24 突然の誘い
いつものように図書室へ向かい、本を選び始め、手紙をそっと差し込んだ後、別の棚へと移動する。
逃亡出来たら私は生活する術がない。
まず何を覚えた方がいいのだろうか。
そう考えながら職業のことが書かれている本を見つけた。
これはきっと学生向けの本だよね。
様々な職業が載っている。煙突掃除人? そんな職業もあるんだ。
もちろんパン屋から始まり、商会の受付。針子、侍女、や侍従、下女、騎士、衛兵、農夫など様々な職業が書かれている。
自分にはどれが向いているだろう?
多分、王都では暮らせない。最悪の場合は国をでなければならないことも考えておかないと。そうか、隣国では言葉が違う可能性もあるのよね……?
その辺りも考えておかないと。
確か第二言語を習うのは三年生だったはず。
間に合わないわ。
私は焦る気持ちを抑えながら第二言語の本を探して読み始めた時、男性従者に声を掛けられた。
「ミルロア様ですね」
「はい。誰ですか?」
「私、エンストレーム家の使いの者でございます。ミルロア様にこれを渡すようにと仰せつかりました」
テア様の従者のようだ。
彼が私に直接手渡してきたのは一枚の手紙。きっちりとエンストレーム公爵令嬢の印が押されている。
「私に、ですか?」
「ええ、直接渡すように言われております。返事もその場で聞くようにと」
従者がそう言うと、ラニャは珍しく、手紙を渡すように手を出してきた。
「ミルロアお嬢様、私が確認します」
「はい」
私は言われるがままラニャに手紙を渡した。
この場で返事が欲しいって普通はないよね。もしかして何度か男爵家に手紙を送ってなしのつぶてだったのかもしれない。
ラニャは封を開け、読み始めた。
……ラニャはやはり文字が読めたのね。
これはより一層気を付けないといけないわね。
「お嬢様、どうぞ。参加しても問題ありませんが……。本来ならもっと早くに知らせるべきではありませんか?」
「本来であればそうですが、こちらとしても様々な手続きを行った上でこの期間になっていますから。そこはご了承ください」
ラニャは苦言を呈しているけれど、従者は気にしていないようだ。
「……仕方がないですね。妹のアシェリー様を同席してもらう方が良いと思われます」
「……アシェリー?」
直接話したことのない妹が同席?
「ええ、アシェリー様には後でお伝えしておきます」
私が何か言う前にラニャは全てを決めてしまったようだ。ラニャから手紙を受け取り、目を通す。
テア様からお茶会の案内状だったようだ。
しかも来週……。
本来なら私一人で参加するべきものじゃないのかしら。
「妹が同席しても構わないのですか?」
私は従者にそう聞くと、彼は私がケラディナスだということは知っているようで頷いた。
「お返事も頂いたので、私はこれで」
従者はあっさりと踵を返して行ってしまった。
「ラニャ、このお茶会、来週ですよね? 服はあるのでしょうか」
「マダムの店で作られたお茶会に着ていく服は既に我が家に届いております。ですが、一度袖を通してみないといけません。今日は早めに男爵家へと戻られた方がよいと思います」
「わかりました」
そうして私は男爵家へと急いで戻った。
「ミルロア、お帰りなさい」
「お母様、ただいま戻りました」
母は心配しているかのように話し掛けてきた。
「今日の帰りは早かったのね。何かあったの?」
「エンストレーム公爵令嬢様からお茶会の案内状を直接いただいたのです。ラニャと相談した上で出席することになりました」
「ラニャ、それは本当なの?」
「はい、奥様。エンストレーム公爵家の印が押されており、その場で返事が欲しいといわれましたので返事をさせていただきました。ミルロアお嬢様一人では難しいと思われたのでアシェリー様がご同行することも伝えました」
ラニャの言葉に母の表情は一瞬翳ったが、アシェリーの名前を出したおかげか笑顔が戻った。
私一人ではだめな理由がある……?
やはり知識を入れられるからとか?
半年程度で今更知ってもとは思うけれど。まだ何かあるのかもしれない。
私は静かに様子を見守ることにした。
「そう、ならアシェリーも準備をしないといけないわね。ふふっ、これを機にアシェリーも気に入られるとよいわね。メイフィ、アシェリーにこのことを伝えてちょうだい」
「畏まりました」
母に付いている侍女のメイフィは頭を下げ、アシェリーのところへ向かった。
「お嬢様、ではお洋服を決めなければいけません。ではお部屋に戻りましょう」
「わかりました」
「お母様、では失礼します」
私はラニャと共に自室へと戻り、お茶会に参加するための洋服を選びはじめた。
公爵家に行くのにローブを着て行くような話もあったけれど、悪目立ちするということでマダムの店で作ってもらった服を着ることになった。
そしてクレマチスの飾りも付けるみたい。
わざわざ参加者にわかるようにしているのね。




