58話 前代未聞の対抗戦の末に
エリックの放送が終わった直後、ユステスが口を開いた。
「……前代未聞、だな。例年とは違う、素晴らしい対抗戦だった」
「へぇ?ユステスがそこまで言うなんて珍しいね」
「そうか?」
ユステスは教師の中じゃ相当厳しい。しかし同時に、最も正直なのもユステスなのだ。
そのユステスがそこまで言ったのだから、やはり今回は異例とも言えた。
「ガーディルはセルディアに負けぬと折れない心を育み、最後まで膝をつかなかった。メモリアは、新人とは思えない策の連続で盤面を撹乱し続けた。そして…」
「うん…そして?」
「セルディアは……ユノは、よく、頑張った…!」
「!」
まるで、本当の父親みたいに言うユステス。
やはり、あまりにも情深いのだとエリックは実感する。
「大きな壁こそが、成長の鍵となる。みんな…よく頑張ったね」
自分はさっさと生徒たちを迎えに行こう。
エリックは、顔を抑え嗚咽を漏らすユステスを放っておいて、部屋を発つのだった。
* * *
「あーあ……楽しかったね。ユノ」
「えと……うん、そうだね」
時計塔前の広場にて、私とユノは言葉を交わす。
既に時計塔は幾度と無い爆破により崩れかけている。少々、やりすぎてしまったらしい。
「ユノ、あんなに強いなんてビックリしちゃった」
「私も、ルナちゃんって、凄く頭が良いんだなって…」
互いに褒め合い、笑う。全てが終わって決着がついたからこそ出来ることだった。
「ルナちゃんのお陰で、レオナードにも勝てたから」
「そうなの?でも私……あいつにだけは勝てる気がしなかったんだけど」
「……ふふ」
私は実際には見ていなかったから分からないが、かなり拮抗した勝負だったことは分かる。
実際、3階に上がってきた時相当消耗していたからね。
「私も、ルナちゃんみたいにって思ったら頑張れたから」
「私、みたいに?」
「うん」
コクリと頷くユノ。
私、みたいにとはどういうことだろうか。真意が聞きたかったが、それはこの場では叶わなかった。
「悪いね、少し遅くなった」
「先生」
エリックが、天空から舞い降りてきたのだ。
飛べるのかと驚きも束の間。彼は私を俵担ぎにする。
「ちょっ、えっ?」
「酷い怪我だ。けが人は黙っておくこと。ユノ、辺りに倒れている子が居たらここに集めておいてくれるかい?」
「わっ、わかりました」
なんとも、変な感じだが迎えが来たのなら一安心。
とはいえ横抱きにされているのは癪だ。
「降ろして貰えません…?」
「頭の出血、腹部打撲、あとは至る所に擦り傷。外側だけでも重症だよ」
「だったら、もっと丁寧に出来ませんか?」
「まぁまぁ、そう言わずに」
お構い無しに、エリックはその場で地を踏み抜き、その足で空へと飛び立つ。
「ちょっ、と……!危ないんですけど……!」
「だから、大人しくするようにって」
「それならもっといいやり方が─────」
ある程度の高さまで飛んで、ピタリと固まった。そして、横抱きの体制から、向き合う形に変えて……エリックの瞳が、私を見据えた。
「先生…?」
「少し、君には……聞きたいことがあったんだ」
ドクンと、心臓が跳ねる。
まさか、バレた……?でもなんで……って、そうか、見られていた。私が上手くやりすぎていたのかも。
今頃になって、ルリエナのように負けておけばよかったと後悔しそうになる。
「なん、ですか?」
絞り出して、問う言葉は短く簡潔に。視線を逸らしながら。
エリックは、少しの逡巡の後に答えた。
「君は……どこであの戦い方を覚えた?ルナ・メモリア」
(なに、これ……?)
見透かすような瞳が私を見つめる。これはまるで、まるで─────
レインに、見られた時と同じ感じがした。
「っ……」
「……」
沈黙。恐らくはこれを聞くために、ここまで飛んだのだとようやく理解する。分かっていても、満身創痍で動けなかったから意味は無い、か。
「今なお、僕に捕まっていながら思考を回し続けている。やっぱり、賢いんだね」
「なんですか?先生……?そんなにジロジロ見られると……」
「御託はいい。ユステスは気付かなかったみたいだけど、僕には分かることがある」
やっぱり、バレているのか?どこまで?なんで、私を捕えない?
…………まだ、確信には至ってないから。
「分かるなら、言えばいいじゃないですか」
「っ…………君は……」
先程とは売って変わって別人のようだ。言葉遣いが少し荒く、焦っているようにも見えた。
「……悪かったよ。こんな風に問い詰めて。君が、どうにも発現したばかりには見えなくてつい、ね」
いつも通りの顔にもどるエリック。何か裏があるようにしか思えない。
「……そう、ですか」
でも、首を突っ込んだらあまりにも危険な気配がして、私はそれだけしか返せなかった。
「帰ろうか」
「はい」
画して、対抗戦は終わった。私の胸に、つっかえを残して。




