第一章:セレーニア
「……申し遅れました、オルマンス民主国の第三王子、エドウィンと申します。救世主様を迎える為の使節団として伺わせて頂きました。こんな所に住んでいるということは、貴方が救世主様、ですよね?」
そう言う彼……エドウィンは、私が魔物から助けた子だ。
いい身なりをしているなとは思っていたけれど、まさか第三王子だったとは。
にしても、この世界は美形しかいないのだろうか、白の短髪に燃えるような赤色の瞳が美しい。
「まさか、第三王子だったとは露知らず……ズッパなんて庶民的なものを……えと、どうしよう…。」
「そんな堅苦しくなくていい。寧ろこちらが丁寧にしなきゃいけない立場なんですから。」
「なら、私にもタメ口でお願い。さっきまでので大丈夫。私の名前は結だから、結って呼んで?」
そう言うと、エドウィンは姿勢を崩し、砕けた口調になる。
「わかった…結。俺はエドウィンと呼んでくれ。で、確認なんだが、救世主は結、お前で合ってるな?」
「合ってるよ。」
「じゃあ、俺以外の使節団が迎えに来るまでここに泊まらせてほしい。」
その言葉に今まで静観していたレイさんが口を挟む。
「ほんとに泊めるのぉ…?」
「まぁいいじゃないですか、人が多い方が楽しいし!」
「俺だってこんな使節団なんかしたくなかったんだよ、わざわざ山奥まで来て…ちょっとは休ませてくれ。」
「……ま、結ちゃんがいいって言うなら俺は止めないけどさぁ。王族なんて、面倒事の種を振りまいて歩く生き物なんだから」
レイさんは呆れたように肩をすくめ、ノクスを撫でる。
ノクスは嫌そうな顔をしながらも撫でられてあげていた。
エドウィンはそれを鼻で笑う。
「面倒なのは同感だ。だが、今の世界には救世主の看板が必要なんだよ。それだけ高貴な人を迎えに行くんだから王族でも暇な俺みたいなのが派遣されたってわけ。」
「じゃあなんで一人であんな所にいたの?」
結が問い返すと、エドウィンは窓の外、さっきまでいた森を指差した。
「使節団が、嫌になったんだよ。みんな感情が無いっっっ!ただ前に進むことだけを考えてたんだ。それが少し…怖くなった、だから逃げ出したんだよ。」
それを聞いて、少しエドウィンは私に似ているかもしれないと思った。
「……そっか、とりあえず、ここでゆっくりしてってね。」
「あぁ、ありがとう。」
そうしてまた1人、住人が増えた。
その後は、私は変わらずレイさんに言われた通りの訓練をこなし、レイさんがエドウィンの看病をしてくれていた。
夜になると、私はご飯を作りみんなで食卓を囲む。
ちょっとした雑談を混じえながらエドウィンのことを知ろうとした。
そんなこんなで時間はすぐに過ぎていった。
そして、みんなが寝静まった頃だろうか、私はふと目が覚めた。
外からなにか声がするのだ。
なんだろうと恐る恐る外へ出てみると、そこには驚きの光景が広がっていた。
遠くの方の丘で、何かが光りながら歌っていたのだ。
それに呼応するように、風が舞い、木々は喜んでいた。
そして、満月が笑っているように感じた。
私は何故か、その歌を知っているような気がして、どうしようもない懐かしさに駆られ、気づいた時には走り出していた。
「……………!」
丘に着いた時に、光って歌っていたものの正体がわかった。
そして、なぜかその名を知っていた。
「セレーニアッッッ!」
私がその名を口にすると、呼応するように花々は活気づき、より歌を歌う。
その懐かしさは、ノクスと共に見たあの壊れかけの神殿の時に感じたものと似ていた。
その感情に身を任せ、気付いた時には歌い、共に舞っていた。
"Oh, Ancient Light, hear our desperate cry.
Wash away the sins with silver tears.
In the darkness of the soul, bring the silence of peace.
And from this wound, let redemption bloom."
月明かりに照らされた丘の上で、私の歌声が夜の静寂に溶け込んでいく。
喉から溢れる言葉はあまりに滑らかで、まるで初めから私の魂に刻まれていたかのようだった。
気づいた時には歌いながら泣いていた。
歌い終えた瞬間、世界から音が消えた。
光り輝いていた存在、セレーニアが、ゆっくりと花弁をちらす。
それは実体を持たない光の残滓のようでもあり、月の欠片のようにも見えた。
そしてそれを見ながら私の意識は途絶えた。




