65話 リードベルク
翌朝も、馬車で進んでいく。
2日目は途中に農村のお手伝いや、積雪で遠回りになったりしたが、3日目。
ようやく、リードベルク領へと私達は到着した。
辺り一面、真っ白な世界が広がっている。少なくとも私が生きてきた中ではこのような情景見たこともないから感動してしまった。
「ほんとに、雪がいっぱいだね」
「今日は降ってないからまだマシな方かな」
いつもはこれに粉雪が散りばめられていると。余計に幻想的な感じを思わせてくれる。ぜひ見てみたいものだ。
「へぇ、ここがリードベルクか」
「バラムさんも、ここが目的地?」
「あぁ、そういうこったな」
「多分、今日あたりから年末のお祭りの準備をすると思います。当日はよかったら、参加してみてください」
「はっはっは!そうだな!楽しみにしとくぜぇ」
バラムが先に馬車を降り、私達も後に続く。
雪でもこもことした道を歩くと、リードベルク内唯一の大きい街、リンドブルムに到着したのだと実感できる。
「孤児院はどっちの方?」
「まだまだ北の方でね。結構歩くんだけど…大丈夫?」
「全然平気。寧ろ楽しみ!」
優秀なガイドさんも、居るわけだしね。
…………………
「…遠くない!?」
3時間。南門を通って街に入ってから、それだけの間歩き続けた。
最初は観光気分だったのに、気付けば登山かと思えるぐらいには道の勾配がよくない。
そりゃあセイルみたいに体力お化けが育つわけだよ…
「ちょっと休む?」
「一応聞くけど、後どれぐらいなの?」
「……日が沈む前には着くんじゃないかな」
「早いけどお昼にしよっか!」
そんなの耐えられるわけがない。私の体力は一般兵にも及ばないんだから勘弁してほしい。
「丁度よかった。おすすめのお店があるんだ」
私の我儘だったのだが、セイルは優しく笑いかけてくれた。
………………
「ここだよ」
「ここは…」
「孤児院に居た頃、よくルーシアと一緒にお姉さんが連れて来てくれたんだ」
セイルの思い出の味、ということだ。少し楽しみかも。
外装からは確かに、年季は入っているのが分かるが手入れを怠っていないことは伝わってくる。
「すみません、今空いてますか」
セイルがコンコンと扉をノックする。
「……」
「留守かな……?」
しばらく、無視が続いたものの、三回目になった頃合いでガチャリと扉が開いた。
「なんだ?物好きな……おお!誰かと思えばエリシアのとこの坊じゃねえか!」
「久しぶり、ロウ爺。まだ、お店やってる?」
扉の奥から、巨体で褐色肌の老人が現れた。筋肉質だから、畑仕事でもやっているんだろうか。
「もう2年前には閉じちまったんだが……なんだ?飯か?」
「はい。出来れば思い出の店でって思ったんですけど…」
セイルの言葉が嬉しかったのか、ロウ爺は少し照れくさそうにセイルの肩を叩く。
「ったく…来るなら言えよ!準備してやんのに…ちょっと待てるか?厨房の掃除からしなきゃならん」
セイルの視線が私の方へ。待てるかという問いに対するものだと理解し、頷く。
「よし分かった。ここじゃ寒いだろう。中に入ってくれ」
「ありがとうございます」
既に閉まったお店。でも中にはちゃんとカウンターと、テーブル席が置かれたままだ。
なんか…こういう古い感じのお店、歴史を感じていいなぁ。
「こんなもんしかないんだが…根菜のスープだ。温まる」
「わぁ……」
カップを持つと、しっかりと熱が伝わってきた。同時に香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
1口。
野菜の優しい甘みが口の中に広がり、全身に熱が伝っていく。
端的に言えば……
「美味しい……」
その一言に尽きた。これは……この後の料理も楽しみだね。
* * *
食事を終えた私達は、再び孤児院を目指して街中を歩き出した。
「美味しかったね、セイル」
「うん、変わらない味だった」
セイルも、恐らく私も頬が緩んでしまう程の味。聞く話だと隠れた名店だったらしい。
「セイル、あとどれぐらいかな?」
「もうすぐだよ。やっと、北区に入ったからね」
最初来たのは南門、そしてロウ爺のお店が中央辺りでやっと北区。
どれだけ広いのと言いたくなる。
「この辺りはお店も少ないから、足を止める必要は無さそうだね」
「そうなんだ…」
先程までは私が気になることを尋ね、セイルが細かく教えてくれていたが、それも無しで進むことに。
ちょっと残念だ。何気ないことでも聞きたかったのに…
でも、そのおかげか道中はスムーズだった。
急勾配を超え、平坦な道を進んで行くと門が見えた。
その奥に、白いレンガ建ての家がそびえ立っている。
「もしかして…」
「うん、なんとか夕暮れ前には来れたね」
そこが、私達の目的地であり、セイルの故郷。
孤児院へ、辿り着いたのだった。




