69話 領主の言葉
北区から中央へ。するとやはり、景色はガラッと変わる。
お祭り当日、というのもあるがこの街独自の文化が大きい。
「ルーシアちゃん、あれは何?」
その中でも特に気になったもの。白く淡い光を放つランタンだろうか。それを待ち行く人が皆携えている。
「あ、そっか…ルナさんは知りませんよね。あれは雪灯っていう魔道具なんです」
「魔道具…?」
「はい。雪の自然魔力を利用して、光っているらしいんですけど…すみません、詳しいことは私にも」
なるほど通りで、微弱な魔力があちらこちらから感じ取れたわけだ。
「あれはどこで買えるの?」
「開催の時に貰えると思います。エリシアお姉さんから」
「へぇー…」
いい記念品になることだろう。
続けて街を歩いていると、中央区の更に真ん中。中央にて人だかりが見えた。
「なんだろ…」
「!エリシアお姉さんです。領主ですから、このお祭りの時は演説しているんです!」
まくし立て、強引に手が引かれる。
というか今、もしかしなくってもエリシアが領主って─────
* * *
『冬の寒さが佳境を迎えました。皆さん、いかがお過ごしでしょうか』
柔らかく、跳ねるような声音が魔道具によって街中へ広がる。
中央広場に集まっていた人々のざわめきが、波が引くように静まっていく。
屋台の店主は手を止め、子ども達は親の傍へと駆け寄る。誰かが静かにするよう促したわけではない。ただ、その場にいた誰もが自然と壇上へ視線を向けていた。
壇上へ姿を現したのは、一人の女性。
亜麻色の髪を風に揺らし、青緑の瞳で街をゆっくりと見渡す。
穏やかな笑みは、孤児院で見せていた優しい「お姉さん」のものと変わらない。
それでも今、そこに立つ姿は紛れもなく、このリードベルクを治める領主そのものだった。
『今年も、もうすぐ終わります。雪は深く、寒さも厳しく……今年も決して楽な一年ではありませんでした』
広場へ吹き抜ける冷たい風。
それすらも包み込むように、彼女の声は温かく街へ溶け込んでいく。
『それでも今日、こうして皆さんのお顔を見られることを、私は何より嬉しく思います』
街のあちこちから、小さく笑みが零れる。
頷く老人。肩を寄せ合う夫婦。恥ずかしそうに笑う子ども達。
誰もが、その言葉を自分へ向けられたものとして受け取っていた。
『結灯祭は、お世話になった方へ感謝を伝えるお祭りです。家族へ。友人へ。恋人へ。そして、この街で共に冬を越えてくださった皆さんへ』
広場を一瞥しながら、エリシアは言葉を紡ぐ。
『人は、一人では冬を越えられません。だからこそ支え合い、助け合い、ここまで歩んできました』
その一言に、広場は静かな空気に包まれる。
誰もが思い浮かべている。今年助けられた人を。今年支えた人を。
『どうか今日は、難しいことは忘れてください。たくさん笑って、たくさん食べて、大切な人へ「ありがとう」を伝えてください……それが、この結灯祭に込められた願いです』
一拍。
そしてエリシアは、いつもの優しい笑みを浮かべた。
『それでは皆さん、結灯祭の開幕です!』
その宣言と同時に、広場は歓声と拍手に包まれた。
街中に掲げられた雪灯が、一つ、また一つと白く淡い光を灯していく。
雪化粧を纏ったリードベルクは、まるで星々が舞い降りたような幻想的な輝きに包まれていた。
* * *
演説を聞き終えた後、私とルーシアはエリシアに雪灯を貰うために会いに来た。
「うー…上手く出来てたかしら?」
「お姉ちゃん上手だった!」
「かんぺき!!」
「そう?ならよかったわ」
お祭りの運営用のテント。そこでエリシアは子供たちに囲まれ口角を緩めていた。
さっきまでの威厳はどこへやら。そこにいるのは見慣れたいつもの優しいお姉さんだ。
「エリシアさん」
「ルナちゃんに、ルーシア。さっきの放送聞いてくれてた?」
「はい…なんというか、驚きました」
「?」
エリシアは分からない顔をしたが、まぁいいだろう。
そもそもとして、セイルが予め教えてくれてたらよかったのだ。
ルーシアも、他の子ども達と似たような感想を告げた後、私は本題へ移る。
「あの、エリシアさん。私達、雪灯を貰いに来たんだけど」
「あ、ああ!そうね。確かにルナさんはまだ持っていないもの」
聞くと、この地域に住んでる人たちは皆去年貰ったものを使っているんだとか。
今配っているものは、少ない観光客と、来年用のものだそう。
「どうして去年のものを使うんですか?」
「それは……」
エリシアが答えようとした、その時。
「無事、1年を過ごせたって証明するためさ」
聞き馴染んだ声が、間に割って入った。
私とエリシアが同時に振り返り、その人物が目に入った。
「セイル!」
「おはよう、ルナ」
件の雪灯を携えたセイルが、そこに立っていた。




