68話 結灯祭
街へ出て、セイルと合流した。今は休憩時間で、一緒に街を回ることになった。
「今日も寒いねぇ」
「うん。ルナ、昨日はちゃんと眠れた?」
「大丈夫、ありがと」
まだ朝早いからか、人の通りはそう多くない。
私とセイルは、2人並んで大通りを歩く。
道端では既に屋台を組み立てる大人達の姿があり、子供達も雪だるまを作る手を止めて元気よく駆け回っている。
家々の軒先には色鮮やかな布や飾りが少しずつ掛けられ、街全体が祭りを待ちわびているようだった。
「そういえばさ、このお祭りって、何のためにやるの?」
調べたことはある。お祭りという物自体、人間の中で困難に立ち向かったり、祝い事のためのものだったりするらしいから。
それ故に、今回のものはどういうものなのか気になった。
セイルは、少し考える仕草をしてから答える。
「今回の祭り、結灯祭はね、一年を無事に越せたっていうことで、お世話になった人に感謝を告げるためのものなんだ」
「結灯祭……」
「昔はね、この地域だと冬を越せない者が大半だった。だから余計に、無事であることをお互いに称えあおうってね」
だから、縁を結び灯すのだと。
純粋な願いだけど、いい意味だ。ちゃんと覚えておこう。
「だから、年末にやるんだ」
「うん……さて、説明はこれぐらいにして、僕は手伝いに戻ろうかな。ルナはどうする?」
「あ!私も手伝う!」
* * *
スコップで雪をすくい上げ、道の端へと移動させていく。
一つ一つは綿の様に軽いものでも、塵積もればこうも重くなるものなの…?
「ところでっ、なっに?これはっ…わっ…と」
また一つ、また一つと作業の手を早めながらセイルに問う。
「雪かき、だよ。道が埋もれてちゃ楽しめないだろう?」
「なる、ほど、ねっ!」
だから街の住人は女子供も外で雪を掘っていると。まだ準備のはずなのに、これがお祭りなんじゃないかと思えてくる。
「思ってたのと違った?」
準備と言われ連れてこられたのがこれだった。だからセイルも気を使っているのだろうが無用な心配だ。
これなら、慣れていない私でも力になれそうだし!
「セイル、どっちが多く掘れるか勝負しようよ」
「…!いいね。やろうか」
せっかくだ。北部民の本気、見せてもらおうじゃないか。
…………………
「ふふん、私の勝ち!」
『──!!──!!』
「やったよルナ様、だそうよぉ」
「くっ…それは意識外だった…」
結果としては、あまりの猛スピードに対抗するべくノノを使った私の勝利。なんなら通訳顔してるヨルも途中参戦していたため、ほとんど全力だった。
それに対しセイルは異能も無しの身体一つ。寧ろ接戦なのが驚きでしかない。
「ノノ、ありがとね」
礼を言って影へと戻しつつ、ヨルと共にセイルに全力マウント。
「セイル、今回は私の勝ちだね」
「もしかして、実践授業の時のこと、根に持っているのかい?」
「…別に?」
そういうんじゃないけども。本当にね。本当だよ?
「ほんとはぁ?」
「友達と遊ぶことの楽しさを覚えちゃっただけ」
「やっぱりぃ」
「ヨルっ!」
やはりヨルには敵わない。いつも絶妙なタイミングで揶揄われる。
「……対抗戦で、ユノと戦ったんだっけ」
「戦いって言えるかは分かんないけどね」
それでもルールに則り競い合ったんだから、勝負ではあるよ!もちろん今回のもね。誰も異能使用禁止なんて言ってないから。私はズルなんてしてない!
「僕も、いつか二人に…追いつきたいな」
「いつまでも待ってるよ」
とても、雪かきの後とは思えない。身体の芯から熱くなっている気がした。
* * *
その後も、祭りの準備は日が傾くまで続いた。
道を覆っていた雪は少しずつ姿を消し、代わりに屋台や飾り付けが街を彩っていく。
行き交う人々の笑顔も増え、リードベルク全体が年越しを心待ちにしているようだった。
* * *
日は経ち結 灯祭初日。年末までは残り二日となった。
「ふっふん。どうかしら、ルナちゃん」
「わぁ…綺麗…」
エリシアから見せられたのは、氷の結晶を模した首飾り。どうやら本物の氷を削り、保存の魔術によって状態を維持させている。
これが、結灯祭での孤児院の出し物だ。
「はい、どうぞ」
「いいんですか?」
「それは試作品だから。それに、ルナちゃんにも手伝ってもらったもの」
そういうことならば。ありがたく受け取り、実際に首に付けてみる。
市販のネックレスと装飾等は変わりないものの、首元にひんやりした感触が伝った。
「似合いますか?」
「バッチリね」
エリシアが手を合わせて賞賛してくる。
ここまで言われると一安心。せっかくだしこれ付けて回ろっかな。
「手伝いも、これでおしまいですかね?」
「そうねぇ……私たちの方はそうね」
エリシアが視線を逸らして言った。
何か含みのある言い方。気になりはしたが、きっと色々事情があるのだろうと結論付ける。
「じゃあ、セイルのとこ行ってきますね」
「私も後で中央に向かうわ。ぜひ来て頂戴ね」
エリシアに見送られながら、私は今日も孤児院を出ていくのだった。
* * *
「あ、ルナさん。おはようございます!」
外へ出て初めに目が合ったのはルーシアだった。庭先の掃除でもしているんだろうか。
とも思いきや、ルーシアの服の中から見覚えのある顔が。
「ルーシアちゃん、おはよう。ヨルの面倒見ててくれたの?」
ここ最近はずっと影に籠らず出てきているヨル。子供たちにも大人気だし、私としても旅行気分で楽しんでほしかったから。
「はい。ヨルちゃん、とってもいい子ですね」
「うん、ヨルはいい子だからね」
現在はまだ眠っているため聞こえることは無い。遠慮なくべた褒めだ。
「…えっと…そうだ。セイルに会いたいんだけど、どこにいるか分かる?」
「お兄ちゃんですか?確か、中央の方まで手伝いに行くと聞きました」
「そうなんだ…ルーシアちゃん、よかったらなんだけど、一緒に探しに…」
「行きます!」
食い気味で答えるルーシア。そんなに私と行きたかったのだろうか。
「じゃ、じゃあ…準備したら、行こうか?」
「はいっ!」
あれぇ…?ルーシアって、こんなに明るい子だったかな?
学園祭の時は大分お淑やかな感じだったのだが…やっぱり、セイルが帰ってきたからだろうか?




