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4話 知りたいから


背後からの声。ゆるりと、振り返る。

倉庫の入口。薄暗い光の中に、ヴェルトが立っていた。


相変わらず感情の読めない顔だ。


「……」


私は何も言わず、ただカインの冷たい手を握ったまま俯いていた。


血の匂いがする。もううるさくもない。全部まっさらに消えていた。


「……間に合わなかったか」


ヴェルトが小さく呟く。その言葉に、私は僅かに眉を寄せた。


「知ってたの……?」


「嫌な噂は耳に入ってた」


ヴェルトは壁へ寄り掛かりながら、足元へ転がる死体を一瞥する。


「最近、人間側も余裕が無い」


「…………」


返事は出来なかった。頭の中には、まだカインの記憶が焼き付いている。


縛る縄。怒号。疑念。


意味も分からないまま向けられた殺意。


そして最後まで、何故自分が殺されるのか理解出来ないまま死んでいった。


「……分からなかった」


ぽつりと、呟く。


「カイン、自分がなんで殺されるのか、最後まで分かってなかった」


声が震える。


「……あの人たちも、多分同じだったんだと思う」


ヴェルトは黙って聞いている。


「怖かったんだよね」


私はゆっくり、自分の膝へ視線を落とした。


「魔族が怖くて、裏切りが怖くて、余裕が無くて……だから疑って、殺した」


それは、避難区の魔族たちと変わらない。


追い詰められて、怯えて。

誰かを敵にしなければ、壊れてしまいそうだった。


「……結局、同じなんだ」


自分の中の結論を、小さく、口にした。


「人も魔族も」


ヴェルトは少しだけ目を細め……ルナの代わりに、言葉を続けた。


「だから争いは終わらない」


低い声が、静かに響く。


「俺たちは、生きるために相手を排斥する。千年前からずっとそうだ」


否定は出来なかった。


私は、もう見てしまったからだ。


避難区の空気を。人間側の疑念を。魔族たちの焦燥を。


平和なんてものが、どれほど脆いのかを。


「……私は」


ぽつりと声が漏れる。


「仲良く出来ればいいって、思ってた」


本心だ。実際、カインとはいい仲になれていたはずだ。私の一方通行だったとしても……


「お前らしいな」


「でも、そんなの綺麗事だった」


そんな本心を、真っ向から否定する。違う、肯定出来なくなった。

あまりにも、自身の身に降りかかったことが不明瞭で、理解に及ばなかったから。


「……」


そんな私に、ヴェルトは何も言わない。ただ、黙って見つめてくるだけだった。


しばらくの沈黙。


思考に余裕が出来たからだろうか。思い出したように、カインとの記憶が頭を埋め尽くす。


笑っていた顔。呆れたようにため息を吐く顔。

最後に浮かべていた、不安そうな顔。


全部が、ぎゅぅっと私の胸を締め付ける。


「なぁ、ルナ……」


沈黙に耐えられなくなったのか、ヴェルトが口走る……のと同時。


「……知らないままなのは、嫌」


気付けば、そんな言葉が漏れていた。


ヴェルトが視線を向ける。私も、ゆっくり顔を上げた。

視線が交錯する。


「人がどういう生き物なのか」


何も知らなかった。同じようで少し違う。隣人だと、そう思っていた。


「魔族と何が違うのか」


今は同じに見える。きっとそれはまだ、全部じゃないけど。


「どうして、争い続けるのか」


私には考えたくもない話。でも──────────


知りたかった。もう、目を逸らしたくなかった。


「……私、勇者学園に行くよ」


静かな声だった。

けれど、その言葉だけは不思議と迷いが無かった。


ヴェルトは数秒ほど黙り込み、それから小さく息を吐く。


「そうか」


短い返事。

しかし、その目はどこか安堵しているようにも見えた。



 * * *



「初めまして! 私はルナ・メモリア! よろしくね!」


教室のあちこちから拍手が返ってくる。


「それじゃあルナさんは……あそこの席でいいかな?」


「はいっ、大丈夫です!」


元気よく返事をして、ルナは教室の中を歩いていく。


……誰も疑っていない。


ここは勇者学園。世界で最も安全な場所。

そんな場所へ、魔族が潜入しているなど。誰一人として、想像もしないだろう。


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