



「急に?何故......」



そう言いかけてエドウィンは何かを察したようだった。



「えぇ、ご想像の通り。世界に救世主が現れたことを、知らしめたからかと。」



それを聞いてさすがの私も察する。



あぁ、この間の共鳴で、か。



「あと......。」



マグナは一瞬だけ言葉を選ぶ。



「未確認の、個体が出現しました」



「未確認?」



「はい。既存のどの分類にも該当しない個体です」



ノクスの尾がぴくりと動く。



『……ほう。』



興味を持ったような声音。



「加えて——」



マグナの視線が、一瞬だけ私へと向いたように感じた。



「その個体が、例の歌に反応したという報告があります」



「……は?」



思わず声が漏れる。



「歌って……」



夜のことが頭をよぎる。



エドウィンが舌打ちする。



「チッ……なるほどなぁ」



「ねぇ、ねぇ、?大丈夫…じゃ、無いよね、ごめん。」



私が欲望のままに歌ったからだ。


それがここまで重大なことを引き起こすとは。



「お前のあれ、思った以上に影響でかいみたいだな。」



冷静に言い切る。



「ごめん、」



そう謝ると、エドウィンは少し笑って言う。



「そう気にするな。お前が救世主に選ばれた時点でどうせいずれ起こっていたことだ。」



『そうだ。それに、お前の場合は…仕方がない。』



ノクスまでもが慰めてくれた。



こんな時にレイさんのあの明るさがあったらどれほど良いかと思う。



「まぁどちらにしろ…引き寄せてる可能性があるんだよな。ほかの魔物をソイツが。」



「……え?」



「強い魔力、特に広域に干渉するタイプは目立つんだよ。そいつを目印に集まりやすい。」



ノクスが補足する。



『つまりはリーダーになるってことだ。』



「群れるってこと……?」



一気に現実味が増す。



「それで、か。結を早く王都に連れ戻したいのは。」



マグナを見ると、至って真面目で少しだけなんてお願いが通じる状況じゃないのはすぐ分かる。



後ろの方で長い髪を三つ編みにした女性がこちらを見ていて、目が合うと申し訳なさそうな顔をした。



「改めてお伝えさせていただきます。救世主様、今すぐに王都へお越しいただきたい。」



はっきりとマグナはそう言う。



「そして、貴方様を保護し、及び戦力としてのご協力をお願いしたく。」



お願いと言いながら、その実、拒否権はほぼない。



救世主としてこちらに来た時点で、状況がそれを許さない。



エドウィンがこちらを見て、判断を委ねる視線を送る。



一瞬だけ、地球の朝を思い出すけれど、もう切り替えたんだ。



「わかりました。行きます。」



私は迷いなく答える。



「その代わり」



一歩前に出る。



マグナと視線を合わせる。



「隠し事は無しです。後、少しくらいもてなされて行って下さい。私も準備があるので、時間が欲しいんです。」



「わかりました………では、お言葉に甘えさせていただきます。」



「てことだ!みんな一旦ここにキャンプ建てろ。」



エドウィンのその言葉に、みなが一斉にレジャーシートらしきものや机、椅子などをどこからか出して置き始める。



「ねぇエドウィン。軽いものでいいかな?」



「あいつらなんでも食うぞ多分。好きに用意しろ。」



そう言われたので、ズッパやスナック系のものからデザートになりそうなものまで色々出した。



そしてみんなに食べてもらってる間に、ブックマーク機能に目ぼしい本を全て登録し、必要だと思うものはマジックボックスに入れる。



「……やる気じゃねぇか。とうとう始まるんだな。」



「まあね。頑張るよ。」



ノクスが肩の上でくっくっと笑う。



『またお前は、人の為に頑張るんだな。』



また………?


ノクスの言葉に疑問を抱きつつ準備を進める。



「準備、終わりました。皆さんは?」



「我々も食べ終わりました。洗い物もさせて頂きました。一刻を争いますので、準備が終わっているようでしたらもう出発とさせていただきます。」



迷いのない返答。



私はもう一度だけ、小屋の方を見た。



短い時間だったけど、確かに拠点だった場所。



「行こっか」



そう言って前を向く。



今度は、誰も止めない。



全員が同じ方向を見ている。



王都へ。



そして、その先へ。

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