第一章 : 共鳴と増えたMP
ふと目を覚ますと、そこは小屋の天井だった。
「あれ、朝......?あ、そっか、あのまま気を失っちゃったんだっけ。」
誰がここまで連れてきてくれたんだろう。
小屋に居ない私を丘で見つけてびっくりさせちゃったかな。
そう思いながらリビングへ行くと、そこには私以外の全員が揃っていた。
リビングの扉を開けた瞬間、空気が一拍だけ止まった。
「……あ」
最初に声を漏らしたのはエドウィンだった。
椅子に座っていたはずなのに、いつの間にか立ち上がっていて、こちらをじっと見て何か言いたげな顔をしていた。
「おはよ、結ちゃん」
レイさんはいつも通り、軽い調子で手を振る。けれど、その視線は一瞬だけ私の全身をなぞるみたいに確認してから逸れた。
「……おはよう」
ノクスはテーブルの上で丸くなっていたけれど、私が入ってきた瞬間にしっぽだけがゆらりと揺れた。
なんだろう、この感じ。
いつも通りのはずなのに、どこかだけ、少し違和感を感じる。
「えっと……どうしたの?みんな揃って」
そう聞くと、三人の視線が一瞬だけ交差した。
あー、これ何か隠してる時のやつだ。
「いやぁ?朝ごはんどうしよっかな~って話してただけだよ」
レイさんが、やけに明るい声で言う。
「……ほんと?」
「ほんとほんと」
にこにこと笑っているけど、ちょっとだけ嘘っぽい。
エドウィンはというと、腕を組んだままこちらを見ていたが、ふっと小さく息を吐いて視線を逸らした。
「……体調は」
「え?」
「悪くないのかって聞いてる」
「あ、うん。全然平気。ちょっと体が重いかなーくらい。」
なんでかちょっと体が重いけれど、昨日歌ったり舞ったりしたからかな、疲労がたまっているのかもしれない。
「……そうか」
それだけ言って、エドウィンはそれ以上何も聞かなかった。
ノクスが、ひょいとテーブルから降りて私の足元にやってくる。
「みゃ」
「ん、どうしたの?」
しゃがんで撫でると、今日は珍しく自分から頭を押し付けてきた。
いつもより少し甘えるみたいに。
「珍しいね、ノクス」
『……昨夜は、少し無理をしたからな』
ぽつりと、ノクスが言う。
「え?」
顔を上げる。
「なんか、隠してるよね?」
一瞬、空気がまた止まる。
やっぱり、何かある。
『……別に、大したことじゃない』
ノクスはそれだけ言って、するりと腕から抜けていった。
絶対大したことあるやつだ。
「ねぇ、ほんとに何もないの?てか、流石に気づいてるよ?朝起きたら小屋だったし。ごめんね、朝起きたらいなくてビビったでしょ。」
そう言うと、三人は顔を見合わせて言う。
『「「いや、別に。」」』
その言葉に私がびっくりしていると、レイさんが付け足した。
「というか、昨日見てたよ。結ちゃんが歌ってるとこ。セレーニアが結ちゃんの魔力吸ってたし、多分全世界の人が聴いていたと思う。」
「——は?」
間の抜けた声が出た。
今、なんて言った?
「いやいやいや、ちょっと待って」
頭の中で言葉を並べ直す。
歌ってた、うん、うっすらと記憶ある。
セレーニア、うん、何故か名前知ってた植物。
魔力吸ってた、全世界の人が聴いてる?どゆこと?
「え、じょ、冗談じゃない?」
「どれのこと言ってる?」
「魔力吸ってた、全世界の人が聴いてるって。」
レイさんは、あっけらかんとした顔で肩をすくめる。
「いや、でも事実だしなぁ」
「事実じゃないでしょ普通」
「普通じゃないから言ってるんだよ~」
なんだそれ。
エドウィンが、はぁ、と小さく息を吐いた。
「冗談じゃない。あれは……」
言いかけて、言葉を選ぶように一瞬黙る。
「……少なくとも、ただの歌じゃない」
「だからそのただの歌じゃないって何、記憶がおぼろげであんまりわからないんだけど。」
「……説明が難しいな」
珍しく歯切れが悪い。
ノクスが、床に座ったままこちらを見上げる。
『結』
「ん?」
『昨夜、お前はセレーニアと共鳴した』
「共鳴……?」
聞き慣れない言葉に、思わず復唱する。
『あの花は、ただの植物ではない。古い時代、初代救世主が遺した“祈りの器”だ』
「……え、ちょっと待って情報量多くない?」
『本来、応えることができる者は限られている』
ノクスの琥珀色の瞳が、じっとこちらを射抜く。
『だが、お前はそれに応えた』
「いや、覚えてないんだけど……」
正直な感想だった。
丘に行ったことは覚えてる。
名前を呼んだことも。
でも、その後の歌ったとか舞ったとかは、霧みたいにぼやけている。
「……ほんとに、そんなすごいことになってたの?」
恐る恐る聞くと、三人とも、少しだけ黙った。
その沈黙が、逆に答えだった。
「……まじかぁ」
思わず、椅子にへなっと座り込む。
「じゃあなに、私……やばいことした?」
「やばいね」
レイさんが即答する。
「なんかレイさん軽く言うじゃん」
「でもいい意味でだよ?多分。全世界に救世主の誕生を知らせることになったわけだし。」
「多分ってなに」
「いやだって、セレーニアに共鳴した救世主なんて、前例初代救世主以外居ないし。」
ないんだ前例。
「……ねぇ」
少しだけ真面目に聞く。
「それって、まずいやつ?」
エドウィンが、こちらを見る。
さっきまでの軽い空気じゃない、少しだけ王族らしい顔。
「——状況による」
「うわ一番困る答え」
「少なくとも、その力を隠し通すのは難しいだろうな。」
その一言で、空気が少しだけ引き締まる。
「昨夜のあれが本当に広範囲に届いていたなら、各国が動く可能性は高い」
「各国……」
スケールが急に大きくなる。
「え、なにそれ、私そんな感じなの?」
「そんな感じだ」
即答されたし。
逃げ場ないじゃん。なにそれ。
「……いやいやいや」
額を押さえる。
「無理無理無理、そんなの、昨日ので?心の準備できてないって。」
「まぁまぁまぁ!」
パン、とレイさんが手を叩き、空気を切り替える。
「はい、この話一旦終わり!」
「ちょっとまだ終わらないでしょ絶対。」
「終わらせるの!」
ぐいっとこちらを見て、にやっと笑う。
「結ちゃん、今一番やるべきこと何だと思う?」
「……現実逃避?」
「違うねぇ」
ビシッと指を立てる。
「ごはん!」
その言葉にお腹の虫が鳴った。
「ほら~、重要だからね?体力回復しないと何もできないし」
それは……まぁ、そうだけど。
「てことで!」
レイさんはくるっとキッチンに向かう。
「今日はちょっと気合い入れるよ~!結ちゃん昨日魔力吸われて枯渇気味なはずだし。」
そっか、体が重いのはそれでか。
フライパンに火が入る音がして、じゅ、と油の弾ける音がする。
それだけで、少しだけ現実に引き戻される。
「なぁ、お前、MPの総量また上がってんじゃねーの?」
そう言われて確認してみると、13,000と書かれていた。
「い、13,000になってる......。」
その言葉に、エドウィンとレイさんが同時に反応する。
「「13,000!?!?」」
「いや、多、え、?」
エドウィンはまだ何か言いたげだったが、結局口を閉じた。
『あのころと比べたら......』
なんてノクスはよくわからないことを言っていた。
『……心配するな。お前は救世主なのだから。』
小さな声。
「いや、普通に怖いよ。こんな多いの。」
『それでもだ。セレーニアと共鳴したんだ。それだけ増えるのも無理ない。』
少しだけ、しっぽが揺れる。
『それに、お前は、お前のままでいればいい』
「……意外と無理難題なこと突き付けてくるね.......笑」
苦笑しながら、前を見る。
キッチンから、いい匂いが漂ってきて、さっきまでの重たい空気が、少しずつ薄れていく。
「……なに作ってるの?」
「できてからのお楽しみ!」
なんて会話をしながら、私は少しだけ深く息を吐いた。
とりあえず、今は。
この時間に、乗っかっておこう。
そう思いながら、出来上がる料理を待った。




