77話 繋がりし力
「どんなに強い戦士でも、終わりは呆気ないものだ」
セイルは、今度こそ倒れた。致命傷を何度も受けて、それでも立ち上がろうとして。遂には身体の方が限界を迎えた。
そんなセイルを、バラムは賞賛する。
「誇れ、俺の枷を1つ外させたんだ。お前は立派な『戦士』だよ」
「…………」
「『戦士』として、名誉ある死を送ってやる」
既に決した勝負。しかし、まだ意思が折れていないのならば、止めを刺さないわけにはいかない。
それが、バラムにとっての『戦士』たる者の矜持。
バラムは、一振の大剣を天高く掲げ、今度こそその一撃を放つ─────
その時、セイルの手の甲。太陽を模した紋章が光り輝く。
* * *
エリシアはその戦いの行く末を見て、息を呑む。
セイルが倒れ、バラムが剣を振り上げた。
「お願い……」
信じることしか、自分には出来ない。
今からでも代わって受けようにも、バラムはその気にはならないだろう。
やはり、祈る。きっと、勝ってくれると。
「セイル……立って!」
トクン。と1つ、鼓動が鳴った。
2つ、3つ、4つ。続けて鳴る。
鼓動が、加速し、繋がっていく。
断たれていたものを繋げて、繋げて、繋げて、繋げて……
そして、立ち上がる。この街を守る『勇者』として。
* * *
勝手に、身体が動いていた。
セイルは本能的に危険を感じ取り、バネのように跳ね上がり剣撃を躱す。
「は?」
「……っ……」
辛うじて動いたものの、やはり死に体。至る所から、セイルは痛みを感じた。
長引けば勝機はない。そう判断したセイルは、痛みを堪えすぐに攻めの手を編み出す。
光の剣に、風の魔術を乗せて加速。同時に踏み込み、土の魔術によって自身ごと弾くことで更に加速。
「っらぁ!」
「ぐっ……」
セイルの攻撃。想定外とはいえ真正面からだ。当然、バラムが大剣で受け止める。
ギリギリと、剣と剣とがぶつかり合う。
力の差は歴然。セイルが、次第に押されていく。
それでもセイルは、限界ギリギリまで耐える。引きつける。
バラムの腕は完璧だ。ならばそこから崩す。その方が、想定外が生まれやすい。
「……もう」
判断は即座に。
セイルは、剣をずらし、力の重心をもずらして─────
そのまま、大地へとバラムの剣を押し付けた。
衝突。同時に衝撃が風圧となり正面から伝わってくる。
「なぁっ!?」
バラムの顔に驚きが浮かぶと同時、大剣が突き刺さったことによって、隙が出来る。間違いなく、今がセイルにとっての最後の好機。
セイルは、全身から魔力を搔き集めて剣に宿らせる。確実に仕留めるために、威力を求める。そのために、リーチを最低限まで排除。濃度をひたすらに上げる。
狙うべきは一点突破。その一撃に全てを賭ける。
「…僕なら、大丈夫だ」
言い聞かせ、バラムに視線をやる。そして…動き出した。
風魔術で再度加速。その上で、火の魔術の応用で煙を作る。
ここぞとばかりに、セイルは最後まで仕込みを完璧にしていく。
定石通りに、奇襲を成功させるために。
バラムの周囲が煙に包まれ、セイルの姿が消える。しかし、溢れ出る程に増大している魔力は隠せない。バラムの探知で追える範囲内だ。
「おいおいおい…さっき言ってやっただろうがぁ…」
これは、先ほどまでのバラムとの戦いを否定する行い。お利巧に戦っている。戦ってしまっている。
「それでもお前は、『勇者』であり続けるんだな?」
「あぁ、僕は、セイル・ルミナスは『勇者』だ!」
白煙に穴が空き、セイルが現れる。両手で、光の剣の切っ先をバラムに突き出している。
バラムはようやく大剣を引き抜くが、構えるのには間に合わない。素手で、受け止めようと動き出した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
セイルが、剣を─────振るった。
「あ?」
放ったのは突きじゃない。純粋な、一振り。
その一振がバラムの太く硬い手を、手首から切り離した。
「ちっ!」
バラムが痛みに顔を歪ませる。セイルはすぐに、本命の二発目を放つ。
一芯に集中した突きがバラムの心臓に迫る。正真正銘、絶命させるための一撃。
「させるかぁ!!!」
バラムがまだ生きている方の手で、止めようと腕を伸ばすも遅い。
巨体のバラムが片手を取られている。それは言葉よりも重い意味があり、単純に言えばバランスが崩れているのだ。
だからこそ出来る隙。逃す訳には行かない。
セイルはバラムの腕を通り抜け、ようやく間合いまで迫り─────
「させねぇ…俺はぁ負けねぇ!」
「っ!」
バラムは敢えて、前に出た。そして、脇腹でセイルの剣を受ける。
「がはっ……」
刺さった個所から血がダラダラと垂れ、口からも血を吐く。だが、バラムはまだ立っていた。
深手には違いない、されど、セイルもこれが最後のチャンスだった。
「まだ─────」
「もう待ってやらねぇ」
生き残るために、全ての制限を解除したバラムは止まることを知らない。
例え片手だとしても、今のセイルではもう…
「…まだだ」
誰かに、背中を押されたような感覚。
まだ戦える、戦って、勝ってほしいと願われている。
だから、立っているのだろうと、己を鼓舞する。鼓舞して、力を湧きあがらせる。
互いに満身創痍、次の一手で勝者が決まる─────はずだった。
「私。泥臭いの嫌いなんですよ。えぇ」
突如現れた女の声と共に、その一手は放たれることもなく終わりを告げた。




