20 手紙
翌日、いつものように両親と食事をし、学校へ登校する。
「ではお嬢様。何かあればすぐにお呼びください」
「わかりました」
クラスメイトはいつも通りの対応だ。
クロード様からも特に話し掛けられることなく授業が始まった。先生たちも私を気にすることもなく授業は進んでいく。
授業は分かるようになってきたけれど、果たして私に必要なのかと言われればノーだ。
貴族としての一般知識や王宮に勤める人たちの知識。算学なども習うけれど、苦手な生徒も多いようだ。
過去の感覚だけが思いだしたのだと思っていたけれど、簡単なものは難なく解けた。
もしかして体にも記憶の中にも染みついていたのかもしれない。
学院では簡単な算学だけなので私でも通用している。もっと算学を学びたい場合は大学校へ進学する必要があるのだとか。
まあ、もっともそこまで学ぶのは極一部の人たちだけだよね。
「みなさま、ごきげんよう」
「「ごきげんよう」」
そうしていつものように授業は終わり、私は図書室へと向かう。
宗教関連の書籍よね。えっと、この辺りに……。
いつものように平静を保ちながら宗教関連の本棚へと向かった。
宗教関連の本はかなり多いのね。信仰心と物語は切っても切れないものなのかな。
私はパラパラと本を見て選んでいく。そして一つの本を棚から取り出した時、ひらりと手紙が落ちてきた。
どうやら本と本の間に挟まっていたようだ。
何かしら?
裏には「聖女ケラディナスへ」と書かれてある。
つまり、私のことよね?
一体誰が?
ここで封を開けて読みたい衝動にかられたけれど、咄嗟に小さく折りたたみ、靴の中に仕舞った。
何事もなかったように本を抱えて席に戻る。
相変わらずラニャは関心がないようだ。監視役としてはどうなのだろうと思わなくもないが、そのおかげで私はこうして情報を得ることができている。
宗教関連の本を読んでみてもどれもファンタジー要素が強くて役立ちそうにない。
神様は天候や植物を操るような描写があり、それに基づいた信仰で出来上がった宗教なのかもしれない。
そして度々出てくるのは聖女という名前。けれど、初代王妃のシルフェリアールやケラディナスという言葉は出てきてはいない。つまり選んだ本は欲しいものと違ったのだろう。
「お嬢様、そろそろ邸に戻る時間です」
「わかりました」
私は本を元に戻し、そのまま邸へと戻った。
自室でラニャに着替えを手伝ってもらう。靴はベッド横に置いてあるためそっと靴を脱ぎ、手紙をベッドの下へと潜り込ませて靴を履き替えた。
……よかった。
ラニャはワンピースを片付けていて気付いてはいないようだ。
手紙が見つかるかもしれない。不安が視線を泳がせてしまうわよね。
どこか一点を見つめ、何も考えないようにしないと……。
こうして私はラニャが居なくなる夜までぼーっとすることにした。
「お嬢様、ではお休みなさいませ」
そうしてラニャはいつものように部屋を出て行った。
すぐに戻ってきたりはしないわよね?
そっとベッドを出て、扉を少し開けてラニャの足音を確認する。
大丈夫みたい。
夜ももう遅い。月明かりだけが部屋の中を照らしている。
私はドキドキと速くなる鼓動を抑えながら扉を静かに閉めてベッドの下へと手を伸ばした。
「あった」
ヨレヨレになった手紙を持って窓際に立った。
そこに書かれていたのは――。
――あなたは何も知らされていない。
我々も教えるなと言われている。
君は何を知りたいのか。
知りたいことがあればこの手紙が挟まっていたところに手紙を挟んでほしい。
私に答えられるものはこたえよう――
誰だろう。
この手紙を書いてくれた人は。
思いつかばない。
でも、こうして教えてくれようとしてくれている人がいる。
それだけで私は救われた気持ちになる。
涙が溢れてくる。
こんなに短い文なのに。
嬉しかった。
たとえこれが罠であったとしても。
私は早速鞄からノートを取り出し、ビリビリと真ん中のページを破いた。便箋にすればラニャにバレる可能性がある。
少しでもその可能性を低くしなければ。
そうして昔のことを思い出して手紙を小さく折りたたんだ。授業中手紙を書いて後ろの人に回してもらっていたっけ。懐かしい。
何を書いたかなんて覚えていないけれどね。
書いた手紙は明日使うノートに挟んでおけば問題ない。
……絶望という漆黒の闇から一筋の光が射した。
大丈夫、まだ大丈夫。
やれることはやりたい。
私は身体を動かした後、眠りについた。
―翌日。
私はいつものように食事をし、学院へ登校し、授業を受ける。
そして手紙をそっとポケットに仕舞って図書室へ向かった。誰にもばれないように。自分が罪を犯しているんじゃないかという罪悪感が指を冷たくさせている。
昨日と同じ場所には新しい手紙は無かった。
私からの反応を待っているのかもしれない。
私はそっと胸元から手紙を取り出し、本と本の間に手紙を差し込んだ。
落としてもいいように。
誰に見られてもいいように。
罠かもしれない。
そう思って手紙の内容は軽いものにした。
あとは返事を待つだけ。その間にも私は別の本から情報を得なければならない。
今日も収穫はなし、か。
パラパラとめくったけれど良い情報はない。教会に行って話を聞くべきなのかしら。
でも、両親やラニャは私を教会に近づけさせないようにしているのではないかと思う。
だって宗教の話題が一切ないもの。
もし、私がケラディナスというのであれば教会がなにもしないってことはあるの?
それこそ教会に引き取られ、儀式までの間監禁されるんじゃないのかな。
そうなれば確実に逃げ道はない。地道に情報を収集するしかない。




