13 舞踏会
そうして私はまた図書館通いをしながら少しでも知識を得ていく。
本当に毎日必死に勉強していったの。周りは相変わらず私とは付かず離れず。
入学して三ヶ月が過ぎた頃に私は怪我を負って今の意識が芽生えた。
そこから半年は過ぎた。
実はまだ教科書の知識が追い付いていない科目もある。
先生は授業についていけない私に今までも配慮してくれていたが、授業を真面目に受け、教科書を読む私の姿を見て、更に優しくなったような気がする。
「ミルロア様、明日は舞踏会のため、図書室に寄らずに帰宅するよう旦那様から言われています」
「分かりました」
私としたことが、忘れていたわ。
明日は久々の舞踏会だった。ペリト様とまた踊ることができるのは嬉しい。
母は心配だから欠席した方がいいって言ってたけれど、反対に父は参加した方がいいって珍しく意見が分かれていた。
結局、私は舞踏会に参加することになったんだった。
馬車は邸に着いて、いつものように自室に入ろうとすると、男の子が駆け寄ってきた。
「おいっ! お前っ! いい気なるなよ。お前なんてすぐ死ぬくせにっ!!」
「……?」
「アヴィル様、なんて酷いことを。すぐに旦那様に報告しますから」
珍しくラニャが私の前に立ち、感情的になっている。
えっと、確か、あの男の子はもしかして私の弟……?
「なんだよ! 俺は悪くない! ばーか、ばーか」
そう言ってアヴィルは私に向かって揶揄う仕草をした後、また廊下を走っていってしまった。
「っもう! アヴィル様は」
「元気ですね」
「ミルロア様、アヴィル様のことは気にしないで部屋に戻りましょう」
「……」
私は無言のまま部屋に入り、部屋着に着替えた。
すると私を待ち構えていたように何人もの侍女たちが湯あみに付き添い、私の身体のマッサージしてくれている。
私はただそれを受け入れるだけ。
「……さっきのアヴィルというのは、私の弟なのでしょうか」
私はぽつりと呟くと、侍女たちは手を止めて視線を一瞬泳がせていたのが分かった。
どうやら質問がまずかったのかもしれない。侍女たちは答えなかったが、ラニャが代わりに答えてくれる。
「先ほどミルロア様に暴言を吐いたのは確かに弟のアヴィル様でいらっしゃいます。彼は持病を持っているので、ミルロア様と普段はご一緒することはありません。ご安心下さい」
「分かりました」
私はラニャにそう答え、それ以上は聞かなかった。聞けなかったと言った方がいいのかもしれない。
……まただ。
またジワリと心の中で重く広がる感覚。小さく何かが違うと訴えている。
存在は知っていたが、今まで会ったことのない弟からの言葉。彼は先ほどなんて言った?
そもそもなんで兄弟なのに一緒に過ごしていないの?
私はぼんやりと考えていると、ラニャはいつものようにぼーっとしている私に戻ったと思ったようでそれ以上何も言ってはこなくなった。
弟は私を憎んでいる?
会ったこともないのに?
疑問がまた疑問を呼ぶ。
こんなに悩んでも一向に解決できない自分にモヤモヤする。そろそろ一人で考えるには限界に来ているのかもしれない。
――翌日。
「ミルロア、久しぶり。そのドレス、とても似合っているよ」
「ペリト様、ありがとうございます」
「では、行こうか」
「……はい」
今日は王宮が主催する舞踏会だ。
今年はこれが最後の舞踏会になっている。最後の舞踏会ということもあり、会場にはたくさんの人が溢れている。父たちは後から来るらしい。
私はペリト様に連れられ、今日の主催者である国王陛下と王妃陛下の下へ挨拶に向かった。
「王国の太陽であらせられるサリュート国王陛下とエシュリーナ王妃陛下にお会いできたことを恐悦至極に存じます」
私たちは礼を取り、ペリト様が口上を述べる。すると、陛下たちは手を挙げて応えている。
「うむ。ポールク侯爵子息、モルターユ男爵令嬢、久しぶりだな。モルターユ男爵令嬢が怪我をしたと聞いた時は肝が冷えた。回復できたようで何よりだ。本日は無理せぬようにな」
「陛下のお心遣い。ありがとうございます」
簡単な挨拶だったけれど、陛下たちは私の怪我のことをとても心配してくれていた。
王族がたかが一貴族のことなんて、と思っていたからとても驚いたし、嬉しかった。
「さあ、ミルロア。他の人たちに挨拶をして回るよ」
「はい」
ペリト様は優しく私をエスコートして貴族たちに挨拶をして回る。
どの貴族も私が怪我をしたことをとても心配してくれていた。なんだかこちらが申し訳ない気持ちになるわ。
一通り挨拶を終えたところでダンスの時間となったみたい。
みんながダンスをするためにフロアへと歩いていく。
軽やかな音楽が流れ始め、始めに国王陛下と王妃陛下がダンスを披露する。二人とも息が合っていてとても美しい。長年連れ添った相手を思いやるような二人のダンスに私はうっとりとしていると――。
「ミルロア、私たちも踊ろうか」
「はい」
私はペリト様に手を引かれ、二曲目が始まる前にダンスフロアへと入り、礼をしてから踊り始めた。
「ミルロア、問題なく踊れているようだね」
「はい。ペリト様に恥をかかせないようにダンスだけはしっかりと覚えました」
「嬉しいことを言ってくれるね」
一曲目が終わり、二曲目がなり始めた。
もちろん私たちは婚約者なので二曲目も続けて踊る。ペリト様の上手なリードで私はお姫様になったような気分になる。こんなにも幸せでいいのかしら。
私は心地よい気持ちのまま三曲目は踊らずに壁際まで歩いていく。
「二年後は三曲目も踊ることになる。あと二年が待ち遠しいね」
「はい。私ももっと上手に踊れるように頑張ります」
ペリト様と二人で三曲目の話をする。
三曲目続けて踊れるのは夫婦のみなので、少し気恥ずかしいけれど嬉しさもあって笑みが零れた。
ペリト様も私の様子を見て笑っている。
嬉しい。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに。
早く結婚できないかな。
なんて思っていると、後ろから声がし、振り向いた。




