53話 1年越しの再戦
ユノは、その二階に設置された二つの歯車を見て、すぐさま魔道具だと理解した。
「おっきい…」
大体、ユノの二回り分ぐらいだろうか。持ち運べないほどじゃないが、人が扱うには大きすぎる。
そんな体躯の歯車に、ユノは手をかざした。
術式の解析を進めつつ、ユノは考察する。
先ほどまで人が居たわずかな温もり、つまりはルナが何かをここで行っていた。
先ほどまでの異常を考えれば、すぐに答えは出た。
「結界範囲の、操作?」
まだ確定ではない。だが、恐らくは当たっている。ユノの直感がそう告げている。
だから先の放送と縮小に違和感を覚えた。
「壊すか、解析するか」
パッと考えただけでも嫌な使い方は何個か思いつく。使われるぐらいなら壊した方がいいだろうか。
しかし、ルナがそれを放っているのが気になる。もはやこれ自体が罠なんじゃないか。
ユノが、判断に困っていると…ドタドタと、階段から駆け上がってくる人影が一つ。
「ルナ・メモリアァァァ!!どこに居やがる!?」
二階の扉を勢いよく開き、レオナードの姿が目に映った。
が、随分と、ひどい怪我を負っているみたいだ。あの程度の爆発で何があったのだろうか。
「あぁ…?ユノっ、てめぇじゃねえか」
「…レオナード生きてたんだ」
「俺が死ぬかよ」
対抗戦でユノが勝ってから、何かとユノに対して因縁つけてくるレオナード。
ユノにとって、厄介な人だ。正直、あまり近付きたくない。
「……ルナちゃんは、ここにはいない、よ」
「あー…上か?」
「多分ね」
ガシャン。
レオナードは、焼き焦げて役目を終えた防具を脱ぎ捨てる。
上に視線があって、ユノを見ていない。まだ、やり合うつもりはないのだろう。互いに、先にルナを退かしてから動きたいのは間違いないはず─────
「いや、違うな。順番が違うじゃァねえか」
突然、交差する視線。
雰囲気が変わった。ユノは困惑しながらも、「レオナードだから」で納得し構えた。
「私を、狙ってる場合?」
先に尋ね、牽制する。しかしレオナードは…寧ろ、口角を上げて答えた。
「ははっ、何言ってんだぁ?お前こそが本命だよ。ユノ・セルディア」
レオナードが構える。その時には既に、ユノも複数の魔術を展開していた。
1年越しの再戦が始まる。
* * *
「…『風の奏月矢』『地獄の業火』」
初手全開。風と火属性の上級魔術がユノによって放たれる。
業火を風の矢が纏い、加速させる。摩擦がさらなる熱を生み出し、その火は鋼をも溶かさんばかりに昇温していき、
「おいおい…もう、以前の俺じゃねぇぞ!ユノ!」
魔力を帯びた両手を前にレオナードが受けの姿勢を取った。
まさか受けるのかと、彼を知らない者は驚くだろう。しかし、ユノは眉一つさえ動かさなかった。
寧ろ、これは時間稼ぎ程度にしか考えちゃいなかった。
─────最大限加速した火の風矢がレオナードに迫る。
「っぅ、おらよぉ!!!」
それは、光。レオナードの両手に宿った魔力が発した光であり、彼の『異能』によるもの。
直撃したはずの矢は、光に食われたように、触れたところから魔力の粒子として粉々に砕けていく。
「はっ、やってやったぜ…っ!」
レオナードの身体が、自動的に動いた。背後へと振り向き、再びその手に宿した魔力を反応した魔力に対しぶつけた。
砕けたのは氷の矢。当たればそこから拡散し、氷漬けになるようなもの。
「えっ…」
「あっぶねぇ…」
ユノは驚いた様子で、レオナードは焦った様子で。互いに均衡へと戻る。
ユノは今、間違いなく不意を突いたつもりだ。倒せなくても、彼の異能の性質は理解しているため無駄にはならない一撃を放った。
しかし、レオナードはなぜか見えていたように動き、あの魔力によって押しつぶした。
「今の、見えてたの?」
当然の疑問。それを聞いたレオナードは少し考える素振りをしてから、口を開いた。
「さぁな……って、隠したところでお前はすぐに気づくか」
彼の周囲に、見覚えのある金色の光が円陣を作った。大体、半径2メートル程だろうか。
「詳しくは言わねぇ。だが、これを見ればお前なら分かんだろ」
「…」
粗方想像はつく。互いの異能が分かっているからこその予想だが。
ユノは試しに、火の矢と、土塊の弾丸を練り、放つ。
矢は背後を狙って、少し遅らせる。土塊は真っ直ぐ正面へ。
「…っ!お前らしいっ、なぁ!」
土塊に、拳を合わせて破壊。それのほぼ同時のタイミングで当たるように調整した火の矢は…
ぐるん。とまたもレオナードの身体が翻る。
火の矢を打ち消すように、光がさらにまぶしく、強くなる。
「はっ─────期待通り、だろう?」
「これは…」
予想は的中。しかしそれは…今のユノでは相手にならない可能性を強めたと同義だった。




