35話 魔狩り
テスペアの森入口。200人近い生徒が、その場所に集まり列を成す。
「原則妨害行為は禁止、危ないと思ったら迷わず魔石による救援を求めること。期限は夕暮れまでです」
ニア先生が、もう幾度か繰り返した説明を改めて告げた。
ようやく、始まるのだ。合同演習が。
「それ以外の禁止行為はありません。皆思う存分、実力を振るってください」
「はいっ」
返事を聞き満足そうに笑うと、位置に着くように指示がなされる。
私は班の皆と共に配置に着く。1クラス30人、私たちは5人で1班だ。
「セイル、作戦通りね」
「あぁ……まずは────」
「それでは────始めっ!!」
「…分散、そして絶好の狩場を探す」
皆一斉に、動き始めた。
* * *
私の班はセイル、私、レイナ、シュラトル、ヴェナ。
実技訓練の成績上位者から5人で固めたらしい。
それぞれの役割も奇跡的に噛み合っている。
セイル、私が仕留める。
シュラトルは前衛として注意を引く。
レイナは支援魔術を掛けつつ全体を見る。
ヴェナは回復魔術と探知魔術。
随分都合よく組めたものだと今でも思う。
「ここですっ!ここなら見晴らしがいいかと!」
ヴェナが声を上げる。眼鏡と黒髪で、いかにも真面目そうな彼女はやはり一番に条件を満たす場所を見つけた。
呼ばれた方へ行くと、確かに開けていて、尚且つ獣道に繋がっているのが2箇所ほど。作戦に最適だろう。
「上出来、罠を仕掛けよう」
「簡易なやつでいいんだよな?」
「うん、でも相手は魔力を頼りに動いてる。だからこういう時は……物理的な罠の方がいい」
限られた時間で考えられるのはやはり……あれだろう。
「じゃあ、やるか」
シュラトルは私が言うよりも先に、柔らかい地面を掘り出した。
チャラそうな金髪と袖をまくった装いに反して察しがいいらしい。
私も魔術で地面を濡らし、深く掘れるようにしていく。
「案外、こういうのも悪くない……なっ!」
「皆が頑張ってるんだし、私達も頑張んなきゃね」
作っているのは落とし穴。それはもう、簡単な、足場が少し取られる程度のそれ。
ただ、その隙があるだけでかなり違いはある。
そうして罠の準備を済ませていって、30分程だろうか。
ヴェナの探知に、それは引っかかった。
「────来ますっ!」
森が、ざわめき出した。
* * *
どす黒く荒れた体毛に、背中に突起している紫の魔石。そして、獰猛さを象徴するような血走った赤い目と、肉を食んだ後であろう汚れた牙。
ハングリーウルフのお出ましである。
「シュラトル!」
私たちの居た逆の方だ。急ぎ体勢を整えるため、時間稼ぎを任せる。
「セイル!まだ引きつけて!」
「了解!」
「支援入るよっ!」
頭の中で魔術式を描きながら状況を判断。
数は5匹。うち2体は罠に引っかかってて、残りはそれを見てか飛び越えてこちら側に。ただ、数の不利からか様子を伺っているようだ。
でも、これは事前知識で知っているのだ。こいつらの我慢は結局────空腹には抗えない。
『ゥゥゥゥ……ア゙ァ゙!!』
ダラダラとヨダレを垂らしていたが、限界のようだ。
力強く踏み込み、3匹のハングリーウルフが飛びかかってくる────。
「────っ、らぁっ!」
しかしシュラトルが魔術で編んだ盾を構え、短剣をも思わせる牙を一斉に引き受けた。レイナの支援を受けてなお、盾に牙がめり込んでいる。
危険────だが、同時にチャンスだ。
「今っ!」
「シュラトル下がれ!」
私は地属性の魔術を、セイルは光の剣で。合図と共に、放つ。
『ヴァァァァァ!!』
岩の塊がハングリーウルフの頭蓋を撃ち抜き、剣が背中の魔石を切り離していく。
その一撃全てに、黒狼は怒りを燃やした雄叫びを上げていく。
しかし、段々とそれも弱まっていく。
知性に乏しい狼は凶暴であっても無力だった。ただの躾のなっていない犬と何ら変わりない。
3回目だ。3回、同じように魔術を放ったところで、完全にハングリーウルフの息の根は止まった。
思っていたよりも厄介な相手だ。ずっと想定通りに動ければ問題なく勝てるが、疲労や環境次第じゃ足元すくわれかねない。
少し、策を練り直した方が良いかも。思案しつつ、罠にハマっていた個体にもトドメを刺す。
ヴェナが再び探知を使い、ようやく一息つけるようになった。
「皆さん、怪我はありませんか?」
「ちょっと掠ったぐらいだ」
「治癒を掛けます」
ヴェナがシュラトルに治癒を掛けている間に、荒れた罠の再配置と魔石の収集。
この魔石の量で成績が決まるのだから、しっかり集めないと……
* * *
その頃、付き添いで来ていた3年生のうちの1人────シオンは、少し救援を待つ教師陣から離れて動き出していた。
「さて…2年にいるかどうか」
魔族が学園内に存在している。それを知ってからシオンは秘密裏に探し続けていた。そして、今日。ことが起きるとしたらここでは無いかと予想をつけ半分無理やり、同行を願い出たのだ。
「僕の命を奪わなかったこと、後悔すればいい」
あの時はそれが限界だったのか、はたまたなにか別の事情があったのか。魔族が慈悲なんて抱くわけもないのだから、それ以外で理由を決め付ける。
「…普通にやってても出てくることはない。きっと力を隠している。だから…力を使わざるを得ない状況を作り上げる」
シオンが、手のひらを地に付ける。そして…木や草花の根を伝い、魔力が流れ出した。
大規模な探知魔術。膨大な魔力と引き換えに精密な探知を可能とする。
それこそ、異能を使ったものがいればすぐに分かる。
ここから何時間でも粘ってやる。そう決意したシオンは目を瞑り、集中力を高めていく────
「やはり、予定とは違うものも来るわけですがね…」
言いながら、振り向き抜刀一閃。
『ァ、ァ…ァ』
ぐしゃりと鈍い感覚が掌を伝った後、ハングリーウルフの亡骸が地に伏せる。
自身でも、今のは速かったと確信を得た。あの日の敗北以降、シオンは1日足りとも研鑽を怠っていないのだから、当然だ。
「今回の獲物はハングリーウルフか。随分と運がいい」
また茂みが揺れている。他にも、探知に幾らか掛かっている。恐らくは魔術の影響なのだろう。魔力を求める餓狼がシオンへと牙を剥いている。
「さて…狩りの時間だ」
捕食者は、そんな危機的状況でさえ、楽しんでいた。




