32話 ユノとおでかけ
「ふんふふーん♪」
意気揚々と、私は鼻歌を歌いながら朝の支度を済ませていく。
今日は週末。楽しみにしていたことがあるのだ。
それは昨日の生徒会業務の終わった後。いつものようにユノと帰路を共にしていた時。
私は意を決してユノを誘ったのだ。
…………
「…学園祭では迷惑かけちゃったよね。よかったらお返し、したいんだけど」
言われたユノは、ポカンと驚きを浮かべた後、慌てた様子でブンブンと首を横に振った。
「迷惑なんて…思ってないよ?前にルナちゃんも助けてくれたんだし当たり前、だもん」
「じゃあ、えっと…友達と一緒に遊びに行きたい、ってお誘いはどう、かな?」
その時のユノの綻んだ笑顔は、今なお鮮明に思い出せるほどに嬉しそうで、それ以上の言葉は必要無かった。
…………
「じゃあ行ってくるね、ヨル」
「はいはぁい……随分ご機嫌ねえ」
ヨルはまだ眠たそうに、くぁ、と欠伸をする。
また私の知らないうちに夜更かしでもしたのだろうか。
「今日はちょっと楽しみなことがあるの。あ、その兼ね合いで今日遅くなるかも」
「好きになさぁい」
見送りの為だけに玄関まで来たヨルは、踵を返す。
いけない、ゆっくりしてる場合じゃなかった。
おでかけのためにも、きっちり仕事を終わらせないとね!
* * *
「おはようございます!」
「おはよう、ルナ」
生徒会室へ向かうと、やはりシオンが居た。
相変わらず朝早くご苦労なものだ。
「君が朝にここへ来るのは珍しいね」
「えー……と、今日はちょっと放課後顔出せなさそうでして……代わりに朝のうちにやれることはやっておこうかなと」
「そうか。ユノと仲良くやってくれているみたいで何よりだ」
「えっ」
心臓が飛び跳ねた。なんでどうしてと聞くよりも先に、シオンが続ける。
「ユノも早くに来ていたからね。隣で仕事中だ。声を掛けてやるといい」
「はっ、はい……」
相も変わらず察しの良さは恐ろしい。だからこんなにも余裕たっぷりなのかもしれない。
それはさておき。私もさっさとやることを済ませてしまおう。
「…失礼しまーす」
ゆっくりと隣の部屋の扉を開ける。シオンの話通ならここにユノが……
「あ、いたいた」
部屋の隅っこに、ユノは座り真剣に帳簿を睨んでいた。
声掛けようと思ったけど、邪魔しちゃ悪いかな。
「……よいしょ」
さっとユノの隣に座り、私も自身の仕事に手を付ける。
今日はいつもの定例会議ぐらいで……その議事録の記入。後は引き続き、学園祭中でやった会議の議事録の整理……
「これは────で、えっと、あ、ここ間違ってる────」
ブツブツとユノの独り言が偶に聞こえて少し面白かった。
…………
「はひゅぅ…」
ユノはようやく一息吐き、肩をぐっと伸ばしたところで……私が真隣にいることに気づいた。
「えっえっ、あえ……?いつの間に……?」
「ふふ、驚いた?」
「こ、声かけてよ!」
「集中してるみたいだったから」
「……!」
無言の睨み。配慮してくれて嬉しいのと声をかけて欲しかったという気持ちがせめぎ合っている。そんな顔をしている。
「今日、楽しみだね」
「う、うんっ」
朝から良いものが見れた。今日はきっと……いい日になる事だろう。
* * *
放課後。私はセイルに一言「また明日」と別れた後、すぐに校門に向かった。
校門へ近付くと、小さな影が見えた。急いで出たつもりだったが待たせてしまったようだ。
「ユノ、お待たせ!」
「……!全然、待ってない、よ」
私を見た途端、ユノの目が輝いたように見えた。
ユノも楽しみにしてくれている。それが1層実感できて楽しみで溢れそうになる。
私が誘ったんだから……リードしなきゃ。
「そう、よかった。今日は絶対に楽しめるプランを考えてきたから任せて!」
私とユノは制服のまますぐ近くの街へと出る。
少し浮いている気もしなくはないが、制服で友達とおでかけって…やってみたかったのだ。
「時間は限られてるんだし、さっ行こう!」
「わっ…」
ユノの手を引き、街を歩きだす。楽しいおでかけの始まりだ。
…………
最初に訪れたのはいかにも怪しげな裏路地にあるお店。
店の前には煙を噴き出しているポットや、ピカピカと点滅する丸い石が羅列している。
「ここって…」
「魔道具店。そしてここは数ある中でも珍しいのが置いてあるんだって」
ゆっくりと扉を開き、中へ。
扉も中もすべてが木造建てだ。そのせいか、入ると独特な香りが漂ってくる。
「ここ、入って大丈夫なの…?」
「うん、一応昨日下見に…」
「いらっしゃい…ちっ、なんだい。昨日のガキじゃないか」
入ってすぐ、店長の老婆に悪態を突かれるが気にしてもしょうがないだろう。
多分、昨日何も買わずに出たのを恨まれてるんだろうね…
私は老婆の言葉を無視して、台座に並べられている魔道具に目を通す。
「あ……聞くの今更なんだけど、魔道具とか、好き?」
好みじゃないかもしれない、そう思って尋ねたのだが……不安はすぐに払拭された。
ユノはどの魔道具を見る目もキラキラしていて、夢中になっていた。
「聞くまでもなかったかな」
「…?何か言った?」
「なんでもないよ。良さげなのは見つかった?」
「どれも良くて……うーん……」
せっかくだから、気にいるものがあれば買おうと思っていたのだがユノはひたすらに頭を悩ませている。
そんなユノを見兼ねたのか、はたまた別の理由があったのかは分からない。
老婆が口を開いた。
「2つ買えばどっちも半額に負けてやる。どうだい?」
「買いますっ!」
きっと、こんなにハキハキ喋るユノは滅多に見られないだろうな…
…………
場所を移し、食事処に。
「えへっ、えへっ、えへ…」
ユノが、テーブルに置いた魔道具を眺めて楽しそうに笑う。
正直、私には魔道具の善し悪しはあまり分からないが…満足してくれたみたいで何よりだ。
「そ、それで良かったの?」
「うん!というか…こんな旧式のもの、最近は売ってなくて、それで──」
本当に、何よりである。
ユノは好きな物には夢中になるタイプなんだろう。
「…ふふ」
「ルナちゃん?」
「なんでもない。早く食べよ。冷めちゃう」
「うん、でもこの説明だけ聞いて欲しくって────」
そして夢中になると歯止めが効かなくなる、というのもメモしておこう。
私はうんうんと頷きながらも、1口目を口にした。
「あ、これおいし…」
* * *
その後も様々な場所を巡った。
カフェや服屋みたいなお洒落な場所や、いかにも人の街らしい露店街だったり。
どこも、魔族の街とは違う活気と明るさがあった。
「……そろそろ暗くなってきたね」
既に街灯が明るくなりつつある。直に人による明かりは全て消えていくだろう。
「今日は、楽しめた?」
「えっと…ルナちゃんはどうだった?私、振り回しちゃったかもって…」
不安そうに言うユノ。私は当たり前に首を振り、告げる。
「楽しかったよ。ふふ、色んな意味でね」
「…?」
真面目に仕事に取り組む顔や、人前で喋ろうとして詰まるところ。普段見る顔とは違ったものを見れて本当に楽しかった。
これが友達と遊ぶということなのかとも、知れたしね。
「よく分かんないけど…私も、楽しかった。また…遊ぼうね?」
恐る恐る、といった様子で言われた言葉に、私はすぐさま頷く。
「もちろん。また、行こう」
次がある。その期待と、今日の満足感。そのふたつでいっぱいの中、私はユノと共に帰路へと着いた。




