第一章 : セレーニア~使節団視点~
「おい、エドウィン様が居ないぞ!」
「誰か、最後にエドウィン様を見たものは!?」
夜の森に、焦燥が走る。
松明の火が揺れ、甲冑が小さく軋む音が連なる。使節団の面々は散開し、王子の行方を探していた。
「……くそ、勝手なことを」
隊長格の男が舌打ちする。
「マグナ様!エドウィン様の魔力の痕跡と思しきものが見つかりました!」
マグナと呼ばれるその隊長格の男は案内されるままに進む。
ただ、歩いているときにマグナはふと思う。
………………森が、静かすぎるのではないか。
虫の音はある。風も吹いている。だが、どこか世界が何かの前触れのように息を潜めているような違和感があった。
案内された場所についてみると、周囲の木々は薙ぎ倒され、魔物の死骸だけが転がっていた。
そこには、エドウィンの魔力の痕跡が多量に残っていた。
「おそらく、この魔物に遭遇して戦ったんだろう。」
食べられてしまったのだろうかと、思っていたその時。
「隊長!魔物の中からはエドウィン様の痕跡は見つかりません!」
「なんだと......?だがしかし、エドウィンがこいつを倒せるほどの実力を持っているとは思えな......。」
そう言っていて、ふと気が付く。
「おい、こいつ、聖魔法で倒されてないか?それに、微かだが、エドウィンの者ではない魔力もあるぞ。」
おかしい、エドウィンは聖魔法を使えないはずだ。
では、一体、誰が倒したというのだろうか。この辺りに人が住んでいるわけもないし、ここまで居心地のいい魔力は感じたこともない。
そう考えていた時。
「……っ、何か聞こえませんか!?」
誰かが、顔を上げた。
「何がだ」
「いや……今、」
次の瞬間だった。
音が、降ってきた。
それは、風に乗るでもなく、地を伝うでもなく、ただそこに在るものとして、全員の鼓膜を震わせた。
歌だった。
澄みきっているのに、どこか壊れそうなほど儚い声。
言葉は知らない。だが意味は理解できる。
祈り、赦し、そして............救いだ。
「……なんだ、これは……」
一人が膝をつく。
理由はわからない。ただ、立っていられなかった。
胸の奥に押し込めていたものが、勝手にほどけていく。
「やめろ……こんな、こんなもの……」
別の男は剣を地面に突き立て、額を押さえる。
思い出したくない記憶が、優しく撫でられていく。
憎しみも、怒りも、後悔も。
否定されないまま、ただ静かに溶けていく。
それが、怖かった。
「……っ、どこからだ……!」
マグナが叫ぶ。そして振り返った先で気づく。
「あぁ、今日は、満月だったか......。」
そしてそこで合点が行く。
「皆、よく聞け。エドウィンは救世主様に保護されたと考えられる。そして、救世主様の魔力が流れている今、今夜は安全だろうからゆっくり寝なさい。」
そうして騎士団は眠りについたのだった。




