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私は悪を犯す、故に、世界は救われる  作者: 神月佑奈
第一章

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第一章 : セレーニア~レイ視点~

「なぁ、なんでお前はここに居るんだ?」


結ちゃんに訓練内容を伝えた後、エドウィンは疑問を呈する。


「嫌だなぁ、結ちゃんを支えに来ただけですよ。」


「ほんとか?お前みたいな腹黒が?」


「心外ですねぇ、本当ですよ。」


そう言って、俺は肩をすくめる。


軽い調子だけれど、その目は笑っていない。


「……はぁ。」


エドウィンは小さくため息をついた。


「まぁいい。お前が何を企んでいようと、俺には関係ない。」


「おや、冷たいですねぇ」


「というか、レイ、お前毒気が抜かれすぎじゃないか?」


彼が一歩、距離を詰める。


空気が、わずかに緩む。


「それは、貴方もわかるでしょう?彼女の魔力は上質で多量だ。そして、どこか神々しさもある。」


「確かに、包まれているような安心感があるのはわかる。それに、魔力が流れるように滑らかだ。まるで神と対峙でもしているような......。そんな感覚が、ある。」


やはりあの心地よさを感じていたのは俺だけではないようだ。


実は、俺の中で一つの予想があった。


「実は、私、一つ考えていることがあるんですよ。あの子は......。」


そう言いかけたとき、どこからかノクスが入ってきてそれを止めた。


「結のことは探らないでくれ。彼女にとって、それは毒となる。」


「毒......?」


それだけ言い残して、ノクスはまた、消えていった。





夜。


皆でご飯を食べ終わって、寝床についたとき。


ノクスも結ちゃんも、少しハードな訓練を課したからか死んだように寝てしまった。

エドウィンは慣れない環境にいたからか、すぐに寝たようだ。


俺も体が重い、今日だけでいろいろあったから、疲れているんだろうか。

灯りを消し、暗闇の中、俺は少し考え事をしながらうとうとする。


静かな夜、窓から差し込む月の明かりが妙に心地よくてすぐに深い眠りにつきそうだった。


そうしていた時、ふとどこからか声が聞こえた。


「あぁ、セレーニアか。」


セレーニアとは、満月の夜にだけ花を咲かし歌を歌う植物のことだ。

初代救世主が作り出したと言われていて、セレーニアが歌う「Elegy to Selene」は救世主が用いる祈りの歌だ。


「最近は、あまり聞いていなかったな。」


そう思い、少し外を歩こうかと思ったその時、小屋の外に既に誰かいることに気が付いた。


「結ちゃん.....?」


そう言いかけて、止めた。


結ちゃんは、何かひどく驚いた顔をして走り出したのだ。


俺は追いかける気にはならず、結界のギリギリまでばれないように近づき、結ちゃんを見ていた。


「セレーニアッッッ!」


そう言い、その花に駆け寄る彼女の姿は、この世のものとは思えない程、儚くて、甘美で、綺麗だった。


でも、なぜ彼女はその花の名を知っているのだろうか、いや、知らないはずなんだ。

教えたことがないから。


それに、彼女にはその花を懐かしむような関りはなったはず。


「何故、君はそんなに、久方ぶりのような顔をするんだい?」


そう聞く声は、結ちゃんにまで届かず、すぐ近くで消える。


さらに驚いたのは、彼女がセレーニアと共に歌い、舞い始めたからだ。


何故君がその歌を完璧に歌える。何故君が舞える。特に舞いなんて、初代救世主が後世に伝え損ねたと言われているんだ。


何故、何故、君が舞えるんだ。


適当に舞っているのかもしれない、そう考えたけれど、どう考えても本家のものだと思わざるを得ない気迫がある。


「おい、この声は....!」


そう言いながらエドウィンとノクスがやってくる。


そして、見た先の景色を見て絶句していた。


結ちゃんの声で起きたのだろうか。

まぁ、無理もない。だって、彼女の歌声に風が歓喜し、そして、全世界へ届けているのだから。何処に居ても聞こえるだろう。


結ちゃんの歌声には、風も、木々も、月でさえ、全世界が歓喜しているのが分かった。


「結ちゃんにバレちゃだめだよ?」


念のためくぎを刺すけれど、それすら聞こえない程エドウィンは聞き入っていた。


それほど、結ちゃんは美しかった。信じられないほどに、美しかった。


「くそっ、今日が満月だということを失念していた。くそ、くそっ!」


ノクスだけは、何故か悔やんでいるようだった。


何もわからないけれど、これがあまり良くない状況なんだろうということは伝わってきた。


それでも、ノクスも動けない。


聞き惚れる以外に、選択肢はないのだ。

今の状況の結ちゃんをとめる資格は、自分にないとさえ思わされる。


ただ、今のセレーニアの状況は、結ちゃんの魔力を吸って活き活きとしている。


このままでは結ちゃんの魔力が枯渇してしまう。


それはあまりよろしくない。


資格がなくても、止めなければならない、そう思い一歩踏み出した瞬間、視界の端で何かが動いた。


「おい、天使、天使がいるぞ!」


それは、いつも結ちゃんを迎えに来ている天使だった。


彼は、結ちゃんから少し離れたところで止まり何かを呟いたかと思うと、セレーニアがふと光を失い、結ちゃんも歌いきる。


「お前はいつも、張り切りすぎだ。」


そう天使の声が聞こえたと同時に、結ちゃんはふと意識を失ったように倒れた。


天使はこちらに気づいていたのだろう、目くばせをして消えていった。


俺たちは結ちゃんの元へ走り出した。

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