27話 交錯する思惑
この夜、ルナとシオンが対峙する一方。もう1つ…禁書庫にて、魔族と人間が対峙していた。
「こんな真夜中に何の用だい?会長さん」
「貴様…魔族だな?」
「流石だ。もうバレた」
ヴェルトはあっけらかんと笑いながら、本を読む手を止める。
先客気取りで言ってみたものだが、やはり噂に違わぬ慧眼の持ち主であった。そのことに、ヴェルトは歓喜する。
情報がズレないこと、ヴェルトはそれを最も好むから。
「なぜここが分かった?」
「有能な内通者がいるんでなぁ」
「…それは…そこの小娘か?」
「っ!」
刹那。レインの言葉と共に事態は動いた。
レインは突如として、ヴェルトの対角線上にある本棚へと、魔術を放ち──────────
そこへ待機していたルリエナは、一瞬にしてレインとの距離を詰め首元へと手をやった。
「兄様、折りますか?」
「っ…」
「まぁ、待て」
幾ら居場所が分かり、幾ら強かろうとも…最も人魔戦争中に人を殺した魔族は伊達じゃない。
それも現役で、その記録を上塗りし続けていると来た。相手が悪いなんてもんじゃない。
「さて、会長さんよ。別に俺はあんたに敵対しようって思ってるわけじゃない」
「何をっ…言っている…」
「アンタは、目的のために動いている。俺たちもそうだ。その上でこの学園はどうなってもいい。そう思っているはずだ」
レインに、あの冷徹無比に思われる勇者学園会長に緊張が走る。
ヴェルトは、ゆっくりと歩み寄り、耳元で…告げる。
「あんたの──────は──────。だから…ルナ・メモリアを頼り、代わりに手伝え」
レインの顔が、引き攣った表情になった。だがすぐさま、疑問を口に出す。
「くっ…はっ、やっぱり…あいつも…いや、あいつが…」
「今回は、あいつとお前への警告。ついでにこき使われそうなお人好しのために盤面を整えに来た。もういいぞ、ルリエナ」
「…あまり図に乗るなよ、人間」
乱暴に、ルリエナがレインを地に投げつけ、更には腹部へ蹴りを打ち込む。
相当イライラしているらしい。真夜中に、よりにも寄って大嫌いな兄にこき使われているのだから。
「さて…あいつは上手くやってるかねぇ…?」
ヴェルトは禁書庫の入口へと手をかけ…そこで、ピタリと止まった。
そしてごそごそと、自身のポケットから魔石を取り出した。
「兄様?」
「あー…なんか嫌な予感がする。やっぱ置いとくか」
「…心配性ですね」
「うるせぇなぁ」
ルナは恐らく動いていることだろう。ただ、ヴェルトにはどうにも嫌な予感が拭い切れなかったのだ。
この選択が…ヴェルトの計画を成功へと導くことは、まだ誰も知る由もない。
* * *
シオンが、剣を抜いた。1歩、1歩とこちらへの距離を縮めてきて、残り3歩程の距離感になったその時。
「しぃ…」
1呼吸、後────────一気に踏み込んだ。
バァン!!
鉄と、それよりも硬いものがぶつかった鈍い音が廊下中に響く。
「あぶなっ…」
「ほぅ…速さには自信があるんですがね」
剣先が頬を掠める寸前、防御結界を忍び込ませた。
踏み込みは見えてはいたけど…結構ギリギリ…
「ヨル!」
受けに回ればいずれ負ける。ならば攻めの手を取らなければ。
「2対1でも卑怯とは言わせないわぁ?」
フードの内側から、隠れていたヨルが飛び出た。
シオンは少し驚きを見せたものの、すぐさま剣を構え直す。
「守りは私が、ヨル…死なない程度に」
「言わなくても伝わるわよぉ?」
「言った方がそれっぽいでしょ」
シオンが再び踏み込む。その瞬間を私は見逃さない。
防御魔術を構築しながら、ヨルへの魔力を供給していく。
「ここっ!」
「ちっ…」
バァァン!!
またも、同じような展開。今度はそこで終わることはない。
「隙ありねぇ」
ヨルの額が、黄色く光る。その瞬間、猫の腕が影に覆われ巨大な爪となる。
勢いそのまま、私の頭上から爪をシオンへと振るう。
「猫風情で仕留められると?」
「あら、こんなにも熱烈に誘っているのに拒否するのかしらぁ?」
爪と爪の合間、そこへ剣を差し込むことでシオンは爪撃を回避。
1人と1匹は妙な視線で睨み合う。
ヨルでも…あまり有効打にならない?
「生憎、そう簡単に乗るほど軽くないからね」
「わっ…あぶなぁい!」
「分かってる…!」
シオンが剣を地に、一気に引き込む。するとヨルの体勢が崩れ、宙を無防備に舞うことに。
バァァァン!!
しかしその隙は私が潰させない。絶対に、絶対だ。
ヨルが私の足元へとスマートに着地する。
「どうするのぉ?ミアを呼ぶ?」
「それもありかな……いや、その必要は無いのかも」
「クソッ…外した…」
若干、シオンの息が上がっている。この戦法を続ければいずれは…
「あー…めんどくさいな」
「…へ?」
一瞬、誰の言葉か分からなかった。遅れてそれが、シオンの言葉だと理解する。
シオンは右手で前髪を乱暴に上げて、ギラギラと輝く眼光をこちらへ向ける。
「そもそも…そうか、違和感があったんだ。お前ら、魔族だよな?」
そして…手の甲に、光を灯す。
獰猛な牙を牙を持つ獣を模した紋章。
異能を使用したことを示していた。
「本気にさせちゃったみたいね」
「どっ、どうしよ…」
「やるしかないわぁ」
悠長に言う相棒に1層危機感が高まる。
本当にどうしたものか。まずは相手の手の内を知って…
「幾ら姿形は変えられても、魔力だけは嘘をつけない。それが残酷であり…僕らが違う生き物である証明だよ」
「えっ」
その声は、真正面、それも息が当たってしまいそうな距離で聞こえた。
見えなかった。何も。瞬きの間で、間合いに入られて…る?
「しっかりなさいっ」
ヨルが広げた翼に影を覆い、剣撃を受止める。
ゴキリ。嫌な鈍い音が響く。
「かっ…っ離れなっ…さいっ!」
それでもヨルは折れず、もう片翼で反撃を放った。
「もう当たることはないよ」
当たり前のように言ってのけ、実行。何か特別なことをした訳じゃない。翼が当たるよりも…否、放たれるよりも先に、その場を動き出していた。
ヨルが潰れた以上、次に狙われるのは私。
「っ!」
防御魔術…間に合って…!
流れるような剣が、再び魔力の障壁へとぶつかった、その瞬間。
パリン。
「嘘…」
「嘘じゃないさ」
シオンの剣閃が、私の防御魔術を打ち砕いていた。
その顔は…いつも見る、何を考えているか分からない顔で、私は底知れぬ恐怖を思い出して…
「させないと、言っているでしょぉ!」
「ヨルっ…?」
遅れた私の代わりに、ヨルが間に割って入り────
「哀れだ。弱さは罪とよく言う」
その静かな殺意を込めた一撃は、小さな体を容赦なく断ち切った。




