8話 紋章学
授業を受け放課後にはセイルと駄弁る。その後に図書室という流れを繰り返して1週間。
学園生活にも慣れてきた頃、興味の惹かれるものがあった。
それが…
「はい、じゃあね、皆さん2年の中期に入ったということで『紋章学』を初めて行くよ」
気の良さそうな、腰が曲がったおじいちゃんの先生。
レガルト先生が担当する『紋章学』。
これが様々なことを既に経験してきた私からしても、かなり面白く感じた。
「まずね、チミらの右手の甲。そこに何かしらの紋章が刻まれてるねぇ?」
レガルト先生が右手の甲を見せつける。パッと見は何も無いが、そこへ魔力を一度流してしまえば……
長い蛇のような刻印が青の光で灯った。
「これが、紋章。チミら、魔力の使い方はもうマスターしてるよねぇ?じゃあ、やってご覧」
ここまでは皆簡単。ほとんどのものはつまづくことなく光を手に灯した。
「…はい、そこまで。さて、この紋章。どんな意味があるか分かる人はいるかな?」
「『異能』を扱うためです!」
「正解」
どうやら人族ではこれに起因する力を『異能』と呼んでいるらしい。
魔族じゃ特に呼び名は無かったし、こういう所は人族を見習うべきだと思う。
「『異能』…これを実際に手にするものは、極わずか。僕の授業じゃねぇ、できるだけ多くの生徒が、いかに力を得るか。それを教えていくのよ」
レガルト先生は言いながら、魔力を練り水で蛇のような形を作った。
単純な力だがあれは…かなり、やるね。
「先生!どうやったら使えるようになるんですか!」
「はいはい、そう焦らない。まずは座学。理解を深めればそれだけ『発現』しやすくなるから」
つまんなーい、など声が聞こえてくるが構わずレガルト先生は板書を始めた。
面白いのはここからだった。
「…そこのチミ、どうして人…ひいては魔族等はこんな力を得たと思う?」
突然の問。教室内が困惑の色に染まる。
かく言う私も、よく分からなかったため同じく首を傾げた。
「ふふ、いやぁ、そうだよねぇ。分からないよねぇ」
期待通りの反応に楽しそうに笑うレガルト先生。
「だから、学ぶの。これから面白い話をするから寝ないようにね」
……
人も魔族も争っていなかった時代。ある魔族が『それ』を手に入れた。
『それ』は何とも言うべきかも分からない、ただ本能的にその魔族は理解し、力を振るった。
その魔族は魔族内を支配するに至り、やがて『魔王』と呼ばれるようになった。
そうして数百、はたまた数千の時を経て人と魔族は争い出した。
人は最初、魔族に為す術なくやられ領土を次々に失って行った。
そんな状況でも人々は挫けなかった。決して、折れぬ心で立ち続けた。
そうした中で人族にも、『それ』に触れるものが現れた。
後に『勇者』と呼ばれる青年は、果敢にも魔王へ立ち向かい共倒れの果て数年の平和を築いた。
───────『原初の刻印』より抜粋。
* * *
「…うん、似たような内容だけどこっちは紋章メインの話って感じかな」
放課後、私は部屋にてルリエナに報告していた。
どうやら近日中にヴェルトへも報告するため分かったことを知らせて欲しいらしい。
「かしこまりました。いつもご苦労様です」
「ううん……それよりも、さ…なんというか…ルリエナ、少し匂いキツくなった気がするんだけど」
「…何もありません。言わない以上は軍師殿は知る必要無いのです」
誤魔化された。なにか裏でやってるんだろうなぁ…
ヴェルトしかりこの兄妹はどこか掴みどころがない。
「あ、そうです軍師殿。1つ私からもご報告が」
「…?」
「私、この学園について情報を集めていたのですが1つ気になるものがありまして…」
ゴソゴソと、1つの紙切れをポケットから取り出した。
クシャクシャなんだけど…えっと…?
紙を開き、幾らかの情報を流し見る。そうして1つの単語に目が留まった。
『禁書庫』
「図書室のどこかにそこへの入口があるそうです」
「それを探せって…?」
無茶言うな。こんなのきっと噂に過ぎないだろう。
「…無理にとは言いません。ただ頭に入れて置いて欲しいなと」
「はいはい…余裕があったらね」
圧を感じるが、命令を出すのはヴェルトでありそのヴェルトから言われたわけじゃないなら放置でいいだろう。
噂に付き合うほど暇じゃないからね!
「では、私は定期報告へ行きますので…しばらく留守にします」
「了解。ご苦労さま」
「軍師殿も、どうかご健勝で」
ルリエナは私の部屋から出ていく。そして、気付けば気配ごと寮から消えていた。
あの子も、多分ヴェルトに似た力を持ってるんだろうな。というか、だからここへ寄越したんだろうし。
「私は今日の課題を済ませようかな」
久々に興味を持てる内容に出会えた。そのことで少し昂っている。
「レポート、それと魔力を込める練習で魔石に魔力を…ね」
あの先生面白いし、仲良くなりたいなぁ…




