25 公爵家のお茶会
―そうして迎えたお茶会の日。
私はこの日、初めて妹のアシェリーと会った。
「アシェリーですね。今日はよろしくお願いします」
「ミルロアお姉さん、こちらこそよろしくお願いします」
なんだか他人行儀の挨拶になってしまったのは仕方がない。彼女は一体どんな人物なのだろうか。
身長や体形は私とさほど変わらない。
私は焦げ茶色の髪に、くるりと大きな薄茶色目をしている。平民に多い色だけど、妹は明るい茶髪に切れ長で灰色の瞳をしている。
どちらかといえば妹は父に似ていて、私は母に似ているのだと思う。
彼女は弟のアヴィルのように私に敵意を見せる様子はない。けれど、その腹の内は何を思っているのやら。
「お父様、お母様。行ってきます」
「ああ、気を付けて行くんだぞ」
公爵家からの迎えの馬車に乗り込んだ。
……。
お互い何を話すこともなく、車内は車輪の軽快な音だけが流れている。
ラニャも一緒にいるのだが、監視役としているせいか特に話をすることもない。
そうこうしている間に馬車は公爵家の敷地に入っていく。敷地内から建物までかなり距離があるし、とても立派な建物。
お城と言っても過言ではない。男爵家の我が家とはかなり違うわ。そして妹もさすがに公爵家の建物に圧倒されたのか目を見開いていた。
「ミルロア様、ようこそお越し下さいました。こちらへどうぞ。妹のアシェリー様もどうぞこちらへ。お付きの侍女はこちらへどうぞ」
「……はい」
ラニャは侍女たちが集まる控室に向かうようだ。
妹は緊張しているようにも見える。
私たちは従者の案内でお茶会の会場である公爵家のサロンへと向かった。
「ミルロア様、ようこそお越し下さいました」
私は部屋に入るとすぐにテア様から声が掛かった。どうやら私は最後の参加者だったようだ。
十数人の令嬢が既に着席していて一斉にこちらを見ている。
ああ、私は客寄せパンダ的な感じなのね。
……パンダ?
ふと浮かび上がった言葉を不思議に思いながらもテア様に挨拶をする。後ろで妹も控えめに礼をしている。
「テア様、お茶会にお呼びいただきありがとうございます。何分、初めてお茶会に参加するため粗相があるかもしれませんが、よろしくお願いします」
「ふふっ。ミルロア様が出席してくれるだけで十分ですわ。どうぞ、お楽しみになってください」
私はテア様の横の席に座り、妹はその隣に静かに座った。
テア様が立ちあがり、サロンにいる令嬢たちに挨拶をすると、一斉に従者がお茶を淹れて令嬢たちの前に差し出した。
私は初めて貴族のお茶会に参加したから従者の統一されたような動きに圧倒された。
「ミルロア様、どうかされましたか?」
「テア様、とても素敵ですね。私、初めてお茶会に呼ばれたのですが、感動して胸が詰まる思いです」
「あら、そう言っていただけると嬉しいわ。ところでミルロア様、趣味はなんですの?」
「えっと……。学院の図書室がとても素晴らしくて本を読んでおります」
「あら、それは素晴らしいですわ」
テア様は舞踏会の時と違い、優しく話し掛けてくれている。
そして会話するごとに周りの令嬢たちも笑顔で話し、妹以外は和やかな雰囲気でお茶会が進んでいる。
妹はというと、じっとこちらを監視しているようにも見える。
彼女は周りの人たちとあまり会話をしている様子はない。貴族でも爵位が高い人に自分から話し掛けちゃいけないんだっけ。
アシェリーの心配はするけれど、助けようにも今の私には無理。自分のマナーだけでも精一杯なのが悲しい。
「それではこの辺で今日のお茶会はお開きにさせていただきますわ」
和やかな雰囲気のままテア様のお茶会は終わりを告げた。令嬢たちは列に並び、テア様へと挨拶をして帰っていく。
「アシェリー、いきますよ」
「はい、お姉さま」
アシェリーは無表情のまま私の後ろに付いて列の最後尾に並んぶ。みんな軽い挨拶だったので私たちの順番がくるのはすぐだった。
「ミルロア様、アシェリー様。本日はありがとうございました」
「テア様、本日はお招きありがとうございました。とても楽しく過ごせてまるで夢のようなひと時を過ごさせていただきました。本当にありがとうございました」
「ミルロア様、どうぞお土産をお持ちください」
「ミルロア様、私がお持ち致します」
後ろに控えていたラニャがそう言って受け取ろうとしていたけれど、テア様は彼女に渡さず、直接私に渡してくれる。
「いえ、これはミルロア様だけの特別なものですから直接ミルロア様に受け取って欲しいの」
テア様は私を見て深い笑みを浮かべている。
「……テア様、今日は本当にありがとうございました」
私はもう一度お礼を言ってアシェリーと共にまた馬車へと乗り込んだ。
「ミルロア姉様も大変ね」
「……」
私はアシェリーの呟く声に返すことができなかった。アシェリーと話して両親の耳に入ったら困るし、後ろにはラニャもいるもの。
今は全てが敵に見えてしまう。
私たちは一言も会話することなく家へと戻っていった。




