52話 第2縮小と三つ巴の始まり
「…魔術式使用後に、術式を再生させる『再生術式』。多分使ってるのはそれだけ…魔力の供給自体が、多分ルナちゃんの異能を利用してる…のかな?」
まさか答えが生活用魔道具にさえ使われている一般のものだとは思っていなかったが、なかなかに応用が加えられそうで面白い。
純粋に、ユノはそう思った。
「一発使わせて、再生するところで…解除。うん…出来る、はず」
何度か試せば成功確率は9割9分。ダミーで守っていたものの、実体は簡単な魔術であるが故に攻略は容易い。
「…よし…」
準備を整え、まずは試そうとした…その時。
カーン、カーン、カーン。
時計塔の鐘が鳴る。そして、1度聞いた覚えのある声が、発せられた。
『これより、第二縮小を始める。残る範囲は…時計塔、周辺のみ』
「え…」
まだ第二縮小。聞いていた話だと、恐らくは四段階はあるとのこと。明らかに縮小の速さがおかしい。
「人の減りが早いから?でも、一回目から全然時間も経ってないのに…」
ユノは明らかに違和感を感じた。しかし、信じざるを得ない。
足元の魔術式に、向き合った。
* * *
3分後。
レオナードが、塔へ戻ってきた。
「ぜってぇ許さねぇ…」
ルナへの怒りを内にに秘め、塔を見据える。
先の放送通り、結界が縮小を始めている。時計塔周辺までが範囲と言われたが…実際はどこまでなんだろうか。
分からない。ならば、絶対的安全圏に滑り込むしかないだろう。
レオナードはそう判断し、広場へと足を踏み入れた。
「あ…?ユノのやつ、何やってんだ?」
その少し先。ユノがしゃがんでなにかしたと思えば、爆破を起こして、その道を通っていく。
何をやっているのだろうか。
「…手段を選んでる暇はねぇわな」
背後から結界が迫っているのがわかる。
慎重に歩いている場合じゃなかった。
レオナードは一先ず、ユノが歩いていた道を目指して駆け出す。
「…っ」
足元が光った。熱と、吹き飛ばさんと荒れ狂う風が全身に降り注ぐ。
「いっ…てぇぇぇ!!!」
だが、立ち上がる。やはり、ユノが歩いていた道は少なくとも転移の陣が無い。
無いのか、それともユノが取り除いたのかもしれない。
何にせよ運がいい。レオナードは何度か爆発を受けながらも、塔の内部へと入り込んだ。
* * *
塔内に、2つの気配。それを感じて私は魔道具の操作をやめた。
「それにしたって、不用心じゃないかな?学園も…」
これは、結界の縮小拡大を弄る魔道具。本来は遠隔で操作されていたそれを、私は半強制的に主導権を奪って、扱った。
「魔道具の弱点は魔力が無いと扱えないこと。知ってれば簡単」
ここでも『月食』。随分魔力は使ったが、休憩する時間はあったし、魔道具に使われてあった魔力で供給できたから心配はない。
放送の声は、『月速』で振動の速さを調整してしまえばエリックの声ぐらいは容易だ。
何にせよ、上手いこと誘導することができたのだから結果オーライ。
「さてと、ここからどう動くかな…」
理想は2人が争った後に漁夫の利を狙うこと。
しかしそうはいかないだろう。誰よりもこの塔を理解した私を放っておくはずがないのだから。
「……でも、そう上手くいくかな?」
塔の内部にも罠を仕掛けている。同じ魔術式とはいえ、広場に比べて隠しやすい。
不意を打たれればユノでも危険があるはずだ。
「私は、3階に移動しとこうかな。2人とも、多分この魔道具には気付いてるだろうし」
派手に魔力を動かしたのだ。気づかないわけがない。
私はその場にも仕掛けを施してから、3階へと螺旋階段を昇り出した。
* * *
ユノは、ボテボテと螺旋階段を登って行く。しかしながら、体力が平均以下である彼女は段々と速度が遅くなっていた。
「ぜひゅっ……はぁ……」
魔術の解析ならいくらでも出来るのに、そう言いたくなる弱い心を抑えて、ユノは友人の顔を思い出す。
『ここまでおいで』
心底楽しそうに告げられた挑戦状。ユノは、この時初めて前首席としてそれを受けた。
レオナードには、悪いと思ったが……
「あ、ここにも…」
至る所に仕掛けられた、転移の魔術。爆破が少なくなっているのは屋内だからだ。
これのせいで、先程から何度も階段を上る羽目に遭っている。
「…そろそろ、2階に……」
「まてや……ユノォ」
「っ!」
肩に置かれた手。ユノは反射的に、風の魔術を放った。
「あ…?」
後ろにいたのはレオナード。普段の彼なら当然防いでいた攻撃。しかしながら、脅威に対してのユノの反応速度が尋常じゃなかった。
防御よりも先に、レオナードは風をもろに受けて─────
「待てっ、待て、待てぇぇぇぇぇぇ!!!」
階段から落ちて……
シュゥン。
転移の音が、虚しく鳴った。
「…ほんとに、ごめん…」
流石に悪いと思ったユノは、一言だけ謝罪を口にした。




