22話 学園祭1日目
フニフニと、頬を何かが撫でた。それと共に、私に起きるように促す声。
「起きなさーい、ルナ」
「んー…あと5分」
「遅れるわよぉ?」
遅れるのは…ダメだ。仕事がこれからいっぱい待ってるんだし、約束も…でも、眠い。
「…あら?誰かしらこんな早くに。扉の前に人がいるみたい」
「……ヨル、今何時?」
「よく分かんないけど、時計は7の針を指してるわね。確か、その時間から動くんでしょう?」
そう言ってたわよね?私ってば賢いと言わんばかりにヨルの鼻息が聞こえた。
……ん、待って?
「やばい集合時間過ぎてる!?」
飛び起き、自身の目で確かめてもやはり時刻は7時。既に集合時間を回っている。
ヨルに伝え方間違えてた!ぐぅぅ…
急ぎ飛び回るように着替えを済ませ、その他の支度も始める。しかし、頭の中ではなんと謝ろうかとばかり考えてしまって思うように進まない。
その時だった。コンコン、と控えめなノックが聞こえてきた。先程ヨルの言っていた来客で、恐らくは遅刻しているルナを呼びに来たのだろう。
「ルナちゃん、大丈夫、ですかー?」
「ユノ…!ごめんちょっと待ってて!急ぐから!」
「う、うん、ゆっくりでいいからね?待ってる」
あぁもう最悪!なんで当日にこうなるの!!??
私のバカー!!
* * *
生徒会の部屋に着くと、待っていたのはシオンだけだった。
会議をすると聞いていたから…相当遅刻しちゃった?
「朝早くに悪いね、ルナ。ちょっとトラブルがあったみたいで」
「えっと、遅刻したのは…」
「そこはいいさ。それよりもこれ」
あれぇ…?まぁいいや。間に合ったんなら。
シオンから手渡されたものに目を通す。蛇腹折りにされているこれは、学園祭の案内だろうか?
「ちょっと各所で抜けがあるみたいでね。リゼが手伝いに回っているんだ。だから半分でいいから、受付の仕事を手伝って貰えないかな」
「抜けって、大丈夫なんですか?」
「午後までには何とかするって。リゼのことだ、心配は要らないよ」
「そう、ですか…分かりました」
つまるところ午前中は受付の仕事を、午後からは予定通りということになる。
ユノに手伝うって言ってたけど、手が空きそうにないし仕方ないか。
「一応仕事内容の確認をいいですか?」
「もちろん、まず来客時には───────」
…………
受付、という仕事は多くの人と対面する。そのため、少し寝癖を直してから私は受付へと向かった。
「ミア先輩も受付だったんですか」
「そうだよ?代理はルナちゃんか」
「はい…ミア先輩がいるなら心強いです」
なんだかんだ言ってこの人も先輩であり、生徒会としての学園祭を経験している。フォローを期待してもいいだろう。
「そんなに気負わなくていいよ。わかんないことあったら聞いてくれればいいし」
「ありがとうございます」
いつも通り、あっけらかんとしている。
私も私に出来ることをしっかりやらないとね!
『これより、第130回勇者学園学園祭を始めます』
ミア先輩と駄べりつつ、準備をしていると放送クラブによる放送が校内に響き渡る。
それから少し遅れて、学園の正門が開いた。
ようやく、生徒会の仕事が始まるのだった。
* * *
「身分と名前をそちらに書いて、そちらの案内と名札をお取りください!」
「ありがとうね、お嬢ちゃん」
「いえいえ」
もう十数度は繰り返した文言に、そろそろ口角が疲れてくる笑顔。
受付、正直簡単だと思ってたけどずっと立ちっぱだしキツイ!
「ルナちゃん、だいじょぶー?」
「えっと…はい」
「ほんとに?」
人の波が少し止まる間にこうやって聞いてくれるのは有難いが私が抜けるとミア先輩への負担が倍になる。
午後までの勝負だ。今一度気を引き締めるため軽く頬を叩いた。
「そろそろ余裕出来ると思うからもう少し頑張って」
「はいっ!」
…それにしてもミア先輩は余裕そう?どんな感じにやってるんだろ。
気になり、手を止めずにチラリと観察してみる。
「はいここに名前書いて。あとこれとこれ。こっちが案内でそっちは名札。無くしたら出れないから気を付けてね」
なるほど、促すんじゃなくて自分から手渡しで…
「えっと…クラウディス?あぁ、3年3組のクラウディス君のお父さん?いえいえ、顔見知りってだけですよ!3組の教室は階段を上がって1番奥の教室ですねー」
加えて雑談も交えつつ…?
というか情報網が凄くない?今の人だけじゃなく、他の人も何かしらの縁が分かれば教室を案内している。
聞かれて答える手間を省いているんだ。
…ミア先輩って、もしかして優秀なの?
「ルナちゃーん、なんか失礼なこと考えてるー?」
「そんなわけないじゃないですかぁ」
「ふーん、じゃあ手止めないように。次来てるよ」
「えっ」
いけない。少しミア先輩に気を取られていた。
でもでも、参考になる部分は結構あったし私もあんな感じで行くとしよう。
視線を前に向けると、10歳くらいに見える茶髪の目立たない感じの少女と目が合った。
…なんか、どこかで見た覚えがある気がするんだけど、気のせいかな?
「勇者学園の学園祭へようこそ。今日は一人で来たの?」
「いえ、お姉さんと一緒に…先に受付しててって言われたので」
そう答える少女に案内と名札を手渡す。
……不思議だ。
初めて会ったはずなのに、どこか親しみを覚えた。
その上髪色も顔立ちも、特別目立つわけでは無いのにどこか引っかかる。
それも何故か、見ていると少し安心するような感じがして。
「……」
少女は案内を握ったまま、その場に立ち尽くしていた。
「どうかした?」
少し屈んで目線が合うようにして尋ねる。
何か困っている。ここはミア先輩を見習って、だね。
「え、えぇと…」
すると、少し躊躇ったように、しかし意を決して口を開いた。
「あの、お兄ちゃん…セイル・ルミナスは何処にいますか?」
…もしかして、この子…




