33話 学年合同演習
ユノとのおでかけがあってから数日後。
少しクラスの空気が変わっていることに私は気づいた。
何かピリついているというか、真面目な雰囲気なのだ。あんまりにもそうだから喋ることさえ躊躇われる。
「ねぇ、セイル」
理由を聞こうとセイルの方を向いたその時、教室の扉がガラリと開かれる。
…ニア先生だ。何やら資料の束を持って入ってきたのだ。
その面持ちはやはりいつもより厳しい。絶対何かがある。
「皆さん静かに。これから…大切な説明をします」
声音と言葉の重みからして予想は当たり。
資料が前の席から順に配られる。受け取った者は皆、神妙な面持ちをしていた。
そうして私にも回ってきたところで、ニア先生が説明を始める。
「今年もこの時期がやって来ました。…学年合同演習」
「学年合同演習…?」
聞いた感じ学年全体で何かをやるのは想像がつくものの、どうしてこんなにも暗い雰囲気になっているのか分からない。
楽しい行事では無いのかもしれない。
「今回も内容は例年通りテスペアの森での魔獣狩り。いわば実践授業の延長戦ということです。まぁ、ここまでの説明は、去年を乗り越えた皆さんも知っているでしょうね」
ごくりと、固唾をのむ音が静かな教室で聞こえた。ついに、この空気の理由が明かされるのだ。
ニア先生は一拍開けて、それを告げた。
「そして去年とは違う点であり、皆さんも気にしているであろう……落第についてです。配った資料の左下をご覧ください」
落第。何やら嫌な予感がしてならない。恐る恐る、視線を資料に落とし…
それが目に入った。同じ内容を、ニア先生が口にする。
「二年生での合同演習は、一年時と違い成績の振るわない者は落第。そして退学となります」
「…ほんとに?」
思わず、口から零れ出ていた。その重すぎるペナルティに。
クラスの雰囲気が一層重くなったのは言うまでもない。
…………
休み時間、私はすぐさまセイルに話しかけた。
あまりにも内容が重かったため本当なのか確かめたかった。
「セイル、さっきの話って本当なの?」
「…あぁ、だから最近は実践での訓練にも気合が入ってたみたいだね」
「それにしたって…退学なんて…」
重すぎる、そう言いたいのを察したらしく、セイルが首を横に振って言った。
「そうでもないんだよ」
「え…」
「ニア先生は一年時とは違う、と言っただろう?」
確かに言っていた。
私は最近編入したばかりであるため、実際にどう違うのかが分からないが、そこにセイルが納得する理由があるようだ。
「僕たちも来年は三年生。発現済であれば実際の戦地に赴くこともある…それほどに、授業が活発なものになっていく」
「だから…ここで、実力が足りないのは落とす…ってこと?」
「それもあるし、異能の発現を促す目的もあるんだろうね。」
確かに、危機に陥れば異能が発現しやすいという話は有名だ。教本にも書いてあるし、レガルト先生も言っていたはず。
…待って、つまりそういう危険があるってことじゃ…?
「実際、毎年二年の合同演習の時に発現する人が多いらしいからね。僕も…きっと」
セイルは決意を固めた表情で、呟く。
それは誰に言った言葉ではなく、自分自身を鼓舞したようなものだった。
「…私も、頑張ろう」
もちろん退学を逃れるため、というのもあるが…
セイル見ていると、こちらも頑張らなきゃって思えるのだ。
「分からないことがあったら手伝うよ」
「私も。セイルに頼りっぱなしは嫌だからね」
「期待してる」
フッと微笑むセイルに、私もつられて笑ってしまった。
この時はまだ、知らなかった。
——————この合同演習が、想像以上に過酷なものになるとは。
* * *
「——って、ことがあったんだよね」
「ほう…」
「だから、またしばらくここにはこれないかも。」
ここ——禁書庫への出入りは久々だった。学園祭前に来たぶりだから、大体一か月ぐらいは空いている。
レインは当たり前のように居たが、毎日飽きもせず暇なのだろうか。
「合同演習か…そうか、もう、四年も経つのだな」
「!」
そういえば、合同演習という言葉に何か引っかかっていたのだが…
いつぞやかのレインが話した親友との別れ話。その分岐点こそが合同演習だった。
「心配はない…とは言い切れないが、この三年間は少なくとも目立った異常はない」
「うげ…なんか嫌な予感」
「心配ないわぁ」
レインがその声に目を見張る。
そうだ、私が今回ここを訪れたのには目的があった。危うく忘れるところだった。
「何よその目ぇ、気に入らないわぁ」
「あの時の猫…」
その目的——改めて、ヨルを紹介という名の人手を増やそう作戦だ。
人の手じゃなくて猫の手だけど。
「落ち着いて。この子はヨル。えっと…私の家族」
「そうか」
「ルナ?この生意気なツンツン男…殴っていいかしらぁ」
どうやら相性が悪そうだった。連れてくるんじゃなかったかな…
「ダメだからね?お手伝い、してくれるんだよね?」
「ぶー…仕方ないわねぇ」
茶番はさておいて、本題だ。
「さっき、ここにあまり来れなくなるって言ったでしょ?せめて人手だけでもって思って」
「読めるのか?猫に?」
「読めるわよぉ。馬鹿にしてるぅ?」
「いや、他意はない」
実際驚いてたし、言葉通りなんだろう。というか、あまり嘘を吐くのが得意そうには見えないのだ。レインは。
だからヨルちゃん、いい子だからそのシャドーやめてねー
脇で抱えたヨルをそのまま抱き締め、レインに視線を向ける。
「信じれるかはこれから。さ、読もうか」
「…そうだな」
私が言うと、レインは椅子に座り本を広げる。
私も適当な本を2冊手に取り、レインと2つ離して座った。
ヨル、ちゃんと読めるかなぁ…?
「ねぇルナ。この椅子……少し低いわ」
見ればヨルは、机に顎を載せるのが限界なようで…
手伝う以前の問題だったかも。




