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61話 黒


ミアの長い話が終わった後、私は今度こそ生徒会を目指した。禁書庫へ行くか迷ったが、顔を出しておこうと思ったのだ。


「まぁ…今日は大した業務もなさそうだけど…」


目立った行事も直近では無いし、やることと言えば過去の議事録の整理程度。年末が近いからだろう。


「失礼します」


いつも通り、コンコンと扉をノックしてから開く。


「あれ、ルナじゃねえか」


「おはよう。今日は随分早いんだね」


最初に目に入ったのはシオンとフェイ。珍しくシオンが会長席に座っていない。


ということはもしかして…


「ルナが来たのか?」


「かい、ちょう…?」


この人がまさか生徒会室にいるなんて。思いも寄らぬことに、私は目を見張った。


「あー、そうか。ルナはやっと授業を受けなくてもよくなったばかりだからな。知らないのか」


「そうだったね。いつも、会長は放課後はいないから」


いつも。ということはどうやら会長がいることは普通のこと?


「…会長って、仕事サボって副会長に全部任せてるのかと思ってました」


「そんなわけがないだろう」


鋭い眼光が私の肌を刺す。その顔は無愛想なのも相まって恐怖を思わせてくる。


でも、仕方ないじゃん?いつ禁書庫行ってもいるんだし。


「まぁまぁ、それで?ルナはこんな時間に何しに来たんだい?」


「終わらせられる業務はやっておこうかなと」


「それはリゼが喜ぶだろうね」


シオンから作業室の鍵を借りて、対抗戦の期間溜まっていた書類の束を持ち上げる。


そして、開いたほうの片手で扉に手を掛けた。次の瞬間。


「待て、ルナ」


レインが、私を呼び止めた。


「…なんです?会長」


「少し話がある。空いているなら…いいだろう?」


…せっかく、やる気になってきてたのに?



この人はいつだって空気を読まずに言葉を発する。本当に勘弁してほしい。


だが、有無を言わせぬ視線に私は従わざるを得なかった。




 * * *



共に生徒会室を出て、行きついたのはやはり禁書庫。


そうだろうとは思ったよ!


「…何か見つかったの?」


「あぁ。お前にも確認してもらいたい」


「そりゃ簡単には見つかんない………今、見つかったって言った?」


「あぁ」


2度の返答で、ようやく理解する。やっと、レインの親友の死について何かが進んだらしい。


それは…私も気になっていたことだ。少し足取りが弾む。


やがて、真っ白な空間に扉が見えてきた。いつもの書庫だ。変わりないようで一安心…あれ?


「なんか、本棚の中減った?」


「俺が読んだからな」


「…どんだけ…?」


「気にするな」


狂気に近しい探究心。それがレインの原動力なのだと今更ながら思い知る。


「…軽く200は見えるんだけど」


「まだ、200だ。やっと見つけた」


中央の机にて、その内容を見せつけてくる。とある1冊の真ん中辺りの見開きページ。


「これ…」


『第98期生合同演習にて死者1名。アレク・ルートヴェイン』


「親友の名だ。やはり、消えたわけじゃなかった。間違いなくあの場で死んでいたのは事実だ」


まさか古い広報記録に纏められていたとは。 でも、数年前の出来事のはず。なんでこんなところに。


「前のように、やってみてはくれないか?」


「…あー…」


死者の憑依、的なやつか。でもあれ、デメリット大きすぎてやりたくないんだよなぁ…

…やるって!そんな目で見ないでよ!


「どれどれ…」


本を受け取り、異能を発動させた─────その時。




『ヤット…キテクレタノデスネ』



「へ?」


不思議な声と共に、本が黒く染まって、




─────




『タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ』




『─────助けて?────サマ』





………………


…………………………………………






「─────っ」


吐き気、眩暈。視界が一瞬暗転して強引に引き戻されるような感覚。


耐えがたい苦痛の連続に、私は本を手放し、その場に膝をつく。


「ルナっ」


レインの声が響き、ドタドタとこちらへ寄ってくる足音が聞こえた。


「ちか、よらないで」


「!」


死者の声を聴こうとしてこうなった。つまりはそれ自体を一度遮断するべきだ。

紋章へ流す魔力を無理やり中断し、声を断つ。ようやく頭を埋め尽くす『タスケテ』が無くなったところで、私は胸を抑えながらも状況を理解していく。


「はーっ…はーっ…」


「大丈夫か?」


「レイン…」


大股二歩分ほど離れた場所に、レインが立っていた。


先ほど言ったことを律儀に守っているようだ。


「……大丈夫、ごめん、ちょっと取り乱した」


「そうか」


私の様子を伺った後、手放した本の方へ、レインの視線が動いた。


「…黒い」


「…あれ?」


いつもは何も起きないか、白く染まるか。黒色に染まるのは初めてのことだった。


恐る恐る、私が手を伸ばそうとすると、レインが静止をかける。


そして代わりに、レインが手に取った。


「ほう…」


「元に、戻った?」


その本は再度色を落とした。これも初見。基本的に白く染まった本はレインが手にしても戻ることは無かったのだ。


「まるで、この本がルナを選び、俺は違うと拒否したようにも見える」


憶測だが、的確な指摘。


試しに私がもう一度持ってみれば、また黒く染まりだす。

異能は使っていないから、その声は聞こえなかったが。


「ルナ。さっきの状況、詳しく話せるか?」


「うん」


まずは情報共有。間違いなく、これがカギになるのだと、根拠もなく互いに確信を得たから。




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