34話 準備
翌日から、実践の授業時間は合同演習に向けての準備の時間となっていった。
私は狩る対象の魔獣について調べる担当になったため図書室を訪れた。
「魔獣図鑑は…あった。確か、ハングリーウルフだったよね」
こうして普通の要件で図書室に訪れたのはいつぶりだろうか。
最近はもう図書室=禁書庫になりつつあったのだから。
「えっと…体内に大きな魔石を持ち、魔力が少なくなると狩りをする。群れで狩りをする賢さはあるものの、凶暴性から統率は取れていない…」
随分使い古された図鑑だったため不安だったが、書き込みが至るところになされている。
これは中々に使えそうだ。
「ふーん、群れにはボスがいるけど滅多に顔は出さないんだ」
得た情報をレポートに書き記していく。こういう情報の書き写しは書記をやってたからか、かなり素早く出来るようになってきた。
リゼ先輩に感謝しなきゃ、だね。
ひたすらに図鑑と睨み合って、1時間程だろうか。誰かが部屋に入ってきた気配がした。
と思えば近づいてきている。思わずその方へ、私は顔を上げた。
「あれっ、セイル?」
セイルであった。他にも数人ほど、クラスの人が後ろに付いてきている。
「ルナ、順調かい?」
「大した情報は無かったよ。ニア先生が説明したことと、相違は無いかな」
言いながら、纏めた情報を手渡す。言葉通り大した内容ではない。
ここまで時間を掛けたけど、正直無駄足だったかもなぁ…
「それが分かっただけでも助かるよ。こっちの方で班分けは済ませた。それと班ごとの、リーダーも」
今度はセイルの方からメモ書きが渡され、目を通す。
私の名前は…あ、あった。ん?けど…これって…
「私とセイル、同じ班でいいの?自分で言うのもあれだけど…」
「それなんだけどね?ルナさん」
そこでクラスメイトが口を開いた。
薄い金髪に相反する青い目が特徴の女の子。確か名前は…
「レイナさん、だっけ?」
「うん、それで、理由なんだけど…一応、合同演習って、クラス内での魔獣の討伐数が主な評価になるじゃん?」
「そうだね」
クラス単位で順位を付けるものとは聞いている。勿論、個人での評価もあるみたいだがどちらかと言えば連携の面を見られるということだろう。
「だからその、魔術が得意な二人がメインで討伐して、他の班で誘き寄せれば…っていう作戦を立てたんだけど。ダメかな?」
要するに適材適所を活かした戦術ということ。元軍師の私からしても悪くない。
寧ろこれをより詰めていって、特定の地形の場所に罠を張ったりできれば完璧に近い。
「いいと思うし、やれるよね?」
セイルへ問う。この作戦においては、私とセイルが重要であるから。
「あぁ、僕とルナ…それに皆とならきっと」
彼らしい答えだ。もちろん、私も出来ると現段階の情報でさえ確信している。だから…再度、肯定する。
「乗り切ろう、皆で」
* * *
* * *
* * *
準備期間はあっという間に過ぎていく。元々一週間という短い期間だったのもあったが、きっと皆と研鑽を積む時間が楽しくもあったからだろう。
そうして気付けば…前日の夜に。
私は、改めてルリエナと対峙していた。確認したいことがいくつかあったのだ。
「明日、ルリエナも行くんだよね?」
「えぇ、特に兄様からの指示もありませんし、そのつもりですが」
「あ、それも聞きたかったんだよね。ほんとにヴェルトは何も企んでいないの?」
学園祭以降、ヴェルトからの指示は特になく、私はいつも通りの学園生活を送れていた。
だからこそ不安でもあった。何を企んでいるのか予想もつかないから。
「少なくとも、軍師殿にお伝えすることは何も」
「ふーん…そう」
それって…やっぱり、私には言えないことはあるってことだ。
初めの頃と比べて、ルリエナとも多少は仲良くなれた気がするんだけど…やはり私情で動くようなタイプではないみたい。
「ご安心を。必ずしや、軍師殿の正体がバレないように私も協力するので」
「…うん、ありがとうね」
少なくともその言葉は信じてもいいのだろう。
私の正体がバレず、ここで何かしらを果たせるうちはこの兄妹が私を切ることはないのだから。
「他に、何か不安が?」
「ううん。大丈夫。異能は使わずに、このままでいいんだよね?」
「はい。ですが万が一…無いとは思いますが。危機があり私の助けも得られそうになければ…その時は、任せます」
万が一…か。確かレインも懸念してたっけ。
でも三年も何も起きて無いんだし…大丈夫、だよね?
* * *
ルリエナと話した後、私は禁書庫を訪れた。明日のため、ヨルを迎えに来たのだ。
真っ白な図書館の本を読むスペース。そこに、見覚えのある灰色の髪が見えた。
全く、深夜なのによくやるよね…
「どうだった?うちのヨルは」
「…む、ルナか」
「深夜なのに何してん…の?…ヨル?」
「あぁ…」
私の視線は、自然とレインの本を持った方と逆の手に向いた。
なぜならば…そこで、ヨルが気持ちよさそうに眠りレインが背中の毛を繕っていたのだから。
「えっ…」
「…あらぁ?ルナじゃない」
私の声で目を覚ますヨル。その後でレインが撫でていることに気付くも特に言及はない。
「起きたか。迎えが来たぞ」
「ご苦労だったわぁ。ツンツン男」
そう言いつつ、私の肩にヨルが乗りかかった。
一体いつの間にやら、二人は打ち解けてしまったらしい。
「…迷惑掛けちゃった?」
「手伝ってはいた。飽きて寝ていたがな」
「ルナ。この人間、中々な手捌きよぉ」
…む、それは流石に聞き捨てならない。
まさかほんの数日一緒に暮らしただけでそんなに絆されるなんて!
「もう帰る。じゃあね、レイン」
「あぁ、明日は本番だろう。気を付け——」
私はレインが言い終える前に、その場を去った。
白い廊下を歩く中、私はヨルの鼻先を、指で突いて言う。
「…ヨル、ダメだからね」
「心配しなくても、私の一番はルナよぉ」
「全く…」
これで許しちゃう私って…ヨルには敵わないや。




