54話 不屈の『守護者』
完全無欠の『守護者』。それが、レオナード・ガーディルに与えられた称号であり、異能だった。
レオナードの家系は王国王家を守る騎士の家系。それを継ぐものとして、レオナードは育てられてきた。
「誰よりも強く、誰よりも高く、誰よりも折れない。そんな守護者になりなさい。レオナード」
先の人魔大戦で重症を負い、今や言葉を交わすことさえ難しい父。そんな父がよく言っていた言葉。
レオナードは、そうなれると、信じて疑わなかった。疑うはずもなかった。
同級生よりも体躯は大きく、剣の腕も鍛えられているから負けることもなかった。自分が一番なのだと、思っていた。あの時までは。
……………………
勇者学園に入学してから二度目のクラス内対抗戦。
一度目である、高等部へ進級した時はレオナードが圧倒的な一位だった。
クラスのどいつでも、自分の『守護』を破られることは無かった。
しかし、二度目。ユノ・セルディアという、バケモノが編入してきた時のこと。
「ゆ、ユノ、シェルディアでしゅっ!!」
自己紹介で盛大に噛み、顔を真っ赤にさせていたチビ。それが、彼女に対する初めの印象だった。
……………………
対抗戦が始まって一時間。突然、教師からの放送があった。
『残り二名!』
前回よりも早い決着。レオナードは自身の勝利を信じて止まなかった。
お互いに逃げていては始まらないということで、レオナードは堂々と大広間に立ち、待ち構えた。
「どっからでも……は?」
一瞬。ほんの一瞬、気を緩めて、瞬きをした。
それだけの間で、目の前に魔力の塊がずらりと並んでいたのだ!
「んだよ、これ…」
だが、見たところただの魔弾。こんなもの…と、受けようとした。
「づぅ…!」
一斉に放たれる魔弾。一つ一つに加算術式が織り込まれており、尋常じゃない火力を持つ。
当時のレオナードでは、到底受けきれるわけもなかった。
「ぐはっぁ!!」
衝撃によって、仰向けに倒れる。しかし、負けるわけにはいかない。レオナードはすぐに立ち上がり…再び、絶望を目にした。
先の規模を超えた、魔力の横隊。その中心に立っていたのは、編入生である少女、ユノ・セルディア。
頭が、理解を拒んだ。絶対に違うと、言い切りたかった。でも…
ユノが無慈悲に手を振り下ろし、一斉に動きだした魔力を見て嫌でも理解させられる。
「俺の防御は絶対だ!絶対っ、なんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
立ち上がって、受けて、倒れて。嫌になるほど繰り返した末に、レオナードは敗北した。
……………………
今でも鮮明に思い出せる記憶。
でも、その挫折があったからこそレオナードは強くあれる。強く、なれた。
「皮肉なもんだ…」
1年前と同じ相手、ユノ・セルディア。彼女が初めて、焦りを顔に出している。
この1年、レオナードは強くなるために研鑽を積んだ。強くなるために、プライドも何もかもを投げ捨てた。
その甲斐あって、父から次期当主に選ばれ、卒業後は騎士団に入ることが決まった。
「オイオイオイッ!!どうしたァ!」
無数の魔弾。圧倒的質量攻撃。
一つ一つ、丁寧に魔力を込めて弾き返す。
「ふぅー…………」
息を整えつつ、恐らくは次の策を考えているんだろうユノを見据える。
「何度ッでも来いや。全部、正面から打ち砕いってェやらァ!」
吠える。円陣にブレは無く、調子も過去最高に良い。
今なら勝てる。1年前の雪辱を、晴らせる。
「……量じゃない。視認の有無でもないなら……威力?」
ブツブツと、思考が漏れて聞こえてくる。
……正解だった。レオナードの『円陣』の仕組みは許容上限以内までの攻撃に対する自動反撃。
経ったの数回のやり取りで、ここまで理解する。やはりユノ・セルディアはバケモノなのだと、レオナードは再三思い知る。
「…やってみろよ」
「…いいの?」
分かっている。勝ち方は選びたくない。勝てばいい。わざわざ乗る必要なんて無い。
でも……でも……やっぱり、改めてユノを前にするとダメだ。
こいつは、レオナードを負かせたこいつだけは、正面から叩き潰さないと気が済まない。
「さっさと、こいやぁぁぁ!!!」
「…………分かった」
ユノが一瞬目を瞑り、何かを唱える─────
「なっ…」
無数の魔弾。その中に一際輝く、光の槍。
ユノが手を振りかざせば、それらは意志を持って動き出した。
真っ先に飛んできたのは光の槍。恐らくはこれが本命と理解し、こいつだけはと、剣で弾く。
その隙に魔弾が着弾するものの、グルグルと回転しながら魔力をぶつけて壊していく。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も何度も。
槍を弾き、魔弾を壊し。削られて。
繰り返す。血反吐を吐きそうになるのを堪えて、正面から超える為に─────
「今っ」
ユノの声が、レオナードのすぐ後ろで聞こえた。
レオナードはすぐさま振り返り、防御をしようと構える。
「あ……?」
が…………ユノは、何もしていなかった。魔術も、魔力も、異能も。何も使わず、ただそこで立っていた。
「『光の聖槍』…………『闇の破響音』!」
光の槍が背後から、前方からは禍々しい魔力の弾丸が迫る。膨大な魔力量に呼応し、レオナードの身体は勝手に振り向いて防御態勢に移る。
ユノの最高火力を誇る魔術と、レオナードの完全たる防御が、ぶつかって─────




