44話 宣戦布告
説明が終わると、今日は解散であることがユステスから告げられた。
つまりは放課後。既に何人かの生徒は教室を出て寮や訓練場へ向かったらしい。
私は、少し気になることがあったため教室の隅の方で教本を読み込んでいるその子に話しかけた。
「ユノ」
「…あっ、ルナちゃん」
顔をあげ、目が合うとへにゃっと表情が柔らかくなる。
思わず私の頬も緩みそうになった。今は、それどころでは無いのだ。
「今大丈夫?ちょっと、対抗戦で聞きたいことがあって…」
「うんっ、なんでも、聞いてっ!」
期待の眼差しで、普段とは違ってハキハキと言われて驚いてしまった。なんだか、嬉しそう…?
最近は生徒会もお休みしてたし、久しぶりに会えたからかな?かく言う私も内心は嬉しい。
それはさておき。
「ユノって、このクラスの…首席、なの?」
「…えっと、そうだけど?」
心配そうに問い返された。まるでさっきの説明を聴き逃したのかな、とでも言いたげだ。
でも私からしたら、ユノが首席というのが信じられないのだ。
人見知りで、抜けてるところがあるけど、人一倍頑張り屋。それが私の知っているユノ。どうしても首席で、エリートというイメージがつかない。
「…答えてくれてありがと。対抗戦、お互い頑張ろうね」
「…?うっ、うん!」
ただ本人と、担任の口からそれが事実だと語られたのだから本当なのだろう。
「あの、ユノが…」
でもやっぱり…想像つかないなぁ…
* * *
ルナを見送ったユノ。ユノも帰ろうと立ち上がったところで、また1人立ち塞がる。
「ちょっと待てよ。ユノ・セルディア」
金にも見える橙の整えた髪と、青色の瞳。少し高い鼻が特徴の男の子。
「…レオナード」
先程とは打って変わって、ユノの声音が低くなる。
「顔合わせんのは久々だな。俺らは通学自由だしな。どうだ?元気してたか?」
「普通、だよ」
ユノの場合は生徒会があるため毎日通っている訳だが、わざわざそれを言うまでもない。言うほどの仲でも無いから。
「釣れないな……ま、そうか。俺とお前は友達ってわけじゃねえからなぁ!」
ダンッ、と机を叩き、前のめりに。レオナードの顔が眼前にまで迫った。
「!……迷惑だよ?静かにして」
「もう俺とお前しか居ないんだ。構いやしねぇ。今はもっと、大事なことがあるだろうがっ!」
体制を戻して、今度は指先がユノへ向ける。そして、数拍の間を経てから、告げられる。
「俺はァ取り返す!その首、しっかり洗って待ってやがれや!」
宣戦布告。
「…」
ユノは何も言わない。何も返さない。ただ、その言葉を聞くと…あの時の光景が今でも思い出せる。
…………
無数の魔術式が、空に展開し続ける。人間業とは思えない展開と発動の速度。更にはタイミングまで測っているなど誰が信じようか。
『俺の防御は絶対だ!絶対っなんだよォ!!!』
レオナードは吠える。既に何度も魔弾を受け、負傷しているが尚も、吠える。
─────負けない、と。ひたすらに。
そんな、固く重い意志を、ユノは────
…………
「おいっ、聞いてんのかって」
男の子にしては、少し高めの声。だからか近くで大きい声を出されると、うるさくて仕方ない。
「聞いてる…」
「そうかよ。なら返事しろよな……ま、言いたいことは言った。俺はもう行くからな」
言うとレオナードは教室を後にする…かと思いきや、戻ってきて顔だけを覗かせて一言。
「…ちゃんと鍵閉めろよ」
喋り方とは違って、彼は少々…かなり、真面目だった。
* * *
発現済の生徒はどうやら一人部屋を与えられるらしい。しかも2人部屋の時よりもかなり広いと来た。
そのことに随分驚いたが、ルリエナとは隣合っているから以前とはそう変わらないことには安堵した。
「さて、軍師殿…今回の、対抗戦について話しましょうか」
「うん」
私の部屋に集まり、作戦会議。というよりかは打ち合わせだ。
毎度毎度、この類の行事ごとでは何かしら起きている。イレギュラーに対する心構えのためにも準備はしておくに限る。
「ルリエナ、今回…異能の制限はなしって言ってたけど…」
「ダメですね」
私の言葉を先取り、首を振る。
「どうやらこの対抗戦、魔道具によって観測、記録が行われているようです。なので、軍師殿は…副会長に見せたものは使わないように」
「だよね…逆に言えば、それ以外は使ってもいいってことだよね?」
「はい。寧ろ、戦わなければ怪しまれるかと。私も適当にやろうと思います」
むむ…中々に難しい話だ。シオンに見せたのは、ヨルとその異能の『月食』。あとは防御魔術ぐらいだから…
ヨルが、扱えない。
主に近中距離戦を担い、小回りの利いた立ち回りに、私の考えを察してくれるのがヨルの強み。ある意味、私の切り札であり主力。
いちばんの相棒と言ったところか。
「…ちょっと、自信無くなってきた…」
「これは順位決めであり、私達は彼らより経験がない者と思われています。あんまり気にする必要はないかと」
ルリエナはきっぱりと割り切っている。これ自体は、任務に影響があるわけじゃないだろうし、仕方ないのかもしれない。
「そうだね…じゃあ、今日はこれで終わり、かな?」
ルリエナが頷く。気付けばもう窓から見える外は薄暗くなりつつあった。
「はい。軍師殿、あまり夜更かしなさらぬように」
「おやすみ、ルリエナ」
挨拶を終え、ルリエナが部屋を後にする。
「ヨル、三日後お留守番だって」
「…」
ヨルは眠っているのか返事が無かった。やれやれ、明日朝教えたらどんな反応するやら。
私もそろそろ寝る準備をするかな。
湯浴みの用意をしながら、ヨル抜きでの戦い方を模索し出した。




