60話 もう1つの対抗戦
休み明け、私が廊下を歩いていると、ある掲示が目に入った。
それは、赤字でデカデカと書かれた広報。
『新時代の幕開け!?2年生勇者クラスの対抗戦大波乱!』
「……あんの、バカ先輩ぃぃぃぃ!!!!」
犯人は誰か等、言うまでもなく。拳を握り締め、私は広報室へと向かった。
………………
「何か、言い残すことは?」
「いやー……怖いよ?ルナちゃん」
「だって、そうでもしないと逃げるじゃないですか!どうしてくれるんですか?廊下を歩く度に「あの子って…」って目で見られるんですよ!」
「いい事じゃん?」
確かに、普通の生徒であるならそうなのかもしれない。鼻高々に自慢するのだろう。
でも、私は違う。もう散々目立ってきたが、一応潜入中の身なのだ。
「それに、今回はエリック先生直々に任されたの。断れないでしょ?」
「えっ…聞いてないんですけど?」
「そりゃ、言ったら断られるのが目に見えてるからね。他の生徒のやる気を出させるためだってさ」
あの白髪メガネ…ほんと覚えとけよな…
あっけらかんとしている割に、よく見てるみたいだし……なんというか、言葉で言い表しにくいのだが底知れない何かを感じる。
ルリエナにも、相談しておくべきだろうか。
「あれっ?ルナちゃんどこ行くの?」
「生徒会です。やることないんですよね。授業も免除になりましたし」
「あっ、そっかぁ!ルナちゃんも発現したんだっけ?」
「じゃなきゃ対抗戦の件で怒ってないですよ」
「ごめんってば!」
全く……いつまでもこうしてる場合じゃない。授業が無くなった以上は今までよりも調査に専念出来るのだ。まずは生徒会に顔出して、その後は禁書庫にでも行こう。
私が、扉に手を掛けた時。
「ちょっと待って!」
「…なんですか?」
「うわぁ…警戒してる顔…」
何を当たり前なことを。
「まぁまぁ、損はさせないからさ。ちょっと、見てほしいものがあるんだよねぇ」
椅子を取り出し自身の隣へ配置するミア。そこへ座れと言わんばかりに視線で圧を掛けてくる。
……どうせ、暇だしいっか。
「…何を見せてくれるんです?」
「明日の広報の素材だよ。はいこれ」
写真の魔道具を机に置き、ミアが何かの突起を押した。写真機が音を立てて変形し、先端から光が放たれ四角形を作る。
随分高い魔道具を使ってるらしい。
「きっと、ルナちゃんも興味あると思うんだよねぇ。学園最強は誰かってこと」
光に、それが映し出された。
* * *
「会長、結局今回も残ったのは貴方でしたか」
「…またお前か」
それは、三年生の対抗戦。残るは生徒会会長レイン・オブザリア、生徒会副会長シオン・ジグレイドの二名。
互いに、剣術、異能ともに優秀。例年通り残ったのはこの二名だ。
教師も生徒らも、もう見飽きたと言わんばかりの争い。しかし今年は例年とは違っていた。
「─────シィッ!!」
先手で動いたのはシオン。一瞬にして踏み込み、獰猛な目で捉えた隙に食い込むような突きを放った。
既に何名もの同級生が倒され、『捕食者』の力は現状のシオンが出せる最大値を迎えていた。
間違いなく、これを受けられるものは存在せず、躱すことさえも─────できないはずだった。
「どこを狙っている」
レインは気付けばシオンの背後を気取り、光の剣の切っ先をシオンへ押し付けていた。
まるで、初めからそこに居たみたいに。
「ちっ!」
シオンが応戦しようと振り向くが、既にレインは動いている。
振り向き様に放った薙ぎは威力が発揮する前に抑えられ、強烈な拳が顔面に叩き込まれた。
「がっ…」
血も涙もない一撃に、シオンの意識は刈り取られていく。どうしようもない。いくら強かろうとも、圧倒的な理不尽を前には無力に等しい。
「…去年よりは、よかった」
学生にして『観測者』の異名を持つ彼は、当たらなければどうということはない、それを体現するように無傷でその場に立っていた。
* * *
プツリと、光が閉じる。
「って、感じだったの。あの飄々としてるシオンが、まさかあんな表情するとか聞いてないって感じじゃん?だからね、女子生徒からの人気が上がってきてるらしーよ?」
「そうなんですね…」
以前対面したことのある私からしたら、あの顔からは恐怖以外なにも感じなかったし、二度とごめんだ。
物好きもいるらしいね。「翠の王子、残忍な捕食者の顔も!?」だって。
「シオンはこんなもんでいーや、あんまり見出しにしたくないし。それにしても、流石はレイン会長。他を寄せ付けないんだよねぇ」
「…会長って、謎が多いです」
「そうなんよね。私もあんまり知らなくって。今だってどこに行ってるやら」
それは知ってる!多分禁書庫で本と睨めっこしてるんじゃないかな。
まぁ、それは秘密なので黙るわけだが。
「もう、行っていいですか?」
「あ、待って待って。これの感想欲しい!」
「ほんとに最後ですよ…」
私の目に入った恐らくは明日の広報の見出し。
「冷徹会長、今年も優勝!!相変わらず済ました口調が鬱陶しい!!」
「……」
やっぱり、反省しないなぁ。この人。




