59話 次
59話
「クソッ!なんで……また……」
レオナードは、たった一人の病室で怒りを募らせていた。
もう、何度もぶつけて反省し、収めてきたのだがやはりダメだった。
ユノ・セルディアに2度目の敗北をした。それがどうしても、許せないのだ。
1度目は圧倒的な実力差に負け、2度目は実力差は埋めたが、天才と、策士に敗れた。
真正面からの戦いにばかり目を向けていた、己の責任だ。
「……俺は、ダメなのか?バケモノには……敵わねえって、そういう事なのか?」
悔しい。悔しい。悔しい。と、ひたすらに自分を責める。
レオナードは、泣きたくなるのを抑えて上を向き、踏ん張って堪える。
泣くのだけは、ダメだから。
自分は負けた。でも、倒れちゃいない。まだ、折れてもいない。
「今回も、負けてやる……だが、次はぜってぇに……勝つ」
負けない、じゃ、ダメなんだ。勝ち切る。そうじゃないと越えられない。
レオナードも、また1歩次の段階へと進む。
* * *
* * *
対抗戦明けの休日。エリックは、街のカフェにて待ち合わせをしていた。
「今日はいい天気だ……さて、今回は何を話すかな」
角砂糖を4つも入れたブラックコーヒーを啜りながら、待ち人のことを考える。
「運良く休みが取れて良かった…あまり待たせるばかりだと、あの子でも怒るだろうからね」
なお、エリックの仕事はユステスがやっているらしいが上が許可したのだからエリックは知らんぷりだ。
「お土産は買って帰るかなぁ……お、もうこんな時間か」
待ち合わせの時間だ。丁度お昼だし、まずはランチでも行こうかと、考えていたその時。
「先生?」
思考が漏れ、独り言になっていたらしい。少女が、不思議そうな顔をのぞかせた。
金に近い茶髪に、薄緑の瞳。いつも見る制服とは違っていて、淡いピンクの、レースがついたワンピースを着こなしている。
「ユノ、随分早いね」
「待たせたら、迷惑かなと……思いまして」
へにゃっと笑うユノ。最近は随分と表情が柔らかくなったと、エリックから見ても感じていた。
(ルナ・メモリアの影響かな)
勝手な憶測はさておいて。
今日は、対抗戦の景品である「先生を1日独占する権利」にて、ユノとおでかけすることになったのだ。
「座りなよ。……よく、似合ってるね?」
「ありがとうございます……友達に、選んでもらって……それで」
心底嬉しそうに笑うユノ。その友達が誰を指すかはなんとなく察しがついた。
「いい友達を持ったね、ユノ。編入したての頃は想像もしていなかった」
「え、えへへ。私も、です」
あんなにビクビクしていた少女はどこへ行ったやら。
今ではその「友達」について話す時はシャキシャキとしている。
(まぁ、生徒同士が仲良くしているのはいいこと、か。僕の手間が減ってラッキーだ)
別に悔しくはない。そう自身に言い聞かせつつ、本題へ。
「それにしても、首席のご褒美はまた『一緒におでかけ』で良かったのかい?」
「もちろん、です!」
今回の対抗戦で、首席を獲ったものにはエリックを1日利用する権利が与えられる。
去年のエリックが、悪ふざけでそのようなことを言って生徒達を焚き付けたのが始まりで、今回が2回目だ。まさか2回とも同じ内容だと、エリックは思わなかった。
「いっぱい、話したいことができたんです。聞いて、くれますか?」
「もちろんさ、僕は……君の先生なんだからね」
「ありがとう、ございます。えっと、まずは、生徒会で─────」
エリックとユノは日が暮れるまで、街を散策していた。
* * *
* * *
時は少し遡る。
ルリエナは脱落した後、寮へと勝手に帰還していた。兄である、ヴェルトへ報告が必要だと思ったから。
姿見に触れ、『異能』を発動させる。
ヴェルトが認識阻害を掛けて、その場に続いているはずが繋がっていないその空間。ヴェルトは、そこで頬杖をつき資料と睨めっこしている。
「ただいま戻りました」
「ん……?あぁ、ルリエナか。ご苦労だったな」
いつもならそんな言葉は投げかけない。ルリエナの衣服が薄汚れ、所々に引っかき傷があるからだろう。
こうまでならないと、ヴェルトは心配ひとつすらしない。もう何度目か分からないがルリエナは兄に呆れ、溜息を吐く。
「何か言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「なんでも。少し、ご報告が」
ルリエナは、今回の対抗戦にて得た有益になりうる情報を告げていく。その中の1つに、ヴェルトは反応を見せた。
「─────が、例の作戦で使えるかと、耐久性が高く愚直で、扱い易い」
「ほぅ……?そんな奴がいるとはな」
「私ならば、落とすことも可能でしょう。タイミングさえ間違えなければ、全員を欺ける」
「あぁ、お前がそこまで言うなら……いいだろう」
ヴェルトが不敵に笑う。こうなったヴェルトは誰にも止められないことをルリエナは知っている。
「……だったら、1回ブラフが欲しいところだ。……まずは、外を攻める。内側から意識を逸らそうか」
「ようやく、ですか」
静かに言うルリエナ。しかし、その口角はどこか、緩んでいたという。
盤面は、静かに、しかし確かに動き始めていた─────




