42話 代償
全てが終わり、私はふらつく身体をヨルに支えられながら外へと出た。出口が落石で塞がれなかったのは不幸中の幸いだろう。
「……うぅ、疲れた……」
「もう少しよぉ。そこの勇者もどきはノノに運ばせなさい」
「もどきって……そんな事言わないの」
「はいはーい」
言いながら、龍の最後の瞬間を思い返す。
あの龍は、最期まで暴れていた。生きるために必死で、足掻いて。
その結果、洞窟内はめちゃくちゃになり崩壊を始めている。どうして龍がいたのかとか気になるけど調査は無理だろう。
何はともあれ、無事に生きて出れた。まずはその事に感謝である。
「まだ、寮に戻れば……もしかしたら……誤魔化せるかな?」
「これだけ派手にやったんだもの。難しいと思うわぁ。それにぃ……誰か、来たわよ」
「え……」
「ここで物音が─────っ、貴方達!」
聞き覚えのある声。ヨルがひっそりと私の後ろへと隠れる。
「ニア、先生…」
「メモリアさん!どこへ行っていたのですか!?それに酷い傷…………ルミナス君はどこへ?」
「え、えっと…」
「ここです、先生」
更に重ねて……セイルの声。いつの間にやら起きて、自分の足で立っていた。
待って……ってことは、もしかして……
「!?……びっくりさせないでちょうだい。怪我は……貴方も酷いじゃない。一体何が…」
「詳しい話は、治療後でも良いでしょうか?」
「もちろんよ。2人とも、後のことは任せなさい」
先生らしい顔で、先生らしいことを言って安心させてくるニア先生。
詳しい話は後で、ということになり少しだけ、整理の時間を得た。
セイルの顔が、上手く見れない。
* * *
保健室で治療を受け、あったことを話、2人仲良く隣に寝かされた。
「龍!?冗談じゃ、無いですね?」
珍しくニア先生が驚いていた。
そして、私のことだが……今は、異能が発現したばかりということになった。
セイルの証言と一致していたことから、深く追求されることはなかった。
……魔族だとバレなかっただけ、一安心である。
「……ルナ、起きてる?」
「うん……起きてるよ?」
考え事をしながら天井を眺めていたら、セイルから声を掛けてきた。
振り向くと、セイルは少し神妙な顔をしていた。
「少し、聞きたいんだけど、さ」
「……」
その入り方と、先程までのニア先生へ話したこと。それらから、次の言葉を察する。
「ルナは、以前から……持っていたん、だよね?」
「………………うん」
長い沈黙の後、私は答える。
「そう、か……並び立ってたと思ってたのに、追い抜かされていたんだね」
顔を腕で覆い、セイルは呟く。その声音には、悔しさ半分、悲しさ半分と言ったところだろうか。
様々な感情が入り交じった呟きに、私は気付けば謝罪を口にしていた。
「黙ってて、ごめん───」
「……ルナを責めたつもりなんてない。これは僕の問題だ」
しかしきっぱり、それを受け入れないと断言した。そう言われては私にできることはもう何も無い。
「復帰明けから発現済のクラスだろう?……僕の分まで頑張って」
「セイル…」
カーテンで仕切られ、会話が打ち切られる。
結局、一方的に聞いただけで私は何も言えなかった。何より、セイルの顔をまともに見れなかった。
「……やだ……やだよぅ……」
聞かれないような声量で、声を殺して私は泣いた。
* * *
隣で啜り泣く声が聞こえて、セイルはひたすらに自身を責めた。
─────自分はなんて弱いのだろうか。
今、泣いているルナを慰めることも出来ないのも。
ルナが隠したかったことを公にさせてしまったことも。
何もかも、自分が弱いからだ。もっと、悔やめ。友とのかけがえなの無い時間を失ったのだと、強く理解しろ。
自己嫌悪が止まらない。一度は肯定されたのに、こうも簡単に折れてしまう。
やはり自分は、弱いのだ。
「ルナ……ごめん。僕もいつか─────追いつくから」
そんな弱い自分に出来ることはなんだろうか。
それを考えながら、セイルは眠りについた。
* * *
「─────上が、合同演習における事の顛末です。兄様」
ルリエナは、合同演習が終わりそのまま、自身の兄の元へ向かっていた。
「……面倒な」
ルリエナの報告を聞いたヴェルトは、本当に心底気怠そうに呟く。
「分かっている上で軍師殿に任せたでしょう」
「そうだが、こうも連続して計算が狂うとやっぱりくるもんがあるなぁ」
ルリエナは1つ、溜息を吐く。やはり兄はいつまでも兄らしい。
無論、悪い意味で、だ。
「ま、ルナのことは分かった。それで、お前の方はどうなったんだ?」
「あぁ……あの男と対峙したことですか。大したことはありませんでした。軍師殿でも本気を出せばやり合えると言っていたのは本当でしょうね」
「そうか」
「えぇ。それと、私も発現したと申告をしておきました。引き続き、軍師殿の協力を続けますね」
「流石だ。察しのいい妹を持つと頭が上がらねぇなぁ」
言いながら、ヴェルトは再び自身の世界へと浸り出す。報告は終わり、また新しい悪巧みでも考えているのだろう。
そんな兄を見て、またルリエナは溜息を吐くのだった。




