23話 セイルの妹
あれは確か、ルナが編入したその日だったはず。
「セイルは趣味とかある?」
「お菓子作りかな。妹によくあげててね」
その程度でしかないものの、存在は教えられていたことを思い出した。
* * *
学園祭なら家族が来てもおかしくは無いし、寧ろ大抵の来客は地域の人か、生徒の縁者がほとんどだ。
「セイルの、妹さん?」
「はい、ルーシアと申します。兄は2年1組だと聞いているんですけど…」
「ちょ。ちょっと待ってね」
一度会話を切り、私はミア先輩に尋ねる。
「あの」
「聞いてたよ。連れてったげなー」
「いいんですか?」
「大分ピークは過ぎたんだし一人でも回せるよ。それにもうすぐお昼なわけだし、ルナちゃんのお仕事は妹ちゃんを連れて行っておしまい。オーケー?」
何やら楽しそうな目をしている気がするんだけど…
まぁいいか。セイルの妹でなくても、大事なお客さんであることに違いは無い。
「待たせてごめんね。どの辺にいるか分かんないから、一緒に探そうか」
「はい、ありがとうございます。えっと…」
とても言いづらそうにモジモジと…
なんだろ?と首を傾げると申し訳なさそうに彼女は口を開いた。
「あの、名前…」
「あっ、私はルナ。ルナ・メモリア。セイルと同じ生徒会に所属してるんだ。よろしくね」
「ルナさん…!よろしくお願いします!」
さーて、今日一の大事なお仕事頑張りますか!!
* * *
「セイル、どこ…?」
意気揚々と出てきたは良いものの、全くもって会える気がしない。それに他の生徒会の面々にも遭遇しない。
「今日はみんな忙しいからなぁ……」
「ご、ごめんなさい」
「ん?」
隣を見ると、ルーシアが申し訳なさそうに俯いていた。
「私のために探してもらってるのに……」
「あー、そういうこと」
思わず苦笑する。
「気にしなくていいよ。むしろ私も探したくなってるし」
「そうなんですか?」
「うん。なんかね、ここまで見つからないと意地になってくる」
そう言うと、ルーシアは小さく笑った。
…意地になると言ったばかりだが、あんまり待たせちゃ悪いし奥の手を使おう。
「…ちょっと待ってね」
人気のない、踊り場へ移動する。そしてそこで…
「『ヨル、ヨル、今大丈夫』?」
『なによ?わざわざ魔術を使って話し…その子は?』
ヨルに、魔術を使って声を掛ける。流石に姿を見せる訳にはいかず影からは出せないが、多少なりとも力は使えるはずだ。
「『ヨル、セイルを探してほしいの。この子は妹さん』」
『もぉー、仕方ないわねぇ』
なんやかんや言いながらも手伝ってくれるヨル。
ひとまず、階段を登った所でヨルがこっそり影から出るということに。
「よし、これで大丈夫。そのうち見つかると思うから…少し回る?」
「そうなんですか?…その、ルナさんがいいなら、一緒に回りたい、です」
「もちろん。じゃあ行こう」
手を引き、階段を登る。それが合図だった。
『見つかったらノノを呼ぶわねぇ』
「『ほんとにありがとう!!ヨル…!』」
やっぱり持つべきものは、優秀な相棒なんだなぁ…
* * *
「串焼き2つ」
「まいどありっ!」
香ばしい匂いが漂う廊下。正に祭りと言った、食堂の出店だった。お昼のちょっと前に来たのが功を奏してかなり空いている。
「はい、ルーシア」
「えと、いいんですか?」
「ここまで付き合わせちゃったしね」
1つ、ルーシアに手渡す。ルーシアが小さなひと口を食べたのを見てから、私も口に放る。
お肉柔らか…それにタレも美味しい…!
「美味しいです」
「よかった」
「お姉さんと皆の分も、買ってきていいですか?」
「皆?」
「孤児院のみんなです」
少しだけ胸を張るように言う。
「今日は来られなかった子もいるので」
…優しいところ、そっくりじゃん。
「いいと思うよ」
「ありがとうございますっ」
ルーシアは嬉しそうに、再び串焼きの列に並んだ。
…………
「ほほぉ、勇者の歴史を知ることのできる、『勇者の間』。よく来たねぇ」
「あ、あはは…」
「あの、ルナさん…」
分かってる。ルーシアが言いたいことは。
今訪れたのは教師陣の出し物である、勇者の歴史の展示だ。なのだが…あまりにも人がいない。
説明役を買って出たであろうレガルト先生があからさまにしゃんぼりしてるもん!!
「チミら、興味を持ってくれてありがとね」
「はい」
気まずいが、勇者について知るいい機会だ。何かまだ調べてない情報もあるかもしれない。
「好きに見てって。分からないことがあったら答えるからねぇ」
そう言われたため、私とルーシアは好きなように展示を眺める。
「わぁ……」
展示を見たルーシアが小さく声を漏らす。
見ているのは…つい最近、見た名前の展示だった。
「始まりの、勇者様…!」
「…勇者、好きなの?」
「はいっ!特にこの方は兄の憧れだと…!…かっこいい…!」
明るく、キラキラした目で展示を見つめるルーシア。
ルーシアって大人しいけど、たまに年相応の顔をするんだよね。そこも可愛いんだけども。
「あの、ルナさん」
「なに?ルーシア」
何枚目かに入った頃、ルーシアがまた口を開いた。
「兄…お兄ちゃんは、しっかりしてますか?」
「セイルが…?まぁ、そうだね。よくやってるなぁって、思うけど?」
生徒会での頑張りようもそうだし、授業だって彼は1つたりとも手を抜いたりしていない。
敢えて調整している私とは大違いだ。
「そう、なんですね」
「…何か気になることがあるの?」
「!いえいえっ!ただその、お兄ちゃんが無理をし過ぎないか心配でっ…あっ!」
言い訳をするつもりだったのだろうが、全部漏れていた。 思わず口を抑えていて可愛らしい。
なるほど確かに、あのタイプはやる気だけで幾らでも動くからルーシアの言っていることはよく分かった。
「…心配は分かるし、すればいいと思うけど、セイルはそんなヤワじゃないよ」
「ほんと、ですか?」
「うん、少なくとも私が編入してからのセイルはずっと…強そうに見えた。1番、勇者らしかったかな」
「その、学園でのお兄ちゃん、どんな感じか聞いても…」
「仕方ないなぁ」
学園で見てきたセイルの姿を思い浮かべる。
真面目で。誰よりも努力家で。そして少しだけ無茶をする人。
話すことには困らなさそうだ。
…………
『ルナー、ルナー、見つかったわぁ』
「それでね、その時セイルが…」
「はいっ、はいっ!」
『ルナっ聞きなさいよ!』
頭の中が急にキーンと響く。いけない、ヨルのことすっかり忘れていた。
「『それで、どの辺にいるの?』」
『真ん中のでっかいとこ』
…と言えば、劇をやるホールだろうか。
流石ヨル!お手柄だ。
「『ありがとう、ヨル』」
『ご褒美には干し魚を所望するわぁ』
仕方ない、後で用意するとしよう。
私はくるりとルーシアの方へ向き直る。
「話の途中でごめんね?セイルの居るとこ分かったから行こうか」
一瞬。
ルーシアの目が大きく見開かれた。
「ほんと、ですか?」
「うん」
「……よかった」
心から安心したように胸を撫で下ろす。
それを見て。
正直、セイルが羨ましくなった。こんなにも愛されているんだと知って。
「行こうか」
「はいっ!」




