魔王様、来たる
ここから最終章です!
また本編の下に書籍版の情報を掲載しておりますー!
ジンさんのイラストもあるので(尻尾すごい)ぜひ見てやってください!
すっかり街路樹の葉も散って、冷え込む冬がやってきた。
ハラハラと初雪が降った本日、日曜日。
「雪合戦! 雪合戦をしようぞ、ツムギ! かまくら作りでもいいぞ!」とはしゃぐジンの申し出は軽快に却下し、電気ストーブをつけたアパートの室内で、ツムギはごそごそと『とあるもの』を探していた。
「うーん、おかしいな、ここに入れておいたはずなのに。やっぱりない」
「ツムギよ、先ほどからなにを探しておるのだ?」
本棚代わりでもあるカラーボックスを漁るツムギに、半纏を着込んで炬燵に足を突っ込んだジンが尋ねる。
この魔人、暑さなどものともしなかったクセになぜか異様に寒がりであり、赤い半纏&紬が印税で購入したミニ炬燵は、最近の彼にとっては必需品と化していた。
特に炬燵はジンの大のお気に入りであり、漫画の次に魔界にも取り入れたい文化らしい。
「資料を探しているんですよ。ほらあれ、『これで完璧! セーラー服大事典』」
「ああ、あのマニアックな趣味を爆発させたやたら分厚い書籍か」
「私の場合は仕事でいるんです! 新キャラの容姿デザインがなかなか決まらなくて……」
『恋ギガ』は新展開に突入し、新たなライバルヒロインが登場する予定である。
主人公たちとは高校が違う設定なので制服のデザインからせねばならず、おまけに巻頭カラーで配色もお披露目される。性格だけは『高飛車な女王様だが実はピュア』とギャップ萌系で確定はしているものの、見た目のビジュアルがいまひとつ決まらなくて悩んでいるところだった。
担当である心田からも催促の電話が来ているので、そろそろ本格的に決めないとマズイ。
余談だがそんな心田は、相変わらずの『ベタ漫画体質』を発揮し、先日出張先でデスゲームに巻き込まれたらしい。奇天烈な仮面をつけた奴に数十人で監禁され、『いまから君たちには殺し合いをしてもらいます』と宣言されたそうだ。
「いやヤバくね?」
「ベタ体質で済むのそれ?」
「よく生き残れましたね!?」
……と、電話越しで紬はミルクティーを吹いた。まず出張先でデスゲームに巻き込まれる意味がわからない。
よくあるチートキャラが一人いて大活躍、死傷者ゼロでデスゲーム運営を倒して何事もなく日常に帰って来たらしいが、「こんなことってあるんですねえ。旅館での殺人事件や街中での爆弾騒ぎになら何回か遭遇したことあるけど、デスゲームはさすがに初めてだったよ」とのほほんと笑った心田が、実は一番恐ろしいかもしれない。
「うう、本は見つからないし、心田さんの話を思い出したらいろんな意味で寒くなってきた……ストーブの温度上げようかな」
「本日は特に雪で冷え込むようだからな。お天気お姉さんが言っておったぞ。ほれ、ストーブに頼るより炬燵に入るがいい。ぬくぬくだぞ」
「じゃあジンさんとチェンジで……ジンさん足伸ばして入るから、向かいに入るとぶつかるんですもん……無駄に長い足しやがって縮め……」
机のサイズが小さい故に起こる弊害である。
しかしジンは炬燵から出る気配はなく、少しだけ体を引いてポンポンと胸元を叩く。
「それならここにともに入るがよい。我も一緒にあっためてやるぞ!」
「ま、またそういう……」
紬は「うっ」と顔を赤らめつつも、それも一瞬のことで、結局いそいそとジンの懐にもぐった。大きなジンの体を背もたれにして、二人でくっついたまま炬燵に入る。
いったん落ち着いてしまえば、どちらも慣れきった調子で「むしろアイスが食べたくなるな」「炬燵でアイスはありですね。買ってこいジンさん」「我はパシリか!?」などと会話している。
紬の過去話をした流れで、ジンとの『ぎゅー』の一件があってから、なぜかナチュラルに日常でもこういったことをしている二人である。
「あーそれにしてもどうしようかなあ、新キャラのビジュアル。他のキャラよりも見た目を若干派手めにしたくて、髪型は決まったんですけど、他がまったく決まんないんですよ……」
「髪型は縦ロールだったか? それなら銀髪に赤目などはどうだ。我のマブダチである魔王は刃のごとく輝くウルフカットの銀髪に、血のような赤い瞳をしているぞ」
「それはさすがにファンタジーすぎません……?」
ジンが傍にいるため忘れがちだが、現代ものでそこまでファンタジーに踏み切っていいものか……。
ジンのプラチナブロンドの髪を手持無沙汰に弄りながら、紬は思案する。
「あっ!」
「な、なんですか、ジンさん」
しかし、急にジンが高い声を上げたため思考は中断された。彼は紫の瞳をきょろきょろと挙動不審に泳がせている。
「うっ、そ、そのだな……ふと思い出したのだが、『セーラー服大事典』を最近読んだ気がして……」
「はあっ!? まさかどっかやったのジンさんですか! いやよく考えたら犯人はお前しかいないな!? てかなんで読んでるんですか! セーラー服好きか? 貴様セーラー服好きか!」
「ち、違うぞ! 我だってちょっとした資料代わりに読んでいただけだ! どちらかというと我はブレザー派である!」
「知るか! いいから辞典はどこにやったんですか!?」
「…………すみません、覚えていません」
「この爬虫類め!」
紬の厳しい罵倒が部屋に響く。
そこからは炬燵を出て、そう広くもない室内を二人がかりで大捜索である。カラーボックスのあたりを今までは中心に探していたが、ジンが失くしたというのなら別のところを当たらなくては。
「そう、例えばこの押入れとか……」
紬はガッと、ジンが猫型ロボットよろしく寝泊りしている押入れの取っ手に手をかける。そのままスパン! っと音を立てて戸を開けた。
なんか変なのがいた。
「――――んあ? ああ、邪魔しているぜ」
「……はあ」
ものすごいデジャブで、押入れの上の段に見慣れぬ人影が。
狭い暗がりの中で身を丸め、その男は分厚い書籍をペラペラと捲っているところだった。
しっかりとした体躯に精悍な相貌は、ジンに負けず劣らずの美男子っぷりだが、彼より全体的な印象は荒々しくワイルド。漆黒のローブのような服を身に纏い、アクセリーをジャラジャラつけている様はイメージとしてはビジュアル系バンドっぽい。
刃のごとく鋭く輝くウルフカットの銀髪に、三白眼の瞳は血のような赤。
そして額から伸びる一本角。
「あの、あなたは……?」
「余か? 余は魔王だぜ」
「はあ、マオウさん」
この会話にも覚えがあり過ぎる。
紬は頭に手を当てて天井を仰いだ。
『魔人』の次は『魔王』、来ちゃった……!





