15 深まる謎
「ペリト様、今日はありがとうございました。とても嬉しかったです」
「喜んでくれて嬉しいよ。また今度、時間が取れたら一緒に街に出掛けよう」
「はい」
私はペリト様に挨拶をして、部屋に戻った。
ラニャは黙々と私のドレスを脱がせ、軽食をテーブルの上に置いたらさっさと部屋を下がっていってしまった。
今日は二曲だけ踊って早々に帰ってきたからまだ時間もある。
ベッドに潜り込み、先ほどのことを思い返す。
テア様はペリト様の本当の婚約者はオランジェール・アルフィリア様と言っていた。
本当の婚約者?
「本当の」ってどういうことなの。私は飾りとも言っていた。常識的に考えて飾りの私を婚約者に仕立て上げる理由って。
オランジェールという人は誰かに狙われているの?
それともオランジェールって人は理由があって表に出てこられないような方なのかしら。
私はテア様に聞いてしまったことにも後悔している。彼女が敵か味方かも分からないのに。
もし、ペリト様に話をしていたらどうしよう。
私のいないところでペリト様とテア様、オランジェールという人たちと一緒になって陰で笑っていたら……。
話したのは失敗したかも。
頭の中をぐるぐると嫌なことばかり過る。もう、駄目かもしれない。明日からどうしよう。
今まで一人で考えていたせいで一体何が正解なのか分からない。とりあえず、何を聞かれても今まで通り黙って過ごすしかない。
今日のことは一旦忘れて寝てしまおう。
でも、どうしよう。
だめだめ、忘れて寝る。
私は悩み、もんどりを打ちながら夜を明かしてしまった。朝方に両親がなにか騒ぎながら帰宅してきたのを聞いて私はようやく眠りについた。
気が付くと昼頃まで眠っていたみたい。ラニャは起こしにくることはなかった。
舞踏会の翌日は疲れて寝ているだろうという配慮なのかもしれない。
ふと外を見ると、今日は天気がいい。
こんな日は中庭で日向ぼっこをするのもいい。そんな考えを持ちながら窓を開けると、珍しく弟が中庭で誰かとお茶をしているように見えた。
確か弟のアヴィルは十歳。
昨日の舞踏会にはまだ参加できなかったはずよね。だから日中お茶をしているのね。相手の人は誰だろう?
アヴィルの婚約者なのかも。
しばらく様子を見ていると、どうやら弟は女の子を怒らせてしまったらしい。女の子は弟にお茶をかけて中庭を出て行ってしまった。弟は追うことはしないみたい。何か無神経なことを言ってしまったのかもしれない。
ジッと私が上から見ていると、弟は私に気づいたようで中庭を出て行ってしまった。
ラニャが部屋にくるまでの間、何をしてよう。
ぼーっと座っているしかないかな。
なんて思っていると、突然扉が乱暴に開いた。
「おいっ!! お前っ! さっきのことを見ていたんだろっっ!」
どうやらアヴィルは私に怒りをぶつけにここまでやってきたようだ。
「……それがどうしたのですか?」
「気持ち悪いんだよ!!」
「……」
「何か言ったらどうなんだっ! ケラディナスのくせにっ!」
「……?」
「お前っ! 俺を馬鹿にしてるんだろっ! ケラディ――うぐっ」
「坊ちゃんっ!」
後ろから追いかけてきた従者に口を覆われて弟は言葉を発せずにいる。
「アヴィル坊ちゃん、戻りますよ。ミルロア様、大変申し訳ございませんでした」
従者は謝罪の言葉を口にし、アヴィルの口を覆ったまま抱えてすぐに部屋を出て行ってしまった。
全く、忙しい弟ね。
私がやれやれと思っていると、ラニャが部屋へと入ってきた。
「ミルロアお嬢様、ご無事でしたか?」
「ラニャ? 私は大丈夫です」
ラニャは慌てて走ってきたのか髪の毛が少し乱れている。まさか私が起きているとは思っていなかったのかもしれない。
「ラニャ、少しお腹が減りました」
「畏まりました。すぐに用意します」
そう言ってラニャは一旦部屋を出てすぐに一口大に切られたパンと果物が乗った皿を持ってきた。
「今、お茶もお持ちしますね。どうぞ先につまんで下さい」
ラニャはそう言ってまたお茶を取りにいってしまった。食べ物だけもってきてお茶を忘れるなんてラニャには珍しいわね。
そう思いながらパンや果物を食べていく。食べ終わる頃にようやくラニャはお茶を持ってきた。
「ミルロア様、遅くなりました。すぐにお茶を淹れますね」
そう言ってお茶を淹れ始める。
「先ほどアヴィル様がお部屋に入ってきたと聞きましたが、何か言っておりましたか?」
「……いえ。ぼーっとしていて、ケラ何とかと言っていたような気がしますが、怒りながら何か言っていたので上手く聞き取れなかったのです。彼は何と言っていたのですか?」
「そうでしたか。先ほどアヴィル様は婚約者の令嬢を怒らせてしまったと聞きました。頭に血が上っていたようですね。ミルロア様に八つ当たりがしたかったのかもしれません。さっ、冷めないうちにお茶をどうぞ」
私は勧められるがままお茶を飲む。
……あっ。この味。また、あの味だわ。
少し粉っぽいこの味。
そう思っている間にまた眠くなってきた。
ああ、またか。
私はやはり、何かを隠されている、の、ね……。
私の意識はそこで暗転した。




