41話 月下の『死追』
紋章の光。それは『異能』を扱ったという証明。
セイルは、今にも落ちそうな意識の中、その光の主を目に写した。
ルナ・メモリア。セイルにとって、一番に近しい友達。
彼女の紋章は溢れんばかりの光で洞窟内を明るく照らしている。
(三日月の様に鋭い鎌と満月…)
彼女の名にふさわしい月を冠する紋章だ。なんて、今は考えている場合じゃない。
でも…どうしてだろうか。もっと相応しい疑問があるはずなのに、セイルの心はただひたすらに目の前の光景に感嘆し、見惚れてしまう。
「…ごめんなさい」
そう、彼女が謝ったのを皮切りに龍と『死追』がぶつかりだした─────
* * *
─────
「ヨル、ノノ……来て」
足元の影が揺れて継ぎ接ぎ柄の黒猫と翼竜が現れる。そして、黒猫の方が一歩前へと出て、接近していた息吹を食らった。
「よかったのかしら?ルナ」
全てを呑み込んだヨルが、尋ねてくる。それが何を指しているかは言わずとも分かっている。
分かってる……けど、今は考えたくない。
「…話ならいくらでも後で聞いたげるわぁ。ノノもそう言ってる」
「ありがと、ヨル」
私も、と言わんばかりにノノも唸る。返事の代わりに頭を一撫でし、視線を戻した。
目の前の龍は、突然の巨大な魔力反応に驚き警戒を露わにしている。
一度大きく深呼吸。そして、ほっと胸を撫で下ろした。
正直、勢いのままに攻められた方がずっと苦しかった。
警戒させれたならヨルに支払った魔力も無駄ではなかったわけだ。
「ヨル、決め手は──。時間と、セイルをお願い」
「任されたわぁ」
「ノノ、私を乗せて」
ヨルはセイルの方へ。私はノノの背に乗り、狭い洞窟内を飛び始めた。
結局、セイルが居た時とやることは変わらない。やれることが増えただけなのだから。
「洞窟内じゃなければ…まだよかったんだけどね」
空中にて、龍と私の視線が交錯する。不思議と、私の方には初めに見た時のような恐怖はなく、寧ろ龍の方がおびえているように見えた。
理由は分からないが…仕掛け時だ。
「ノノ!後ろへ回って!」
『キャウ!!』
可愛らしい鳴き声と共に、凄まじい速度での低空飛行。
しかしながら龍も流石。こちらが動いたのに反応して爪や尾を振るいだした。
乱暴に、自身の体躯を存分に活かした攻撃。中々に読み切るのは難しく、ここはノノの直感を信じるしかない。
「ノノ!まだ……走れるでしょう!」
『ァゥ!』
ノノは更に加速する。器用に壁や龍には追突せずに、ちょくちょく曲がりながら。
それを何度か繰り返し、避けて進んでようやく辿り着く。
「ヨル、準備は出来てる?」
『いつでもいいわぁ。今夜も、月が綺麗ねぇ』
流石はヨルだ。あれだけの指示でやって欲しいことをやってくれた。
やっと、この子の射程圏内に入った。
「……おいで、ロロ」
直後、私の影から3体目の死霊人形─────巨大なゴーレムが、現れた。
* * *
盤面は最終。後は締めの一撃を加えるだけ。
ロロと呼ばれたゴーレムは、落下の勢いそのままで龍の首へと落ちていく。
「ロロ、全部使って。私たちを、守って!」
『……!』
ロロの眼が光り輝く。この子は扱いが難しい分、使えるところではとことん強い。
久しぶりの実践だが、おそらく─────
ロロが着弾する。文字通り、まっすぐそのまま弾丸のように龍の首を穿った。
『ガァァァァァ!!!』
龍が痛みにより怒る。まだ生きている。トドメには至っていない。
やっぱり、最大まで使う想定をしていて良かった─────
ロロの額の紋章が灯った。
ロロも、ヨルと同じく個別の『異能』を持っている。
条件も同じ、膨大な魔力と月明かり。
ただ今は、洞窟内。それでも方法はある。
『ロロ、お姉ちゃんからのご褒美よ』
『……!……!……!!!』
ヨルは外に。ヨルを挟んで月を供給している。
『マモる。まもる』
魔力が満ちたからか、たどたどしくも言葉が使われた。
私は、再度命令を下す。
「お願い、ロロ」
『ウん』
ロロが、体制を崩した龍の頭を強引に掴む。何もかもを壊してしまいそうな力で、メリメリと骨の軋む音がしてもお構い無しで。
そのまま─────洞窟の壁へ、思い切り投げ飛ばす。
先程の龍の攻撃など遥かに超える乱暴さと力。
それは、ロロの力が全てを『壊す』ための力だから。
ロロは龍へ追いつき、そのまま壁に頭を押し付けながら引きずり削る。そして、ある程度の所で、龍の胸部へと拳を叩き込んだ。
『ギャッ……ァァァァァ……!』
それでもまだ立ち上がる。胸を貫かれ、目が潰れても、何度でも。
『ゥゥゥゥ……ガァァァァァァ!!!!』
最期の咆哮。ロロへと一矢報いるべく、龍は大きく息を吸い込む。息吹の体制だ─────
が、ロロは意に介すことなく、喉を潰しにかかった。
遂に掴まれる命の拍動。ジタバタと巨躯が暴れるもロロの手はビクともしない。
『ギャ……ァ…………ァ……』
そして、そのまま─────




