21 願われた死
翌日も、そのまた翌日も図書室に通い、本から情報の収集を行う。
国や宗教が関係する本ばかりでは怪しまれるので様々な本を手に取り、読む。私が挿した手紙は既に無かった。誰かが持っていったのか、職員が廃棄したのかはわからない。
返事がくるのを待つしかない。
そうして手紙を書いてから三日後、いつものように図書室で本を探していると、手紙がまた同じように挟んであった。
……返事が来たのね。
私は急いで小さく折りたたみ、また靴の中に仕舞う。今度は何が書かれているのかしら。
「お嬢様」
「ラ、ラニャ? どうしたのですか」
いつものように席に着いて本を読み始めた時にラニャが珍しく声を掛けてきた。
「お嬢様、明日、街へ参りませんか?」
「街、ですか?」
「ええ。先ほど、ペリト様と行かれたお店から連絡があり、仮縫いが出来たので来て欲しいということでした」
「分かりました」
私は本を読みながらそう答えた。街へ出れるのね。どんなお店があるのか詳しく知りたい。
「ラニャ、マダムのお店が終わった後、各地の珍しい物を扱っている商会というのを見て見たいです。行ってもいいですか?」
「ええ、もちろん構いません。こちらの方で行く場所を選定しておきます」
「ありがとう」
……良かった。
どんなお店に連れて行ってくれるのかしら。
男爵家はお金がありそうだからそれに相応のお店にいくのかしら。って、ちょっとまって。
うちは男爵家なのになんでこんなに父や母は上位貴族のような格好をしているの?
両親が領地の話をしているところを聞いたことがない。
まさか、もしかして……。
私はそれ以上、考えることを止め、本を閉じた。
「ラニャ、今日はもう家に戻ります」
「畏まりました」
そうして私は邸に戻り、先日と同じようにベッドのしたに手紙を入れ、夜が来るのを待った。
「お嬢様、おやすみなさいませ」
「ラニャ、お休みなさい」
そう言って静かに扉が閉められた。
焦っては駄目だ。
命が掛かっているのだもの。
しばらく待って扉の外を確認した後、ベッドの下に手を入れて手紙を確認する。
―ケラディナスへ。
君が知りたがっていた聖女の戴冠式は来年の二月だ。
だが、逃げようと思うな。儀式が行わなければ国が滅亡すると言われている。国中がお前を探し回るだろう。
儀式については大まかにしか分からないが、王宮で聖女の戴冠式が行われた後、聖女はそのまま馬車でラミリアーナ湖にあるカッカランの祭壇で儀式をすることになっている。
カッカランの祭壇には王族と神官がその場に立ち会うことになっている。
聖女は聖なるナイフで自らの胸を刺し、そのまま崖から身を投げると、クレマチスがラミリアーナ湖を覆い、儀式が終わる。
あと、教会についてだが、君が来るのを待っている。
保護をするのが目的だろう。
男爵家から逃げたいのであれば教会へいくべきだ。―
背中に冷たいものが流れる。
来年の二月に儀式が行われる……。
短い文を何度も、何度も読み返し、理解ができるように噛みしめる。
逃げたとしても国中が私を探し回る。
逃げられないということ、よね。でも、分からないことがある。
湖に身を投げたらクレマチスが湖を覆う……?
何か仕掛けがあるの?
この世界で魔法があるとは思えない。本で知識を得ているけれど、そんな描写はないわ。
でも、考えてみれば私自身が前世を思い出すことも普通ならありえないことよね。
もし、もしも私に何かが起こせるのだとしたら? そんな能力が私に備わっているの……?
ラニャたちは目覚めさせないようにしている?
そんな風には見えない。
ただ、逃げないように知識を与えないという感じ。
私の死にクレマチスが反応するということ?
身を投げて死ぬ高さの崖なの?
恐怖と焦りで考えがまとまらない。
落ち着かないと。
私は気分を変えようと窓を開けた。
心地よい風が私の頬を撫でていく。
死ぬということ。
国中から望まれた死。
ぽたりと涙が頬を伝い、落ちていく。
ふと窓の下に視線を落とした。
どうやっても逃げられないの?
死にたくない。
殺されたくない。
殺されるのなら、せめて……。
ここで飛び降りて死ねばすぐに楽になれる――。
そう思い、私は身を乗り出した時、一つの疑問が浮かんだ。
もしかして湖に飛び込んで死なないから胸を刺すのよね。湖に飛び込む理由はクレマチスが一面に広がるから……?
広がるって液体、ということは血液……?
私の血液に何かあるの?
まさか、そんなことってないわよね。
そんな非現実的なことなんて起こるはずがないわ。
そう思いながらもドキドキと早鐘を打つのが止まらない。
私は飛び降りることを止め、ゆっくりと身体を起こして窓を閉めた。
静かな部屋には月明かりが射しこんでいる。
―カタリ。
私は引き出しを開け、ペーパーナイフを取り出した。
以前、大怪我をした時はきっと血もたくさん出ていたはず。今まで怪我という怪我をしてこなかったし、目覚めたあの日、周りには何もなかった。
もしも、私の考えが合っているのだとしたら……。
震える手でペーパーナイフを持ち、小さく指を突いた。
指から滲み出てくるのはやはり赤い血だ。
何の変哲もない。
やっぱり儀式には仕掛けがあるのよ。そう自分に言い聞かせながらテーブルに置いてある水差しの水を指に垂らした。
すると――。
血は水に混ざり、みるみるうちに赤色が緑色へと変化し、蔦を、葉を伸ばした。




