5話 隣の席はお人好し
「では、本日の授業を終わります」
一斉に礼をし、一日の予定が全て終わった。
「…案外、悪くないなぁ…」
ボソッとつぶやく。
勇者学園、というものが恐ろしき軍人育成施設だと思っていたがそうでもないらしい。
今日やったのは魔術に世界史、数学等など。普通な授業ばかりだった。
「授業には着いて行けた?」
物思いにふけっていると、隣から声が掛けられる。
茶髪の、人当たりが良さそうな青年。授業中分からないことを教えてくれた良い奴という印象。
「…えっと、セイルさん、だっけ?」
ようやく名前を呼ぶ。周りの人がそう呼んでいたし間違いはないはずだ。
「うん。セイルでいいよ。気軽に呼んで」
「分かった、今日は色々ありがとね。セイル」
改めて礼を。
こういう所で信頼を稼がなきゃね…!
「当然のことをしたまでだよ。他にもなにか困ったことがあったら言って」
「うん!…あ!そうだ。じゃあ学園を案内して貰えないかな?」
さも今思いついたかのように尋ねるが、これは初めに来たらするつもりだったこと。
学園の施設ぐらいは把握しておかなければ、後々困るだろうし。
「全然構わないよ。今から行くかい?」
「そうだね。早い方が助かる」
よしよし、飛んだお人好しめ。利用されているとも知らず…
「って、違う!」
「?」
思わず声に出ていた。
確かにそれは目的ではあるけどあくまで手段 !
私は……この、人類を知るためにここへ来たんだから!
* * *
「セイルは趣味とかある?」
「お菓子作りかな。妹によくあげててね」
「セイルはなんでここに来たの?」
「…?天神様に導かれたからだよ。みんなと同じさ」
「好きな食べ物は?」
「果物かな。甘いものが好きなんだ」
「どこの生まれなの?」
「王都からずっと北に行った方だね」
「セイルは──────────」
* * *
学園を案内されながら、色々と尋ねた。
正直初対面で喋り過ぎなのだが、セイルは嫌がらず全部に答えてくれた。
本当にお人好しな奴…普通は勘ぐるだろうに。
「こんなところかな。また分からなかったら聞いて」
「ありがとね、セイル」
「…こちらこそ。いい息抜きになった」
最後に女子寮手前まで連れられ解散。
なんというか、最初から最後まで人の『善』を詰め込んだような人で少し申し訳ない気分になってきた。
「はぁ…やっていけるかな」
セイルとは仲良くなれるだろうか。任務もあるし、正体もいつまで隠せる…?そもそも任務って何…?
ヴェルトのやつ、行ったら伝えるって強情だったもんな。
「考えてもしょうがないや」
まずは目の前のやるべき事を片付けよう。そう思い、初めての自室へと足を運ぶ。
「ここ、だよね?」
誰もいないため自問自答。ゆっくりと、ノックをする。
勇者学園の寮は2人1部屋らしい。どんな人が相手なのか、緊張するものの少し楽しみだ。
これぞ学園生活って感じするし!
「…いないのかな」
特に反応はない。
いいや入っちゃお。入ったことないけど自室なんだし大丈夫でしょ…
ノブを回し、ゆっくりと引いて扉が開く。そして、中に数歩踏み込んだその時──────────
ほんのわずか、嫌な匂いが鼻腔をくすぐった。
引き返そうか、そう思ったもののここは自分の部屋。どこに行こうというのか。
慎重に、歩を進める。一歩進む度に、その匂いは濃くなっていく。思わず顔をしかめる。
……やがて、その匂いの主が目に入った。
「えっ」
白い髪に金色の瞳。そして何よりも…着替え途中で下半身半裸だった。
「…えっ」
私の声に反応し、相手も振り向く。
「…」
目が合った。気まずい時間が数秒訪れ…
先に動いたのは彼女の方だった。
いそいそとスカートを履き直し、そしてルナに近付いて手を取り一言。
「お疲れ様です、軍師様」
「!」
なんで知ってる、という疑問よりも先にヴェルトは言っていたことを思い出した。
『1人、協力者も編入させる。色々とサポート出来るはずだ』
まさか、彼女が…?
尋ねるよりも先に、彼女が名乗る。
「私はルリエナ・グライシス。ヴェルト兄様の妹です。よろしくお願いしますね」
「…言っとけよ…あの馬鹿…」
見知らぬ相手はまさかの同族であり同期の妹。幸か不幸か、ルナの思い描いた同室でのあれやこれやは出来なさそうだ。




