31話 異能なき天才
楽しかった学園祭は終わり、いつもの授業が戻ってきた。
今日は毎週恒例の実践魔術授業。外に出て、魔術を使った競技を行う唯一身体を動かす時間だ。
「今日は何の競技だっけ?」
「どうやら前回と同じく、一騎打ちみたいだね」
「えー…また?」
最も最近は、どうしてか純粋な一対一が多く、正直気が進まない。
私は一応魔術の扱いもマスターしているし、実際に戦場に出た経験もある。授業でしかやったことのないクラスメイトに負けるはずもない。
「前回のルナは随分と…凄まじかった」
「見てたの?セイル」
「僕は相手が中々決まらなくてね。でも、今日でそれも終わりらしい」
セイルの言葉に首を傾げる。が、その答えはニア先生によって明かされた。
それは今日の対戦相手の発表。
『セイル・ルミナス対ルナ・メモリア』
「ぜひとも相手をお願いしたい」
「…本気ですか?」
ニア先生はがっしりと、私の肩を掴んで微笑む。
あっこれ逃げられないやつ…
「頼んだよ」
「はぁい…」
* * *
なぜ私がこうも渋ったのか。それはセイルとは仲がいいというのもあるが、セイルの実技をこれまでの授業で見ているからだ。
簡単に言ってしまえば、魔術、剣術ともに発現済のクラスを込みでトップの成績なのだ。
そのせいもあって、クラスの誰とやりあっても試合にならず私と同じような状況に…
「あ、だから私…」
「まさかルナに対人戦の心得があったなんて」
とんだ勘違いだがもう訂正も面倒だ。決まったことだし、やるからには全力だ。
「制限は無し、範囲外に出るか、魔力切れを起こした方の負けだ。準備はいいかい?」
「「はいっ」」
「それでは…はじめっ!!」
ニア先生の合図で、試合が始まる。
…………
ニア先生が合図として、右手を縦に振り上げた。
と、同時に私は2つの魔術を展開する。
風属性の攻撃と防御結界。不可視の斬撃をセイルへと向ける。
このクラスの大半はこの最初の二重展開の時点で追いつけなかった。が…
「流石だね。ルナ」
「なっ…」
声がしたのは眼前から。一瞬消えたのかと思ったがそうじゃない。尋常でない速さで、体制を完璧に低く鋭くすることで魔力の塊を超えて動いたのだ
「ルナの試合は見ていたからね」
シオンが最高速を出した時と同じぐらい。その域にセイルは魔術のみで辿り着いている。
本当に彼に無いものは『異能』という才だけなのだと身に染みて理解する。
「近づいてっ、どうするの?」
この模擬戦における結界の範囲内では物理攻撃は禁止されている。明確に言えば、魔力を介さない攻撃なのだがそこは省こう。
幸いにも私は念のために防御結界を展開していたため、セイルの攻撃には対応出来る。
そのため警戒するのはその次の攻撃を…
「絶対的な防御を破るためのコツは二つ。一つ目は振るう瞬間。魔力を増幅させることだ」
「えっ」
嫌な予感。と同時、セイルは右手から光の魔術によって剣を編み出す。
ここまではよくある手法。ただ今展開しているのは対魔術に特化させたものだ。そう簡単に打ち破れるわけがない。
それこそそんな芸当、シオンじゃないと…
パキッ。
「へっ」
「そしてもう一つは…衝撃を二段階に分けることだ」
待って魔力がまた膨れ上がって────
* * *
寝る前。ルリエナも居なかったため、私はヨルと戯れていた。
「ねぇ、聞いてよヨル~」
「暑苦しいわぁ。離れなさい」
「いいじゃん。私とヨルの仲でしょ…よいしょ」
ブツクサ文句を言う割に満更じゃないのは知っている。改めて、抱きしめていたヨルを膝に寝かせる。
「何か嫌なことでもあったのかしらぁ?」
「…セイルに模擬戦で手も足も出ずに負けたの」
「あぁ…あれは魔術だけじゃ厳しいわよねぇ」
それもあるのだが、異能を使っていても勝てるか怪しいと思った。
あれにまだ伸びしろがあると考えると余計にだ。
「冷静に魔術だけで異能と同じぐらいの出力に追いつくって…おかしいよね」
「あれは世界に愛されてるみたいだもの。仕方ないわぁ」
「なにそれ?…でも確かにね」
所謂天才、その上努力家なのだから愛されてるというのも頷ける。
「あれと戦おうとはしない方がいいわぁ」
「授業じゃなきゃやらないよ。友達だもん」
「友達ねぇ…」
何やら意味深な目をしている気がしたが、すぐにいつもの和やかな表情へと戻り、笑う。
「そろそろ寝た方がいいんじゃないかしらぁ」
「ん…そうだね。」
時計を見ればいつも寝る時間に。
今日は魔力を大量に使ったし、疲れもある。すぐに眠れそうだ。
「じゃあ今日こそは抱き枕になってくれる?」
「やぁねぇ……って思ったけど、今日は肌寒いしいいわぁ」
「やった、ヨル大好き!」
心地よい黒の毛玉に顔を埋め、私は眠りにつくのだった。
少しひんやりしてる………
* * *
「世話の焼ける子だわぁ」
のそのそとルナの腕の中から抜け出しつつ、ヨルは呟く。
つい一週間前までは随分とシオンの言葉を気にしていたものの、ようやく落ち着いてきたように見える。
姉として、一安心だ。
「今日はお散歩日和ねぇ」
窓を開け、屋根を伝って満月の下を歩く。
やはり少し肌寒い。季節が移り替わっているのを感じた。
そうして歩く中、いつものとある場所でヨルは足を止めた。
「…まだまだっ!」
ブゥン!!、と大木でも斬り落としたんじゃないかと勘違いするほどの風を切る音。
「今日も夜遅くまで…どこにそんな体力があるのかしらねぇ」
その音を発生させた人物を見下ろす。
手に光の魔術で編み出した剣を持ち、ブンブンと素振りを繰り返すその者こそ、先ほどのルナの話で出ていたセイル・ルミナスだ。
彼を見つけたのは何も今日が初めてじゃない。何度も散歩に出るたびに見かけているのだ。
「初めて見た時は驚いたわねぇ。ルナはきっと忘れちゃったんでしょうけど…あの方を倒した勇者に似ていた」
何が、とはどうにも言い表せない。ただ見れば見るほど吸い込まれてしまいそうな、そんな底知れないものを感じさせてくる。
「…アンタがルナに手出ししないうちは、勘弁してやるわぁ」
本来ならば脅威になりかねない存在。しかし同時にルナが気に入っている友達でもある。
妹の悲しむ顔など、もう見たくないのだ。
「……そろそろ、帰るわぁ」
一つあくびをしながら、ヨルは帰路へとついた。




