マオマオとジンジン
▶魔界の森の愉快な仲間たちが増えた!
▶『魔王』が仲間に加わった!
▶勇者ツムギは混乱している!
紬の脳内ではそんなRPGの表記が浮かび上がってきたが、そもそも勇者の仲間に魔王が加わることからすでにおかしい。倒すべきラスボスと手を組む時点で破綻している。
おかしいといえば、暫定この室内にいる人口比が 魔界人>人間 なことも常軌を逸していた。
なんでこんな人外に挟まれているんだ、私……!
「なんだ、ツムギよ。どうかしたか……ん? ま、まさか貴様は……!」
呆然と押入れの前に佇むツムギに、気付いたジンが何事かと視線をこちらに向けた。次いで彼のアメジストの瞳が大きく見開かれる。
「マオマオ!? 貴様はマオマオか!?」
「おー! 久しぶりだな、ジンジン!」
マオマオ?
ジンジン?
それが両者の愛称だと紬が察する前に、マオマオこと自称魔王は紬を押し退けて押入れから降りた。ポイッと床に乱雑に放った書籍は、よく見れば『セーラー服大辞典』だ。
彼はギシッと床を踏みつけながら、「余を迎えるにはこのボロ小屋は小さすぎるな」とか鼻で笑っている。
さすがは魔王を名乗るだけあって、初対面時のジンより態度がでかい。
魔王にはジンのような尻尾はないものの、額の一本角がギラリと尖って輝いてる。
「ジンジン……」
「マオマオ……」
「会いたかったぜ!」
「我もだ!」
魔王とジンは相対すると、パァンッ! とハイタッチをひとつ。
そしてお互いの肩をバシバシと叩き合う。
「いやあ、本当に久しいなマオマオよ! 元気にしておったか? 魔界の方はどうだ? ペットのケルベロスのベロスと、フェンリルのフェーちゃんは息災か?」
「あたぼうよ、バリバリ息災だぜ。昨日も余にたてついた雑魚魔物どもを、それこそバリバリ頭から食ってたわ」
「そうか、元気そうでなによりだ。何事も健康第一だからな。しかしまだマオマオに反逆する者もいるのだな。我も手伝ってあれほど徹底的に制圧したというのに」
「マジでそれな。めげねえ根性は嫌いじゃねえが、まだ余の争いのないラブ&ピースな統治に逆らおうとする輩が残っていて困るぜ。定期的にクーデターを起こしやがる。まあ余はこのとおり平和主義だから、そういう奴等もちょっと八つ裂きにするくらいで済ませてやるがな」
「ふむ、相変わらずマオマオは優しいな。刻むくらいで許してやるとは」
「おうよ。我ながらお人好しだなーって、自分の甘さに辟易しちまうぜ」
会話の内容にはツッコミどころしかないが、親しく笑い合う様子はまさしく旧友との感動の再会シーンだ。
二人並ぶとどちらも同じくらいの高身長で、イケメンコスプレイヤー同士の戯れにも見える。
紬は完全においてけぼりで、ただただ二次元の存在たちを静観している。
「それで? 我と同じ時空の穴をくぐったのだろうが、なぜこちらに来たのだ、友よ。わざわざ我に会いに来たのか?」
「それもあるが……まあ話せば長げえのよ。まずは……」
ツッと魔王の視線が移動し、深紅の瞳が紬を捉えた。
その目にこもる威圧感の強さに、紬は思わずギクリと肩を強ばらせる。
上から品定めするかのようなそれは、まさしく支配者の眼差しだ。
「そこの貧相な小娘が、ジンジンが追いかけていた『漫画』とやらの作者かよ?」
「え? ええっと」
「隠さずちゃっちゃっと答えた方がいいぜ。余は温厚だが気は短いんだ」
それ温厚って言わない……!
血みどろ似非平和主義者は怖すぎた。
紬は背中に冷や汗を流しながらも、「こ、『恋はギガンティック!』のことなら……そ、そうですね」と頷く。
「『恋ギガ』の……そうかそうか」
得心がいったように口角をつり上げ、黒いローブの懐に手を差し込む魔王。
「な、なにが飛び出すんだ!?」と、反射的に紬は身構えるが、これまたどこかで見たパターンで、出てきたのは真白な色紙とサインペンだった。
それらを両手でそっと渡され、紬はつい受け取ってしまう。
「余も読んだぜ、お前の漫画。衝撃的だった。かなり楽しませてもらったぜ。…………正直めちゃくちゃファンです。あの、サインいいですか」
「あ、はい」
「うわ、マジで作者さんだヤッベ……その、何度も読み返しています。ジンジンに紹介されてから、こんな面白いものを知らずに50000年くらい生きていたことを後悔しました。『温玉カレー丸』先生にお会いできて光栄です。あ、『マオくんへ』って入れてください。本名、魔王のマオなんで」
「ジンさんといい安直……いえ、お読み頂けてありがとうございます……」
先ほどまでの傲慢不遜な態度はどこへやら、精悍な顔を赤らめてもじもじする魔王……改めマオは、憧れの作者を前にただの語彙力を無くした一ファンだった。
サイン入り色紙が出来上がると、両手で掲げてマオはジンに見せびらかす。
「やったー! やったぜ、ジンジン! 念願のサイン入り色紙だぜ!」
「よかったな、マオマオ! 半ば忘れておったが、マオマオもなかなかの筋金入りのファンだったものな!」
「それ大事なところだから忘れんなよ、ジンジン! お前が俺を置いて温玉カレー丸先生に会いに行ったって聞いたときは、ぶっちゃけキレて一回戦争起こしかけたんだからな!」
「あちゃー、それはごめんなさいだぞ」
「いいぜ、いいぜ。親友だから許すわ」
「マオマオ……!」
「ジンジン……!」
そんな茶番劇を見せつけられながらも、サインペンを持った紬はしみじみ思った。
やっぱり私の漫画、なんか知らないとこ(魔界)で人気なんだよなあ……と。
とても複雑なところであった。





