48話 第1縮小前 森エリア/市街地前視点
レオナードは、対峙した少女を見据え首を傾げた。
あまり見覚えのない白髪だ、と。
「…ってぇことはァ、新入りか?」
「そういう貴方は…あぁ…」
女が微笑む。しかしそれは、優しさから来るものじゃなく、侮り、もしくは嘲りが妥当な。
「言いてぇ事があんならはっきり言えや」
「言っても無駄でしょう。少なくとも、理解する知恵があるように思えませんので」
「ほぉ?」
随分とレオナードの神経を逆撫でしてくる。
自分がどういうものか、分かっていないからだろうとレオナードは理解する。
「いい機会だ、分からせてやるよ」
己の力を、地位を、その全てを以して叩き潰してやろう。堂々と、正面から。
そうしてレオナードの口から放たれた宣言。
ルリエナは、その自信をへし折ってやりたくなった。それは自身も強者であるがゆえ─────
「ふ…」
気付けばルリエナの顔は、不敵な笑みが頬を緩ませていた。
* * *
レオナードの顔色は芳しくなかった。
「くっ…どうして当たらない…!」
「貴方が下手なだけでしょう」
目の前に居るはずのルリエナに対して、レオナードの攻撃は全くといっていいほど当たらない。
別に、攻撃が当たらないこと自体は珍しいわけではない。そもそもとしてレオナードの異能はあまり攻撃に向いていないのだから。
だからといって、当たった感触があって、間違えようのない手応えもあるのに…
「どこを狙っているのでしょうか」
「っ!」
剣を振りぬいた後は、必ずそこに立っている。
「そろそろ…反撃に出ましょうか」
その言葉に、レオナードは警戒を固め─────
* * *
ルリエナ自身も、内心焦っていた。
厄介なのに捕まった、運がないと。嘆きたい気持ちを抑えながら、目の前の男を冷徹な目で見つめる
相性が、互いによろしくない。異能戦における相性というのは実力差さえもひっくり返してしまうものだ。
ルリエナの異能は『幻華』。相手の認識へ関与する類の精神系統。だから、相手の攻撃をずらしたり、当たった風に思わせている。
対するレオナードだが、恐らくは防御系。もしくはカウンター系だろうか。攻めようと考えた時には盾を構え、全身の隙が無くなる。
「…厄介な」
別にそれ自体は問題ではない。ルリエナの異能によって、相手に攻撃を防がせたと思わせればいい。隙が出来るはずだ。
だが、最も鬱陶しいのは…
「ここだぁっ!!」
相手の攻撃に反応して自動でカウンターを放つもの。レオナードの足元から魔力が伸びているのを見るに、一定範囲内の攻撃を検知しているのだろうか。
ならばその魔力の効力を阻害しようとすれば、それ自体を検知し向こうから仕掛けてくる。手詰まりだ。だから…
「生き残れば勝ち、ですからね…」
幸いにも、ルールがルールだ。ルリエナは、膠着を受け入れ共にここへ留まる決断を下した。
* * *
ユノは、街門の前で一息吐いた。
幸いにも、湖エリアで攻撃を仕掛けられることは無かった。恐らく相手としてもあそこで戦うのはメリットがないからだろう。
「そうなると…待ち伏せてる人はいるかも」
ようやく見えてきた市街地エリア。地下水路から向かうのが恐らくはバレにくいのだろうが、ユノはそれを選ばなかった。
「…暗くて怖いのよりは、マシ…」
キュッと口を結び、ユノは市街地へと足を踏み入れる─────
魔力。魔力。魔力。魔力。
膨大で、複数の魔力の塊。それを感じた瞬間に、ユノの身体は反射的に動いていた。
遠くの攻撃は解析、大気中の魔力へと霧散させる。近くの攻撃に対しては、間に合うものには反対属性の魔術をぶつけ、間に合わないものは半径1メートルの防御結界で排除する。
3工程同時にユノは対処していく。その最中で、相手の居場所を突き止めるために探知の魔術までをも発動する。
「二か所の異能…あとは魔術によるもの、推測するに…」
二人は遠距離の異能、残りが近接タイプか、搦手タイプだろう。
ユノはまず、遠距離から狙い撃つ。その間も迎撃の手は止めず、攻めの手のみを増やし続ける。
常人ではありえない速度の並列処理。魔術というのは、二重展開でさえ脳への負荷は計り知れない。
それを、ユノは齢17にして完成させていた。
「『加算術式』『追尾術式』付与」
炎の様に煌めく緑の光が、ユノの指先から放たれる。
途中までは相手の攻撃にぶつかり、消滅させながら。
分岐させてからは、まるで意志をもったかのように追従し、獲物の首を掻っ切る勢いで加速する。
「なっ後ろからだと!?」
「きゃぁぁぁぁ!!!」
統率の取られた、集中的な攻撃が逸れ出していく。やはり、遠距離の方が司令塔であり攻撃の要。
「距離を詰めろ!!」
残ったものの中でも、とりわけ背の高いものが声を出し、再び動き出す。
今度は相手自ら攻めてくる。ならば…ユノは、迎撃するのみだ。
放ち、空を切った魔術は全て未だ途切れさせていない。ユノは全ての魔術を展開したまま次へ次へと魔術を発動させる。
非効率。そう思われる行為だ。魔術の展開を続ける限り魔力の消費は嵩むばかり─────
しかし、ユノの魔力は尽きる気配も無かった。
「なっ、通り過ぎたんじゃ…?」
「…追尾術式」
たった一つ、術式を付与すれば空中を漂う魔術は再び生き返る。気付けばユノの魔術が、前後左右を封じ包囲していた。
「申し訳、ありません」
自分も負ける訳にはいかないのだ。自分のためじゃなく、家族のためにも。だから一言、そう謝罪をしてユノは─────
その場にはただ一人、ユノだけが残っていた。
「…私なら、大丈夫」
…………




