50話 第1縮小
カーン、カーン、カーン。
時計塔の鐘が鳴った。
『これより、第1縮小を開始する。森エリア、湖エリアに居る生徒は移動するように。残り人数は10名だ!』
* * *
(10名…そろそろ頃合か)
ルリエナは、先の放送を聞いて思案する。
「移動した方が良いのでは?」
「お前もなぁ!」
レオナードの攻めの手がさらに早く、鋭くなる。
焦っている。言葉の粗さからは分かりづらいが間違いない。
やはり頃合。
ルリエナは確信し─────レオナードが放った一撃に、身を投じた。
「はぁ…?」
「っ…」
肩から腰にかけての打突。全身がバラバラになるんじゃないかと思うほどの衝撃を受けながら、木々を薙ぎ倒して森の奥へと飛ばされる。
「がっ…はっ」
やがて背中に痛烈な感触が伝い、ルリエナの身体はそこで止まった。
想定よりも遥かに強い一撃に、思わずルリエナは笑ってしまう。
「あはっ…いたい……いたいなぁ…」
口の中で血の味が広がっていく。この味はダメだ。昔を思い出してしまうから。
「………抑えなきゃ」
自分自身に『異能』を扱い、眠るように暗示をかける。
もう十分だろう。大体、適当な具合でやれただろうから。
「人間側にも、あのような逸材がまだ居たとは…」
意識が段々遠のいていく。ルリエナは仰向けに寝転がり、その感覚に身を委ねた。
* * *
『ここからは脱落者も連絡していく─────第10位、ルリエナ・グライシス』
* * *
レオナードは、結界の縮小に飲まれぬ様に市街地エリアを目指しつつ先の光景を思い出す。
「…あの女、笑ってやがった」
最後の一撃を当てる直前だ。
ルリエナはどうしてか、笑っていた。どころか当たるとも思っていなかった。まるで─────
「わざと当たったのか?」
結論は分からない。
もしかしたらルリエナの魔力が底を尽き、異能を扱えなくなったのかもしれないし、偶然足を滑らせたのかもしれない。
「あー……気にしてもしょうがねぇ。泥臭くたって、最後に立っていたやつが勝者なんだからな」
どんな手を使ってでも勝つ。
前回はそれを理解していなかった。家柄に囚われ、気品をもって戦おうとしていた。
いい子じゃ勝てないのだ。あの、バケモノには。
「待ってろよぉ…ユノ」
あれは絶対に生き残っている。そう、確信を持ってレオナードは歩を進めていった。
* * *
私は、恐る恐る地上へと顔を出した。
「…私が1番乗り?」
そこは時計塔手前の広場内。私は露店街を捨て、地下水路を辿ってここを目指したのだ。
「中で人と遭遇しなくてよかった。とんでもなく魔力消費してたし…」
使い慣れていない弊害。
例えば『月食』なら、普段はヨルという出力機へ一定の魔力を与えれば、勝手に調整してくれる。
しかし、今回はそのヨルが扱えない。ヨルがいなければノノ、ミアへは指示が出せない。意思疎通が難しいのだ。
だから、私自身で死霊人形等の異能を調整しなければならなかった。
魔力が馬鹿みたいに減っていくわけだ。
そんな反省を繰り返しつつ、塔の手前まで歩く。
不気味なほどに人もいないし、争った痕跡もない。
「さて…一応、魔力反応だけ確認しておくかな」
そうした不安を拭うための探知魔術。精度は得意分野に比べ粗いものだが、大きな魔力ならば捉えられる。
塔全体ではなく、手前一階の範囲から順々に行い、消費魔力量を節約。
「二階に一つ…人よりも一回り大きい反応…魔道具かな?」
唯一引っかかったのはそこだけ。ひとまず、入った瞬間に不意打ちされることは無さそうだ。
私は意を決して、時計塔の内部への扉を開く。
一階。ここにあるのは高い螺旋階段のみ。どうやら最上階までつながっているらしい。
階段を昇りつつ、次の階へ。
2階。魔道具の反応があった所。警戒しつつ、進んでいくと探知結果通り。
そこに時計塔内部にいくらでもある、赤茶色の歯車が二つあった。
二つは組み合わさり、片方が動けばもう片方も動く。そのようにして、何かを動かしている。
「これは…」
何の魔道具だろうか。幾らか予想はつくものの断定はできない。
「少し、調べておこう」
罠も張りつつこの魔道具について調べる。そして、塔に入るやつを容赦なく迎撃する。
ここからの方針が、定まった。
* * *
ユノは、目の前に聳え立つ時計塔を見上げた。
「……魔力の気配」
広場に入る前から、幾つもの罠があることを察知して足を止めていた。
ここまで来るのに、また数人と対峙していたのでその間に先を越されたようだ。
「探知、よりも…攻撃かな」
待ち伏せするなら広場ではなく塔の内部だと予想する。だからここでの探知は意味をなさない。攻撃系の魔術によって、罠の破壊を試みる。
「ゆっくり解析する時間があれば…よかったのにっ…」
最も射程の取れる風の魔術で広場の低い位置を撫でる─────
ドゴォン!!!
瞬間、強烈な風と火が荒ぶり爆発が起こる。
「ひっ…」
思わず身を縮めるユノ。予め防御魔術は張っていたものの、大きな音は苦手なのだ。
「…ほ、他のところは?」
もう幾つか、風を操り地を撫でる。
バゴォン!!ドゴォン!!!バガァン!!!
「ひぇぇぇぇ…」
自分でやったことだと言うのに情けない。
ユノは泣いて怯えながらも、解析の手は止めない。
どういう原理か、1度使ったであろう魔術式も、ユノが再び撫でればまた起爆する。
爆発しない場所を見つけて、進もうとすれば…
「あれぇ!?」
どうしてか、最初の位置へと戻されていた。
「ど、どうしよう…?」
ここでユノは、しばらく足止めとなった。




