76話 『断枷』の戦士
バラム・ヴィンクル。元魔王軍幹部の一人であり、生粋の戦い好き。
齢は150をも超え、生まれたばかりの頃などとうに覚えていない。
そもそもとして、バラムの記憶には痛烈な戦いの記憶しか残っていなかった。
そんな中でも、一際目立つ戦いは二つ。
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一つ目は、好敵手であり、友である魔王との戦い。
時は人魔大戦が起こり、魔族が劣勢になりつつあった頃。
魔王から、バラムに接触してきたのだ。
黒髪の、目つきの鋭い中背の男。魔族らしい特徴もないが、誰よりも魔族らしい。それが、彼と出会った時にバラムが抱いた印象。
「…アンタが、バラム・ヴィンクルで合っているか?」
「あ…?」
当時のバラムは100歳、魔王は、20近くと言ったところだろうか。
「俺の元に来い。思う存分、その力を振るわせてやる」
「なんで俺がお前の言うことを聞かねばならん。俺は強いやつとしか戦わねぇ」
「…なら、俺が勝てば付いてきてくれるのかな?」
「お前が俺を負かす強者足り得るならな」
この時のバラムは、知らなかった。この男が後に魔王と呼ばれるようになり、後の大戦を引き起こすようになるとは。
だから、絶対に負けるわけがないと思っていた。経験の差も、力の差も歴然だから。
当然のように、枷は外さぬままバラムは戦いーーーーー
敗れた。初動はよかった。順当に追い詰め、最後の一撃を放ってやろうとした。
そこからがおかしかった。
言葉では言い表せない。まるで、全てを掌握され。自身の為すことを否定されているような感覚。
いっそ愉快だった。ここまで己を傷つけることが出来るとは思っていなかったから。
最終的に、枷を全て外してようやく勝負は引き分け。バラムは魔王へと付いていく決心をした。
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二つ目は、人魔大戦中の出来事。たった一人の人間との戦い。ほんの、数年前のこと。
当時の趨勢は、魔族側は数では劣るものの、順当に攻め入り、領土を拡張していった。
そして、最も重要である工業地帯を束ねる東部。そこへ、訪れた際にその人間と出会った。
先遣隊を向かわせ、帰ってこないことに違和感を持ち、バラム自身が入ったところから始まる。
「あ……遅かったね。ということは、彼らは先遣隊、ってところかな」
「なっ─────」
立っていたのはたった一人の人間。白い髪を靡かせ、葉巻に火をつけているところだった。
「なんだぁ…てめぇ」
「君は変わった魔族だね。敵の名前が知りたいのかい?」
「ちっ…」
挑発的な態度に、バラムは苛立ちを覚えた。
この時のバラムは、魔王と接するうちに、少なくとも仲間意識というのを理解しつつあった。それ故に、苛立ちも大きかった。
だからだろう、これ以降の言葉はほとんどなく、ただがむしゃらに戦った記憶だけが残っている。
いつものように大剣で、その人間に斬りかかろうとして─────
「はぁ…?」
気が付いたら、だ。いつのまにかバラムは大の字で倒れ、その男だけが立っている。
意味の分からない現象。抗おうにも、既に力は奪われていた。
「絶対的強者って、言ってたっけ?どうかな…僕は、魔王を殺せるだろうか」
「ふざ…けんな…」
「ははっ、君の様子を見れば、答えは明白かな」
屈辱だった。
敵わないと本能的に理解させられて、立つことすら許されない『絶対』の領域。
自分じゃ至れないと、この時に嫌という程理解した。
「てめぇ……名前は……」
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は、エリック・ノルトライン。いずれ魔王を殺す『天剣』の勇者だよ」
「『天…剣…』?」
「もういいかい?君も相当な実力者だ。生かしてはおけない」
「クソ……」
怒りのまま、枷を外す。自身にかかっている制限を全て、代償など構わず。
「ァァァァァァァァァ!!!!」
─────
そこからの記憶はない。気付けばバラムは死も間近な程の傷を負って倒れ、エリックはその場を去っていた。
「絶対に、追い付いてやる」
その日から、バラムは『天剣』を目指した
* * *
「なぁ!セイルぅ!なんで起き上がらねぇ!やり返さねぇ!どうしたぁ!」
「……ぁ……ぁ……」
気付けばセイルは、全身に打撲傷を負いまともに剣も握れない状態に成り果てていた。
負ける。間違いなく、このままだと。
そう、セイルは理解して、今一度好機を探す。
「そろそろ決めるかぁ?」
胸ぐらを捕まれ、一瞬、視線が合う。
バラムは、心底楽しそうだった。セイルの目が、心は、まだビクともしていないから。希望を掴もうと手を伸ばし続けているから。
「まだ、だ……」
「はっ……だったら、証明して見せろや!」
セイルの身体が空に放られ、無防備に。
バラムが今にも踏み込もうと、姿勢を低くした。
セイルは今しかないと判断し、動こうとして、
「ぁ……ぇ?」
身体が、動かない。いくら意志が強かろうとも、その『器』は既に限界を迎えていた。
「終わりだぁ、セイル!」
飛び上がったバラム。容赦なく、セイルにその拳を放って─────
「………………繋がった?」
セイルの中の何かが、静かに動き始めた。




