18 探していたもの
「ミルロア嬢、もう大丈夫なのか?」
「おはようございます。昨日はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
私はクラスに入り、すぐに謝罪をする。
「ミルロア様、心配しましたわ」
「ありがとうございます。少し、貧血を起こしただけなので問題ありません」
「貧血……? それは一大事ですわね」
「? ええ、貧血気味だと言われ、昨日からレバーペーストを食べることになりました」
話かけてきた令嬢はとても大げさに驚いて心配しているようで不思議な気分になった。
「そう、良かったわ。早く貧血を治して下さいませ」
「? は、い、ご心配ありがとうございます」
そう話をしている間にクロード様は教室へと入ってきた。
私は彼を見つけると、すぐに彼の元へと歩いていった。
「クロード様!」
「ミルロア嬢、もう体調はいいのか?」
「はい。昨日はご心配をおかけしました。もうすっかりこの通り、良くなりました」
「そうか。あまり無理はするな。君はこの国にとって大事な存在だからな」
!!
この国にとって……?
「あのっ、この国にとってというのはどういうことなのですか?」
私は咄嗟にクロード様に聞き返していた。
今までの自分からはおかしなことを言っていると思われるかもしれない。
でも、それでも、少しでも情報が欲しいと思ったの。
「君はケラディナスだからだろう?」
クロード様は不思議そうにしながらそう答えた。
「ケラディナス?」
私がそう聞き返すとクロード様は視線を彷徨わせ、言葉に詰まってしまった。
「……その話は、控えた方がいいのではないか?」
「分かりました。クロード様、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。昨日は本当にありがとうございました。では、失礼します」
これ以上人がいる中で話すような事柄ではないということは分かった。
私はそれ以上聞かず、クロード様に再度謝罪とお礼を言って席に着いた。
やはりここでも出てきた名前。
ケラディナス。
私以外の誰もが知っている言葉。
そしてそれには国が関わっている。
クロード様を困らせてしまったけれど、他のクラスメイトには聞こえてはいなかったようだ。
聞こえていたらどうしよう。
どこかへ通報されるのかしら。
あとは図書室で調べていくしかない。
授業は徐々に分かりかけてはきている。毎日復習している成果が出てきているのよね。
そう思えば不思議ともっと勉強しようと思える。
授業に集中している時間は不安も紛れる。
焦る気持ちを外へ出さないようにして、私は授業が終わるのを待った。
「お嬢様、体調は大丈夫でしょうか?」
「ええ、問題ありません」
ラニャは授業が終わるとすぐに教室内に入ってきて、心配そうに声をかけてきた。
「みなさま、ごきげんよう」
ラニャが教室内に入ってくるのは珍しい。よほど心配していたのかもしれない。
「ラニャ、今日も本を読みたいです」
「体調が良くなってからでもよろしいのではないでしょうか?」
「大丈夫です。途中の本の続きが気になって仕方がないのです」
「珍しいですね。わかりました。具合が悪くなったらすぐに言ってください」
「はい」
ラニャは折れてくれたようだ。
あまり無理を通すとまた眠らされそう。
気を付けないと。
私は黙って図書室へと歩き出した。
いつものように本棚の通りを歩いて本を取り出していく。
語学の本や国の歴史書を中心に。最初に国の歴史書を読んだときは成り立ちを中心とした神話的なものだった。
作り話のような子供向けの簡単な本だったのね。
まだ読むのにも時間が掛かっていたから。
教科書にはケラディナスという言葉は書かれていなかった。
今回はより政治的なものが書かれた本にしてみた。
これまで領地の特産品や政治の本を読んでいたからラニャも油断しているのかもしれない。
……というかラニャは文字が読めるのかしら。
よく考えてみたらラニャのことを私は全く知らない。
今度聞いてみてもいいかも。
そう思いながら本を開いた。
国の行事と一口に言っても様々なものがある。国王の挨拶から始まり、外交儀礼や宗教儀礼が細かく載っている。戴冠式やパレードもあるのね。
私は一ページ、一ページ行事の内容を確認しながら読んでいく。
そしてあるページに辿り着き、めくる手を止めた。
……手が冷たくなっていくのが分かる。
――シルフェリアールの檻、ケラディナスの解放
十八年に一度、シルフェリアールの紋を持つ者に『聖女ケラディナス』の戴冠が行われる。戴冠されたケラディナスは国王と共にカッカランの祭壇に向かう。聖女ケラディナスは祭壇にて天に還り、国王はアスベガの子孫として祝福を見届ける
※ケラディナスとは、十八年に一度選ばれる聖女の称号である
――
まさか。
これは本当なの?
何度も何度も短い文を読み直す。
けれど、書いている文章は変わることはない。
まさか。
まさか。
まさか。
私は……ごくりと唾を飲んだ。




