51話 時計塔の罠
試験開始から2時間。おおよその生徒は脱落し、残るは片手で数えられるほど。
ユノは、時計塔の手前で1時間以上足止めを喰らっていた。
「きゃぁ!」
爆破と転移。単純ながらも、仕掛けた人は賢い。ユノは純粋にそう思った。その理由は二つ。
まず、時計塔の内部に隠れていることがバレたとて、大した問題ではないことを理解している。本当にまずいのは時計塔の中に入られることなのだから。
逃げ場が少なくて、狭い場所だ。迎撃する側が有利だとしても万が一があり得る。
そして、この魔術式。ユノが何度も解析しようと試みているが、単純な効果に対し、ダミーが幾つも織り交ぜられている。その上で、魔術か魔力に反応し、起動する術式。
相当、魔術に関する知識があるか、こういう使い方を知っている人かのどちらか。
どちらにせよ、厄介極まりないことには変わりない。
「……手詰まり。時間さえあればいいんだけど…」
圧倒的な壁を感じていた。やはり、自分はこの程度なのだと納得しかける。
「……頑張らなくちゃ」
再び奮起し、再度魔術式の解析をしようとしたその時。
「お困りのようだね。お嬢さん?」
塔の窓から、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ルナ…ちゃん?」
太陽に反射して煌めく銀髪と、深紅の瞳。そして、ユノの初めての友達。
ルナ・メモリアがそこに居た。
視界に入ったと同時に、この塔を占拠し罠を張り巡らせた張本人が誰であるかを理解する。
ただ、幾ら友達とはいえ対抗戦においては容赦のしようがない。ユノの境遇的にも、それは許されない。
「悪いけど…」
だからユノは、魔力を行使する。指先で照準を合わせ、練り固めた魔力を弾として放つ。
「んなっ」
ルナが驚いた様子で、その攻撃に対して防御魔術を張る。しかしこの魔弾はそれよりも早く、着弾を目指して加速する。
『加速術式』。あの一瞬のうちに、ユノはそれを刻み込み扱った。
完璧な不意打ち。しかしユノは油断しない。ここまで丁寧に罠を張り巡らせたルナが、ここで顔を出すリスクを加味していないとは思えないから。
防御結界をすり抜け、着弾。先の爆発音に負けない爆音を鳴らしながら、魔弾は壁を破壊する…はずだった。
ユノの視界に、真っ黒な何かが映った。繭のように、ルナの居た場所を囲いうねうねと蠢いていて───
* * *
危ない所だったと、冷や汗をかきながら私は繭の外へと再び顔を出す。
ユノは警戒を顕にしている。やはり、この繭型の影は見た目のインパクトが強いようだ。
「いきなり、怖いなぁ」
「…たっ、対抗戦、だもん」
「へぇ、私は困ってるユノを助けてあげようと思ったのに」
ユノの顔が、珍妙にへしゃげる。どうにも、「ルナちゃんが言うの?」とでも言いたげだ。
そりゃあ、ここまでやれば私が塔を支配していることぐらい丸分かりだろうしね。
戯れはさておき、ここからが本番。私の方の準備がようやく終わったのだから。
「ユノ」
「何…?ルナちゃん」
改めて目線を交わす。ようやく。ようやくだ。
首席様に、どれだけ私の『策』が通用するのか。
「ここまでおいでよ」
不敵に笑って、突き付けた挑戦状。ユノは、少し呆気に取られた後…頷いた。
「待ってて」
短く。されどそこには、いつものビクビクした面影など無く、芯のある言葉で。
「なんだか、楽しそうなことをしてんなァ?」
そこへ割り込む挑戦者が、もう1人。
* * *
「やっと追いついたぜ。ユノ・セルディア」
「レオナード…」
ユノとルナの間に入った青年。対抗戦前に、ユノへ宣戦布告した張本人。ユノは思わず身を縮め警戒態勢に入った。
「どうした?お前が時計塔を獲ってないのは意外だなァ。ビビってんのか?」
「……行ってみれば、分かるよ」
「は?何言ってやがる。俺はお前と戦いに……あ?」
レオナードの視線が、ユノから塔の方に。ユノも釣られてそちらを見ると…掛け軸が、窓から垂らされていた。
最初は何か罠かと疑ったが違う。何か文字が書いてあって…
『ビビってんの?負け犬?悔しくないのー?』
犬の絵が付け足されたその文言。それを見せつけたルナはニヤニヤと笑って挑発している。
ユノにはこの手は効かない。だが、クラス内で一、二を争う沸点の低さであるレオナードは─────
「そこで待ってろよクソアマァァァァァ!!!」
案の定。ルナの手のひらで転がされるレオナード。
怒り心頭で、広場をズンズンと進んでいくレオナード。ユノは先の展開が読めて、防御結界を張り耳を塞いだ。
…数秒後。
ドガァァァン!!!!
「ふざけんなよぉぉ!!!!」
叫びながら、レオナードは星になっていく。ユノはもはや気にすることはなく、魔術式の解析を再開するのだった。
* * *
「…明らかに短気そうだったから挑発してみたけど…上手くいきすぎでしょ」
面白いを通り越して呆れを感じるレベルだ。しかし、あれを直撃してなお元気に喚いているのを見るに頑丈さが取り柄なのだろう。
「ユノはしばらく動きが無さそう…かな」
レオナードのことなど無かったかのように、魔術式を夢中に見つめている。わざわざ攻める必要も無いだろう。
次をどうしようかと迷っていたその時。時計塔から放送が為された。
『………脱落。残り、3名』
まさかのまさか。ただ、ここでは何も起きてないのを見るにレオナードがやったか、範囲縮小についてこられなかったようだ。
第2縮小を前にして残り三人とは…少々、想定外だ。
「…なら、少しゲームを動かしちゃおうかな」
どうせ、動向を伺うしかすることは無いのだ。
物は試しだ。あれを、自分なりに解析していこうじゃないか。




