56話 競い合い
ユノは、自身の心音が控えめながらも高揚しているのを自覚した。
それは、策が上手くいったからか、はたまた強敵に勝ったから?それとも…
(ルナちゃんの考えを、理解出来たから?)
既に今回の対抗戦にて役割を終えた歯車の魔道具を、その場に丁寧に置く。
歯車の魔道具の仕組みと、ルナが仕掛けたであろう脱出用の転移陣。これらに気付けなければ間違いなく、負けていたのはユノの方だった。
「正面から戦わなくても、いいんだもんね」
新たなる気付きとも言える。それもこれも、ルナの立場になって、ルナならどうするかを考えた結果。
「それにしても…ルナちゃん、こんな策、どこで思いついたんだろ…」
普段の、明るいルナからは想像もできないほどに残虐な策だ。今回は、恐らくレオナードには効果が薄いと判断してやらなかったのだろうが、成功していたらと思うと背筋がゾッとした。
「早く、上に行かなきゃ」
ルナは、漁夫の利を狙っているのだと思った。しかし、今なお仕掛けてこない以上は待ち伏せていると考えるのが妥当。
ユノは、ゆっくりと、確実に螺旋階段を昇り始めた。
* * *
最初で、最後の策。
これ自体、万が一、爆破で生き残る可能性があるやつが残った場合のもの。
私は着々と準備を進めていた。
教師陣が配置したであろう魔道具をカーテンで覆い、明るさを生むものを全て排除して。
真っ暗な闇で、息を潜めていた。
階下では激しい戦闘があったものの、今は物静かだ。先の放送から勝者はユノであることが分かった。
彼女は、私が願った通りここまで来たのだ。来てくれた。
「…近い」
この対抗戦自体、ルナは負けてもよかった。クラスに入ったばかりだし、勝てなくて当たり前。
今頃、エリックらは度肝を抜かれている頃だろう。
「友達と、競い合う。それは本物の戦争じゃないからこそ、全力で向き合えるの」
戦争経験者であるからこそ、もうあんなのには参加したくない。でも、これは対抗戦。言わば学校行事の一環だ。
だから、どうせなら、本気でやろう。やってみようと思ったのだ。
ガチャリと、扉が開き真っ暗な空間に光が差し込む。その先に、小さな彼女は堂々と立っていた。
私は、改めて彼女へ問う。
「ねぇ、ユノ。ユノはどうして、ここまで上がってきたの?」
「友達と、約束したから」
控えめに笑って言うユノ。その顔は……どこか、楽しそうだった。
……………………
先も言ったが、これは戦いじゃなく、互いを磨くための競い合い。
「…ありがとう、約束を守ってくれて」
「えへ…どういたしまして」
奇襲すればよかったのに、言葉を交わさずには居られなかった。
暖かい気持ちが、胸を満たしていく。
「私が仕込んだ策はどうだった?」
「とっても、凄かった。解くのは簡単でも、配置が面倒だったりして…それに、ルナちゃんの魔術の腕も知れて楽しかった」
「ふふ……そっか…」
とても最終決戦とは思えない空気。見られていたら、恥ずかしくてできないが、今は見られていないし、見せるつもりもない。
「…そろそろ、始めよっか」
「!……うん」
もう十分だろう。いい加減にしないと…怒られるかもだしね。
…………………………
数秒の静寂。
先に動いたのは─────私だった。
魔術で齢風を起こし、部屋を閉鎖。そして、クロウェンと対峙した際にやったように、丸い光を生み出した。
条件は整った。後は、念じて魔力を放射するだけ。
「『月食』」
部屋全体を支配する闇が、蔓延した。
闇は魔術式に織り込んだときよりも遥かに強い力で、あらゆるものを食わんと蠢き出す。
「なにっ、これっ…」
ユノが防御魔術を使うも、闇はすり抜けて、ユノの身体に纏わりついた。
「ま、りょく、が…」
流石はここまで残ったユノ。すぐに異変に気付いたがもう遅い。後は魔力が空になるまで吸い続ければ…
「っ……ぅ……!」
酷い頭痛が私を襲った。やはり、人の身でこの力を扱うには強力過ぎるのだ。
それでも、打ち止めることは無い。強引に吸い続け、魔力さえ切れれば私の勝ちなのだから。
そのために、ここまでで魔力を使うように仕向けた。到底普通ではクリアできないような策を連続させて。
「─────」
ユノは抵抗をやめたのか、身動きを取らなくなった。
正々堂々、とはとても言い難い。悪いとは思っているが…このルール上は問題ないのだから─────
ピクリと、ユノの指先が動いた気がした。




