12 日常(他者視点あり)
翌日からまた普段の生活に戻る。代り映えのない日々。授業には付いていけずひたすら教科書の最初の方を読み返し、何度も頭に入れる。
自分は本当にこれでいいのだろうか。
暗闇の中を手探りで歩くように不安な気持ちを抱えたまま過ごしている。
勉強をいくらしても成果が見えない。
本当に自分の力になっているの……?
誰にも相談できないし、泣きたくなってくる。でも家族やラニャに相談すればきっと「無理をすることはない。必要ない」と言われるだけ。
何も知らないという恐怖。
こんなにも知らないことが怖いだなんて考えてもみなかった。
そうして悩みを抱えながらも図書館へと通い、本を読む日々。最初の頃こそラニャは私を心配して、本の内容を確認しているみたいだったけれど、最近は慣れてきたのかどの本を選んでいても何か言われることはないみたい。
そのおかげで最近は地域の特産品や平民の生活、貴族の生活について少しずつ分かってきた。
少し前にペリト様に連れて行ってもらったおかげでなんとなくイメージもしやすい。
そしてこの国に限らず、だとは思うけれど、地図という地図はない。これは他国に知られると拙いんだったかな。
大雑把な国の位置と領地などの位置関係を記したものは見ることができた。この国の名はミディリオリールというらしい。それすらも知らなかった私は本当に無知よね。
右上にはジャリード国、左下にはフォルドロール国に挟まれていて、過去にはよく戦争が起こっていたようだ。
そう思えば神話だと思っていた国の成り立ちもなんとなく理解ができる。でも本当に女神の力がこの国にあるなんて思えない。
ふと思い出したけれど、魔法という概念はもちろん存在しない。ただ、女神が起こす奇跡というのは度々物語に出てきているので創作上のものとしてそのうち概念が生まれているのかもしれない。
もちろん魔法という概念がないので魔女などはない。他国では呪術を行う人はいるようだが、この国では異端ということのようだ。
弾圧されたのかまでは分からない。
国を挙げた行事はあるようだけれど、私は今まで参加したこともないし、どんなものかも分からない。私って本当に無知ね。
これでどうやって侯爵夫人として過ごせるのか甚だ疑問だわ。私は子を儲けるだけの存在なのかしら。
恋愛の本や冒険譚には「貴族は強くあらねばならない、女性、子供の地位は低い」という考えが出ているようにも思える。
家同士の利益を産むための道具のような感じなのもしれない。
道具に知識は必要ないのだろうか。
でも、本の中には女公爵なんて言葉もあるみたい。それにクラスにも女性はいる。彼女たちは必死に学んでいるわ。
今度、勇気を出してクラスメイトに声をかけてもいいのかもしれない。
でも、気を遣うだろうし、「馬鹿だな」って見下されたら恥ずかしいからもう少し知識を付けておいてから聞いてみることにしよう。
――〇
「準備の方は順調か?」
「恙なく」
「うむ。ここ最近、国内外の情勢は安定しているが油断できぬからな」
「シルフェリアールの枷はどうなっている?」
「そちらの方も問題ありません」
「ふむ」
白髭の老人は髭を触りながら何かを考えている様子。
「親の方はどうなっている?」
「相変わらず金にがめついです。こちらで檻を引き取ると言っても全く聞く耳を持ちません」
「ふむ。シルフェリアールの枷はこの国の宝だ。あれに何かあれば国が滅びる」
「あの話は本当のことなのでしょうか?」
従者が老人に尋ねた。すると老人は顔色を変えず、過去を思い出すように口を開いた。
「ああ、あれは本当の話だ。シルフェリアールの枷だけがこの国を救うことができる」
「信じがたいですね。あれはただの言い伝えとばかり思ってますよ」
「今は信じられなくとも、いざ目にしてしまえば、信じるしかなくなるだろう」
「そんなもんなんですかね」
「そんなものだ」
――〇




