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45話 一人きりの作戦会議



「はぅ………400週目、終わった…」


自分誰も居なくなった教室で、ユノは教本を閉じながら独り言を呟く。

こうしていつも、ユノは授業の無い教室で一人残り何度も読んだ教本を繰り返し読んでいる。


「お母さんが買ってくれてから…もう10年…か…」


当時は到底読み切り、扱えるようになるとは思えなかった。でも、何度も何度も繰り返し唱え、使ってきてようやく手に馴染んできたのだ。


「………対抗戦、怖いな…」


ユノは戦うのは苦手だ。そもそも、戦いを好んで行う人達を理解出来ない。

自分は生きるため、母のために勇者学園に入学したに過ぎないのだから。


そんな自分が首席に座っていること自体、正直…申し訳なく思ってもいる。


「はぁ…」


「溜息は幸せが逃げるぞ、セルディア君」


「!?」


突然、後ろから話しかけられユノの肩がビクつく。

声の主には聞き覚えがあったため、ユノはそのまま振り返る。


「ノルトライン先生…」


「エリック先生でいいって、前にも言ったろ?」


「エリック、先生」


あっけらかんと喋るその人は、屈んだせいでズレた眼鏡を直しながら微笑む。

どうしてここに居るんだろうか、とユノは思わない訳では無いが、この人はいつも気付いたらそこにいる。


「あぁ、僕だよ。…何か悩んでいるみたいだったけど?」


「いえ、悩みとかは…ただその、対抗戦が…怖くて」


「…そういえば、1年前もそうだった」


思い出したかのように、エリックは言い出す。


「いきなり連れてこられて、戦えって言われて…泣きじゃくってた」


「……仕方ない、です。あの頃は本当に、勇者というものさえ知らなかったんですから」


「それでも周りを実力で黙らせてたのは圧巻だったよなぁ」


「偶然です。運が、よかっただけです」


「そういうの、勝った奴が言うと嫌味にしかならないからやめときな」


そうは言われても、ユノは本当にそう思っているし、いつでも順位は逆転しうると考えている。

特に、レオナードなんて、伸びしろばっかりで今回はユノも危うい。


「…私は、完璧じゃないです」


「そうだな」


「だから、先生の期待に応えられるかは、分からないです」


「…セルディア君、なんか勘違いしてんね」


エリックは、ピシッとユノのおでこに指先を突きつけ、告げる。


「別に、期待してないとは言わない。ただ、お前以外にも僕は期待している。皆、同じように、可能性を秘めているんだからな」


「じゃあ、どうして、わざわざ私に話しかけて…」


「僕はお前らの教師だ。悩みぐらい聞くし、解決できるようにする。あとな、話しかけるぐらい普通のことだ」


あうっ、と声にならない声が漏れる。

ユノはその普通がハードルが高いのだから、平然と言うのはやめてほしい。


「…まだ、人と話すのは怖いのか?」


まるでユノが言おうとしていたことを察した様子で問うエリック。本当に、心を読んでいるのかもと疑ってしまう。


「はい…怖いです………でも」


ユノは少し頬を緩め、彼女のことを頭に浮かべて、続けた。


「友達が、出来ました」


聞いていたエリックは、口をあんぐり開けて驚いている。

全く、言わせたのは貴方だろう、とユノは溜息を吐きつつも満足げに笑った。


その様子と、震えながらも微かに自信を持った声音を聞いて、エリックは、


「そうか……よかったな」


ただ一言、心底嬉しそうにそれだけを返した。



 * * *



翌朝、私は生徒会室へ向かった。

復帰明け、最初の仕事だ。久々だし、何よりセイルに会えるかもしれない。

少し、浮ついた気持ちで廊下を歩き、生徒会室の扉をノックする。


「失礼しま────」


「ルナ!!」


足を踏み入れた瞬間、肩をがっしり掴まれる。

何事かと困惑したまま、私は声の主を確かめようと、顔を上げて…


…そこに居たのは、少しやつれた様子のリゼだった。


「あの?」


「よかったわ……もしかしたらもう来ないのかと…」


「えっ…と、なんでそんな話に?」


「だって、ミアが…「ルナはリゼっちの厳しい指導に耐えかねたからやめたい」って…」


「……」


あの人は本当に…

情報通であり、広報のミアが私がどうなっていたか知らないはずがない。

つまりは不安がってたリゼを揶揄ったのだろう。


「とりあえず、それは質の悪い嘘です。後で叱っておいてください」


「そっ、そうだったの?」


「はい。やめるわけありませんし、リゼ先輩には感謝してます。何も言わずに居なくなりませんよ」


ホッと、胸を撫で下ろすリゼ。その後、すぐに怒った顔をして部屋を出ていったが止めることもない。自業自得である。


ミア先輩に向けて、心の中で手を合わせながら部屋の奥へと入る。


見慣れた机、壁にかけられたよくわかんない絵に、嗅ぎなれた、花瓶の花のいい香り。


もう何度も感じて、慣れたはずなのにどこかむず痒いものを感じる。

離れてから1週間も経ってないけど、こうも恋しくなるものか。


そうして、戻ってきた実感を得つつ部屋の奥へ進むと、会議室の上座。いつも通りの顔があった。


「やぁ、ルナ。久しぶりだね」


「…副会長」


シオンが、いつもと変わらず本来会長の席に座り、書類を片付けている。

なんか、怯えてばっかりだったけど…久しぶりだからか、この何考えてるか分かんない顔も落ち着くかも。


「今日はどうしたんだい?一応、対抗戦が終わるまでは休んでてもいいって、伝えてたと思うんだけど」


「…少し、所用で。セイルは居ますか?」


「セイル?最近、朝は来てないね」


「そうだったんですか…」


残念。会えるかもしれないと思ってたが仕方あるまい。また、完全に復帰したら会えるだろうし気長に待とう。


それよりも、だ。私は、調べたいことがあったから生徒会室を訪れたのだ。


「副会長、資料棚の鍵を借りれませんか?」


ヨル抜き、その他のハンデありで勝つための方法を、模索するためにもね。





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